約1週間前、東京国際映画祭が終了しました。今年は例年にないくらいの本数を見る事ができたのですが、その分、ハズレを引くことも結構ありました。特にコンペティション部門は本来映画祭の花形であるべきなので、もっと作品を厳選してもらいたいなと感じずにはいられませんでした。東京サクラグランプリを受賞した「もうひとりの息子」は未見なのですが、マスコミの間ではかなり早い段階から受賞の確立が高いと噂されていました。もちろんその作品の出来が良いからなのですが、票が割れるくらいの秀作が揃う事が本来望ましいはず。もっともっといい作品はあるはずなので、スタッフには世界中を駆け巡って良作を探してもらいたいものです。
そんな中、自分的に素晴らしいと感じたのが、ワールドシネマ部門で上映された『インポッシブル』です。スマトラ沖の津波を描いたこの作品。前半は突然津波に呑まれた主人公一家の悲惨な状況が延々と続くので、日本で上映するにはまだ早いかもという気になりますが、大災害を正面から描き切った姿勢は驚くべきものがあります。津波をギャグにしてしまうようなことは、これを見たら絶対できません。後半は生き残った家族がどうやって再会するかに描写を絞っているので、パニック映画としての広がりは乏しいと感じる人もいるでしょうが、十分力強い作品です。こうした題材なので、日本公開は簡単にはいかないでしょうが、いつか陽の目を浴びてもらいたいものです。
もう一本はアジアの風部門で上映された『ブワカウ』です。フィリピンから来た本作は、70歳のゲイの老人を軸に、老後の過ごし方を考えさせる一本となっています。ブワカウというのは主人公が飼っている犬の名前で、“がっつく”という意味のようです。監督はまだ40歳の若手ですが、人生を見つめる視点は優しく、暖かいものがあり、映画を見ている間、もっとこの世界が続いてもらいたいと思えたくらいです。場内でも笑いがこぼれ続け、昨年の「最強のふたり」と同じような雰囲気があったことも強調したいですね。(飯塚克味)