2018/06/15 up

ベストセラー原作は、ドラマ版も映画版もそれぞれに味わい深い

「関ヶ原」6/16(土)よる8:00ほか

 池井戸潤の小説『空飛ぶタイヤ』が長瀬智也主演で映画化され、公開中。池井戸はいま、もっとも映像化作品の多いベストセラー作家の一人だが、『空飛ぶタイヤ』はかつて仲村トオル主演で連続ドラマ化もされている。このように優れた小説は、スタッフとキャストがそれぞれ別の布陣で映画化、ドラマ化されることが少なくない。山崎豊子の『白い巨塔』は田宮二郎主演の映画版(66)が有名だが、その後、田宮主演作も含めてなんと4度にわたりドラマ化されている。特に2003年の唐沢寿明版は、いまなお多くの人の記憶に刻まれているだろう。'17年に岡田准一主演で映画化されてヒットした、司馬遼太郎の『関ヶ原』は'81年に加藤剛主演でドラマ化されている。髙村薫の『マークスの山』や横山秀夫の『半落ち』は、映画、ドラマの順で、やはりスタッフとキャストを一新して製作された。

 横山と言えば、近年の代表的な"競作"に『64(ロクヨン)』がある。ドラマ版は主演、ピエール瀧の存在感を軸に肉厚の物語を骨太に構築し、第70回文化庁芸術祭賞のテレビ・ドラマ部門で大賞を受賞した。一方、映画版は佐藤浩市を主人公に据えた2部構成となって群像劇の趣が強まり、ラストは瀬々敬久監督(『友罪』ほか)が原作にひとひねりを加えており、興行的にも成功を収めた。

 長尺の小説はエピソードや描写を細やかに紡ぐことができる連続ドラマと確かに相性がいい。一方、時間的な制約のある映画は時間の圧縮と空間の配置、すなわち小説の世界観を俯瞰するセンスがより必要となる。どちらにすべきということではなく、メディアの特性が異なるからこそ、"輝かせ方"も違って当たり前なのだ。たとえば、'06年に山田孝之と綾瀬はるかの顔合わせでドラマ化された東野圭吾の『白夜行』は、キャラクターのありようにぴたりと寄り添うことで感涙を呼んだが、堀北真希と高良健吾を迎えた'11年公開の映画版はハードボイルドな色彩が強まり、まるで古典的名作戯曲に接するような感触が衝撃だった。同じ悲劇的なストーリーを見つめても、ドラマと映画ではここまでフォルムが変わるという好例である。

 角田光代の『八日目の蟬』『紙の月』も、ドラマと映画では印象ががらりと変わった。前者のドラマ版は檀れい扮する"誘拐犯である母"の視点で描かれたが、映画版は井上真央演じる"誘拐犯に育てられた娘"が主軸となっている。どの登場人物にスポットを当てるかで映像化は異なる達成を見せるし、一つの小説から多様な可能性が生まれるのだ。後者では、原田知世主演のドラマ版が原作の雰囲気を踏襲した人間ドラマであるのに対して、宮沢りえ主演の映画版では横領に手を染める銀行員であるヒロインの犯行の過程が丹念に映し出され、サスペンスの濃度が上がった。物語は同じでも、ある意味「ジャンルが違う」と言ってもいいほど対照的である。

 原作小説、ドラマ版、映画版、いずれかを楽しめたのであれば、作り手が別の味付けを施した他のメディアも味わってみてはどうだろう。新たな視点に驚かされ、さまざまな発見があるはずだ。

文=相田冬二


[放送情報]

関ヶ原
WOWOWシネマ 6/16(土)よる8:00 ほか


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