2019/04/19 up

第2回 実話作品だからこそ得られる最上級の勇気

「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」4/19(金)よる7:00

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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。

 映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、あわせて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。

 第2回となる今回は、ともに実話ベースの作品であり、何かしらのハンディを背負った者たちの物語であり、僕たちと同じこの現実を生きる人間だと信じられるからこそ得られる確かな勇気を描いた『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』と『ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~』をマリアージュ。

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』('16)

 モード・ルイスという女性画家の存在をあなたはご存じだろうか。

 1903年にカナダのサウス・オハイオで生まれ、若年性関節リウマチを患いながらも独学で学んだ絵を描き続け、週刊誌に取り上げられたことを機に広く名が知れ渡り、後に米大統領となるリチャード・ニクソンからも絵の依頼を受けたというカナダで最も有名な画家の一人である。そんなモードの半生を演じるのは『シェイプ・オブ・ウォーター』('17)のサリー・ホーキンス。彼女の夫となるエヴェレットを『6才のボクが、大人になるまで。』('14)のイーサン・ホークが演じ、極上の人間ドラマを紡ぎ出す。

『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』

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©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

 僕自身、何となくモード・ルイスの名を聞いたことがある程度で半端な知識しか持ち合わせていなかったのだが、たとえ彼女の存在を知らずとも本作は楽しめる。モードの絵に懸ける情熱やエヴェレットとのつながりを通し、たったひとりでも誰かに必要とされることの喜びを感じさせてくれるはず。また、成功した者のエピソードなど、しょせん他人事でしかなく寄り添えないこともしばしばあるが、この作品は違う。社会的弱者が懸命に生き、この世界で己の価値や存在意義を見いだしていく勇気の実話。サクセス・ストーリーなどという枠組みには収まらない。今日を耐え抜くことで精一杯な人に、明日を生きていくための希望を指し示してくれる作品です。

 悲しい生き方とはどんな生き方のことを指すのだろう。リウマチで身体が不自由なことだろうか、借金に追われることだろうか、孤児院出身であることだろうか。そうじゃない、きっと違う。自分には何の価値もないと、誰にも必要とされていないと感じながら生きていくことだと思う。一定の年齢に達してしまえば、ある程度自分という人間の器の大きさが見えてくる。何ができて何ができないのかがハッキリとし、高望みすることはやめて、自分に見合った生き方を選択する者がほとんど。中にはあらがい続けて一発逆転する者もいるが、何も成し遂げられぬまま朽ち果てていく者も大勢いる。

detail_190419_photo03.jpg©2016 Small Shack Productions Inc./ Painted House Films Inc./ Parallel Films (Maudie) Ltd.

 けれど、誰にだって何かしら取りえはあるもの。ただ、それが特技と呼べたり、履歴書に書けたり、金を稼ぐことに直結したり、多くの人から褒めたたえられるようなものであるとは限らない。が、この世界は広く、まだ出会っていないたくさんの人々がいる。自分のことを必要としてくれる人が、自分の取りえに価値を見いだしてくれる人が、どこかにひとりくらいはいるかもしれない。そんな相手に巡り会うことができたのなら、どんな状況であろうとも前を向いて生きていけるはず。生涯を共にすることになるエヴェレットとの出会い、衝突、相互理解を経て変化していくモードの心模様が、その事実に気付かせてくれる。

 もちろん、そんな相手に巡り会うためには行動を起こすことが必要不可欠。ひとりふさぎ込んでいるうちは価値ある出会いに恵まれるわけもなく、外の世界へ目を向けなければ変化は訪れない。一歩踏み出してみたところで何か得られる保証はないし、後悔することだってあるだろう。それでもなお、挑戦し続けた者にだけチャンスは巡ってくる。身内に厄介者扱いされても、エヴェレットから多くを否定されても、自らの居場所を模索しひたすら絵を描き続けたモードの熱意が、これまた大事なことに気付かせてくれる。

 自分に自信を抱けずにいる者にとって、自らの存在意義を見いだそうとあがき続けている者にとって、彼女の人生は大きな気付きを与えてくれる。本作との出会いが、あなたにとって一歩踏み出すためのキッカケにつながれば幸いです。

『ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~』('17)

 誰もが胸を痛めたであろう、2013年に起きた凄惨な「ボストンマラソン爆弾テロ事件」。この事件の爆発に巻き込まれ両足を失った実在の人物、ジェフ・ボーマンの回顧録をジェイク・ギレンホール主演で映画化。テロによって人生をゆがめられた男性が再び立ち上がるまでの険しい道程を描き、原題『Stronger』通りの力強い心の在り方を見せつけてくれる作品です。

『ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~』

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©2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』を通し、他者の存在や外の世界へ目を向けることの大切さ、上質な実話ベースの作品が心にもたらす影響力を理解した上で本作を観るのなら、描かれていく出来事をひとつひとつかみ締めながら受け止めていくことができると思う。そんなあなたなら、爆弾テロによって生じた見るに堪えない悲惨な現実に打ちひしがれながらも、目をそらすことなく最後まで見届けるための心構えができているはず。

 モードとは異なり、ジェフは僕たちと同じ今この時代を生きている人物。事件前まではコストコの店員で、野球と酒が好きで、別れた彼女に未練タラタラのごく普通の一般人。そんな自分と隣り合わせの存在が爆弾テロに巻き込まれてしまう恐怖。いつ誰の身に起きてもおかしくない出来事を目の当たりにすることで、彼の心に生じていく葛藤が他人事だとは割り切れなくなっていく。誰にも吐き出せぬ思いをひとり押し殺すジェフの姿が映し出された瞬間、あなたは何を思うだろう。

 周囲の期待や善意を重荷に感じ、次第に追い詰められていくジェフ。だけど、彼の知らぬところで多くの人たちがその姿に奮い立たされていた。自分をひどく無価値な人間だと思い込んでしまう瞬間が誰にだってあるけれど、あなたの仕事が、笑顔が、気遣いが、知らず知らずのうちに誰かの心を救っていることだってある。自覚できる機会は少ないかもしれないが、まだその瞬間に立ち会えていないだけのこと。僕たちは決して無価値な人間なんかじゃない。知らず知らずのうちに互いを刺激し合い、高め合い、認め合うことだってできている。その事実に気付けるか否かが非常に重要で、その境地へと至った時にこそ人は大きく歩みを進められるのだということをこの作品は教えてくれる。

detail_190419_photo05.jpg©2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 特別な人間なんてひとりもいない。いや、ひとりひとりがそれぞれに特別なのかもしれない。著名な画家であっても、英雄と呼ばれた人物であっても、生きていく上で向き合わなければならない問題は何ひとつ変わらない。今回の2作品は、僕たちと同じ人間であると強く信じられる者たちの真実の実話であるからこそ、最上級の勇気を与えてくれると思います。

ぜひご覧ください。

「シネマ・マリアージュ」の過去記事はこちらから
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[放送情報]

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス
WOWOWシネマ 4/19(金)よる7:00

ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~
WOWOWシネマ 4/21(日)よる9:00
WOWOWプライム 4/24(水)よる7:45
WOWOWシネマ 5/10(金)午後3:00

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