2019/05/17 up

第3回 見た目や形に囚われてしまう人の心

「ワンダー 君は太陽」5/26(日)よる9:00他

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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。

 映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、あわせて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。

 第3回となる今回は、容姿の違いから生じる不和によって分かり合えなくなってしまう人の心や葛藤を描いた作品であり、同時に、分かり合うことができた際の素晴らしさや愛おしさをも感じさせてくれる『ワンダー 君は太陽』と『シェイプ・オブ・ウォーター』をマリアージュ。

『ワンダー 君は太陽』('17)

 初めに言ってしまおう。R・J・パラシオのベストセラー小説を映画化した本作は、涙なしでは観られない。

 トリーチャーコリンズ症候群という遺伝子疾患が原因で、顔が変形して生まれてきた10歳の少年オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)。そんな彼が初めて学校へ通うことで巻き起こるさまざまな出来事を通し、差別や偏見、誤解にまみれたこの世界で、他者と分かり合うために必要なものを示してくれる作品です。

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©2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. Artwork & Supplementary Materials © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 人を見た目で判断してはならないと、人にとって重要なのは見た目ではなく"心"だと、かつて誰もが教わってきたことだろう。その通りだと思うけれど、肝心要の他者の心にたどり着くまでには時間がかかる。ある程度の信頼関係が芽生えていなければ、他者の心に触れることなどできやしない。そして、心は一朝一夕で触れられるものでもなければ、一朝一夕で開示できるものでもない。となると、どうしたって見た目にばかり囚われてしまうのが道理。だからこそ、世の中は分かり合えないことや理不尽なことであふれている。けれど、この作品を観た者同士であれば一時的かもしれないが理解し合える。誤解なく互いの心に触れられる。何故ならば、オギーの周囲の人たちが抱く葛藤を通じて自分自身の弱さやおごりを見つめ直し、間違ったことより正しいことを、正しいことより親切なことを選ぼうと思えるはずだから。

 映画だから、物語だから、僕たちは無条件にオギーやその家族の味方でいられるけれど、初めてオギーの顔を目にした瞬間、戸惑ってしまう人もいると思う。実人生において彼のような存在に遭遇したのなら、必ずしも肩入れできるとは限らない。他人事だと決め込み、場合によっては非難してしまうことだってあるかもしれない。そう、劇中においてオギーと関わる人々が抱くさまざまな思いは、良くも悪くもぼくらが抱くであろう思いであり、可能性。オギーが物語の主軸ではあるけれど、本作で登場人物ひとりひとりの心持ちが丁寧に描かれているのは、今その目に見えていることだけが全てではないことを示すためであり、見た目に左右されてしまいがちな僕たちにとって、本当に大切にすべきことが何であるのかを示すため。

 人生における大事なことに気が付けるタイミングは、人それぞれに違う。10代にして多くのことに気が付けている者もいれば、ある程度の年齢に達しても全く気が付けていない者もいる。もちろんそれだけが全てではないし、否定したり考えを押し付けるのも違う。頭ごなしに否定したって不和が生じるだけ。考えを押し付けたところで、理解するに至るだけの経験が伴っていなければ汲み取ってなどもらえない。目に見える事実を突き付けることを「優しさ」と呼ぶこともあるが、相手が自力で気が付けるようになるまで辛抱強く待つことや、その後押しをしてあげられることもまた「優しさ」のひとつ。相互理解へと至るためには必要不可欠な要素であると思う。

detail_190517_photo03.jpg©2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. Artwork & Supplementary Materials © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 人は一度間違えないと気が付けない。間違えて、痛い目に遭って、後悔して、そこで初めて考えを改める。同じ間違いを犯さぬよう努め、同質の痛みを抱える者の心に寄り添えるようにだってなっていく。その積み重ねがより良き自分を構築し、他者の心を見据えられるだけの心を形成していく。ただ、犯した間違いから目を背け続けていれば、心はやがて腐ってしまう。他者に寄り添う術など持たぬまま、悲しく惨めな人生を送るだけ。己自身との向き合い方ひとつで、人生は如何様にも変化する。

 世界はたくさんの悪意であふれているが、目を凝らせば同等かそれ以上の善意もあふれている。あらゆる苦難を家族や友人と共に乗り越えていくオギーの勇気は、きっと映画を観る者の心にかかった霧を晴らしてくれる。日頃見落としている他者の思いや善意に気が付くためのキッカケを与えてくれると思います。

『シェイプ・オブ・ウォーター』('17)

 第74回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、第90回アカデミー賞作品賞など、世界中の映画賞を多数受賞したギレルモ・デル・トロ監督作。1962年の冷戦下のアメリカを舞台に、言葉を発することのできない清掃員イライザ(サリー・ホーキンス)と、未知の生物の心の交流・恋模様を描いた作品です。

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© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
『シェイプ・オブ・ウォーター』5/28(火)深夜1:00

 本作における不和の原因は、遺伝子疾患でもなければ顔の形がどうこうの話でもない。アマゾンの奥地で捕らえられた得体の知れない半魚人のような生物の存在だ。しかし、『ワンダー 君は太陽』を観た後の心持ちなら、相手が何者であろうと分かり合うための可能性を模索せずにはいられないはずだ。半魚人のような"彼"と誤解なく心を通わせられるイライザの心の美しさや、"彼"を研究材料としか捉えていない者たちの心の醜さを、より強く感じ取ることができるだろう。

 物語において重要な要素となるのは"水"だ。液体であるが故に明確な形を持たないが、雨となって炎を消し去り、温めれば卵をゆで卵に変え、一定量を溜めれば人の体を温め、"彼"の命を繋ぎ留める。用途によって性質を変え、さまざまな物に変化をもたらす。人の心も同様、他者を優しく包み込むこともできれば、深く傷つけもする。状況によって性質を変え、自分にも他人にも多くの変化をもたらす。つまりは、本作が描こうとしていることもまた、明確な形を持たぬ"心"の在り方であるということ。

 劇中、声を出せないイライザを蔑む者はひとりもいない。が、彼女の心に深入りする者もいない。親しい者はいるが、隣人として、友人としての領域までしか踏み込めず、彼女の心に宿る願望までは満たせない。それは"彼"にとっても同じこと。同質の孤独を抱える2人だからこそ、互いの心に触れ、惹かれ合い、寄り添い合うことができていく。しかし、当事者たちにしかそれは分からない。傍から見たら、彼女たちの人となりを知らなければ、異様な光景としか映らない。それが当たり前のように起きてしまうのが、僕らの生きるこの現実。実人生において、他人のモノローグが聞こえてくることも、秘めた思いを吐露する場面に遭遇することもまずない。他人のことなど基本的には分からない。

detail_190517_photo05.jpg© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

 だが、それは心の形を変容させる術や錬度が皆等しくないから起きるすれ違い。言葉を交わすことができるにもかかわらず分かり合えない人々と、言葉がなくとも分かり合えるイライザと"彼"。その対比が、自分に欠けたもの、不必要なもの、手放すべきなのに手放せずにいるものをハッキリとさせてくれる。それらをクリーンにした上で他者と向き合えば、僕たちは絶対に分かり合えるはず。

 見た目や形に囚われてしまいがちな僕たちの心へ、時に優しく、時に辛辣に、他者の心に触れることの難しさ・触れることができた際の幸福を感じさせてくれる2作品です。

ぜひご覧ください。

「シネマ・マリアージュ」の過去記事はこちらから
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[放送情報]

ワンダー 君は太陽
WOWOWシネマ 5/26(日)よる9:00
WOWOWプライム 5/28(火)よる8:00
WOWOWシネマ 6/6(木)午後4:35

シェイプ・オブ・ウォーター
WOWOWシネマ 5/28(火)深夜1:00

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