2018/02/16 up

『ボーダーライン』『メッセージ(2016)』『ブレードランナー 2049』――いまこの名を覚えておきたい、ドゥニ・ヴィルヌーヴ!

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 2017年は『メッセージ(2016)』『ブレードランナー2049』というハリウッド大作によって、SF映画というジャンルが例年になく活気づいた年だった。この2作品は既視感を誘うスペースオペラやファンタジーではない。深遠な哲学性をはらんだテーマに見合うハイレベルな演出力とイマジネーションなくしては、退屈な失敗作になりかねなかった本格SFだ。その困難なふたつのプロジェクトを成功に導いた立役者は、両作品のメガホンを執ったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督である。

 カナダのフランス語圏ケベック州の出身。長編デビューは1998年だが、その独特の語感を持つ名前が世界的に知られたのは第83回アカデミー賞外国語映画賞候補になったミステリー映画『灼熱の魂』('10)だった。その後、初の英語作品『複製された男』('13)を経て、ヒュー・ジャックマン主演のサスペンス『プリズナーズ』('13)でハリウッド進出。メキシコ国境地帯の麻薬戦争を題材にした『ボーダーライン』('15)に続く『メッセージ―』('16)で第89回アカデミー賞8部門ノミネートを成し遂げた。ただならぬクオリティの高さの快作をハイペースで連打しているヴィルヌーヴは、今まさにクリエイターとして絶頂期のまっただ中にあり、世界が最も新作を待ちわびる監督の筆頭格だ。

 『メッセージ―』は異星人とのコンタクトというSFジャンルの"ありふれた"テーマを扱っているが、かつてない驚きと衝撃に満ちた映画体験を観る者にもたらす。例えば、細長い半円型のUFOの造型。完璧に洗練された現代アートのオブジェのようなそのヴィジュアルは、日本ではスナック菓子の"ばかうけ"に似ていると話題になり、製造メーカーと配給会社がコラボレーション・ポスターを制作するエピソードも生まれた。

 ヴィルヌーヴの演出の素晴らしさは、この"ばかうけUFO"の飛来シーンを省略し、地上数メートルで浮かんだまま美しくも不気味に静止している光景を描くことで、エイリアンの真意がまったくわからないサスペンスを表現したことにある。UFOとエイリアンが自らのテクノロジーを誇示して暴れる描写は一切なく、CG製のスペクタクルでぐいぐい押しまくる昨今のハリウッドの風潮とは真逆の抑制的な演出を貫いている。

 主人公の言語学者ルイーズ(エイミー・アダムス)がいよいよUFO内部に足を踏み入れ、地球外生命体との対話を試みるシークエンスでも、エイリアンの全貌は白い霧に覆い隠され、観る者の想像をかき立ててやまない。全編にわたって視聴覚を刺激される本作の濃密な映画体験は、そうした繊細にして精緻を極めた演出に支えられている。また、エイリアンが発する抽象的な図形のような言語のグラフィック・デザインは書道などにインスパイアされたもので、そうしたディテールも日本人の感性に響く。

 そしてテッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」を原作とする本作の最大のサプライズは、"時間"という概念を斬新な視点でストーリーに取り込んでいる点だ。人類存亡の危機を連想させる壮大なスケールの物語が、主人公ルイーズの私的な人生を揺り動かし、ついには根源的な愛、生と死の"メッセージ"へと昇華されていくエモーショナルな展開は、SFというジャンルの枠を超えた感動を呼ぶ。その真実に触れた人は誰もが、リピート鑑賞したい衝動に駆られるはず。ゆえに今回のWOWOWでの初放送は録画が必須だ。

 以上、ヴィルヌーヴの経歴と『メッセージ―』の見どころを駆け足で記してきたが、改めて特筆すべきは現在のハリウッドにおいては極めてチャレンジングな彼の演出スタイルが製作陣に認められ、その実力を遺憾なく発揮しうる名声と環境が確立されていることだ。だからこそ、この先も驚くべき傑作を生み出すであろう気鋭監督の名前を、しかと胸に刻んでおきたい。

文=高橋諭治

[放送情報]

メッセージ(2016)
(字幕版)WOWOWシネマ 2/17(土)よる8:00 ほか

メッセージ(2016)
(吹替版)WOWOWプライム 2/18(日)午後1:00 ほか

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