2020/07/10 up
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第18回の名セリフは「謝るなんてな、ほんのちょっとの辛抱だよ」
『麻雀放浪記2020』8/7(金)よる9:00他
取材・文=八木賢太郎
映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第18回は、麻雀映画の名作を大胆なアレンジでリメイクした話題作『麻雀放浪記2020』('19)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
──今回は、小沢さんが愛する映画『麻雀放浪記』('84)のリメイク版となります。リメイク版といっても、オリジナルとはまったく違う世界観の作品に仕上がってますが。
小沢「全体的に(原作の)阿佐田哲也の小説へのオマージュのような作品だよね。同時期に漫画の連載もやってて、それも読んでたんだけど。俺はね、もともとこの監督が好きなのよ」
──白石和彌監督ですね。
小沢「そう。『日本で一番悪い奴ら』('16)とか『孤狼の血』('17)とか、面白い日本映画をたくさん撮ってる監督でしょ。あと、この映画って全編iPhoneだけで撮影したらしくて。そういうのも、すごい気になってたんだよね」
──ご覧になって、いかがでしたか?
小沢「うん、まず、麻雀の細かい部分が、ちょっと気になっちゃった、というのがあったんだけど」
──麻雀の打ち方というか、手の作り方というか、そのへんですか?
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
小沢「そう。手牌の内容と捨て牌を見比べて、この手でこの牌切る? みたいなとこが何回かあったりして」
──あんな一瞬しか映らないのに、よく見てますね。
小沢「30年も麻雀やってるから、手牌と捨て牌は一瞬で頭に入っちゃうんだよね。あと、もう一つ気になったことがあって。斎藤工君が演じる主人公の坊や哲が昭和の時代から2020年にタイムスリップしてきて、チャラン・ポ・ランタンのももちゃんが演じるドテ子がビラ配りしてるところに出会うシーンがあるでしょ」
──わりと冒頭のシーンですね。あそこの何が気になりました?
小沢「ドテ子がビラ配りしてた浅草のあの場所、俺が5年前に住んでたとこなの(笑)」
──へ~、そんな偶然が。
小沢「まさに、俺の住んでた部屋のあるビルの真ん前。哲とドテ子がどじょう鍋を食べる店もよく通ったし。なんか懐かしくてね。だから、冒頭からこの映画にはすぐに入り込めた(笑)」
──だいぶ変わった入り込み方ですけどね。
小沢「でも、この映画って2019年の公開でしょ? なのに、オリンピックが中止になってたり、最後の麻雀対決のシーンでも『この試合は無観客で行います』って言ってたり、本当に今の2020年の状況を預言したみたいになってるのがすごいよね」
──そうなんですよね。期せずして当たっちゃったというか。では、いろいろぶっ飛んだ映画でしたけど、これはこれとして十分に楽しく観られたという感じですか?
小沢「うん、楽しめたよ。例えば坊や哲が言う、『勝負しないで生きるやつにできることは、長生きだけだ』ってセリフがあるんだけど、あれはオリジナルの映画で鹿賀丈史さんがやったドサ健も言ってたし、阿佐田哲也が書いた原作の小説版にも出てくる。ああいうのは、ちゃんと阿佐田哲也の原作を読んでリスペクトしてるんだなって思った。片腕のないボロボロのばくち打ちのじいさんが出てきて、『俺は賭けられるものはなんでも賭けてきた』って言うあのセリフも、阿佐田哲也の『黄金の腕』って小説に出てきたやつだしね」
──オリジナルの映画というよりも、阿佐田哲也作品全般に対するリスペクトがあったという感じですね。
小沢「そうそう。だから、麻雀好きとしては麻雀シーンでの納得いかない打牌もあったけど、阿佐田哲也好きとしては非常に納得のいくチョイスが多かった、っていうことだね(笑)」
──このリメイク版を作る意味もあったと?
小沢「そうね。元の映画でも描かれてるように、阿佐田哲也の時代の麻雀っていうのはばくちそのものだったのよ。それが今は、サイバーエージェントの藤田晋さんがMリーグを作ったりとか、麻雀は新たにeスポーツとして注目されてきて。賭けない麻雀、将棋とか囲碁みたいにみんなが楽しめる頭脳ゲームとしての麻雀を普及させよう、という動きが麻雀界全体にあるよね」
『麻雀放浪記』8/7(金)よる7:00
©KADOKAWA 1984
──時代の変化とともに麻雀界も変わってきています。
小沢「そうして時代が変わってきたということが、この映画のテーマの一つでもあるわけでしょ。そういう意味では、麻雀というものをみんなに知ってもらうためには、いい入口になる作品だと思うし。麻雀を抜きにしても、何か一つのことに夢中になれるって素晴らしいんだってことを教えてくれる映画だった。実は今回、2つのセリフが候補にあって。まず『麻雀放浪記』的なことで考えると、『明日は雨かな』なんだよね」
──オリジナルの『麻雀放浪記』で、イカサマを仕掛けるときの合図になってた名セリフですね。
小沢「このセリフは今回のリメイク版でも何度も出てくるでしょ。しかも面白かったのは、最後の対決の場面で、これにかぶせて『明日は曇りかな』とか『明日は雪かな』ってみんなで言い合って、最終的にベッキーが演じてるAIのロボットが『明日の天気は曇りのち雨、13時から局地的な雨になるでしょう』ってオチをつけるんだよ。俺は、こういうオマージュ作品の正解って笑いに変えてあげることだと思ってて。だから、あのやり方は素晴らしいなと思った」
──「明日は雨かな」は、『麻雀放浪記』好きな人たちは、麻雀打ちながらふざけてよくまねするセリフですからね。
小沢「ただ、これはあくまで『麻雀放浪記』的に選んだ名セリフで。実はもう一つ、小沢一敬的に選びたい名セリフがあって」
──その名セリフとは?
小沢「『謝るなんてな、ほんのちょっとの辛抱だよ』」
──ふんどし姿の雀士、"昭和哲"として2020年の人気者になりながら、とあるきっかけでドテ子と共に違法賭博容疑で警察に逮捕されてしまった哲。しかしそこに、最強雀士を決める"麻雀五輪"への出場オファーが舞い込み、その出場の条件として、そしてドテ子を釈放するために、謝罪会見を開くことを要求されます。そんな哲を説得するときに、ドテ子のマネージャーのクソ丸(竹中直人)が言うセリフですね。
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会
小沢「最近、韓国ドラマの『梨泰院クラス』('20)を観てるんだけど、実はそこにも似たようなセリフが出てきたの。『なんで謝らないの?』って聞かれた主人公が、『一回だけ、これが最後の一回、もう一回。一回でも謝ったら、それを理由に永遠にやっちゃうんだよ』みたいなことを言うシーンがあって。この『一回だけ謝っておけ』っていうのは、ものすごいくせ者なんだよね」
──日常生活でもよく聞くセリフですけどね。
小沢「たしかに、『一回だけ』と思って謝ると、結局、また謝ることになるんだよ。謝るってことだけじゃなく、全部そうだと思うんだけど。『この場が楽になるから、一回だけ嘘ついちゃおうかな』とか『一回だけ負けを認めておこうかな』とか、そうやって『一回だけ』って思ってやったことって、あとで必ず癖になる」
──確かに、人間ってそういうもんですね。
小沢「だからこの『謝るなんて、ほんのちょっとの辛抱だよ』ってセリフって、すごく大事な真理を突いたセリフだと思ってる。『謝る』って部分を他の何かに置き換えて考えたら、いろんなことに通じるから。ほんのちょっとの辛抱だからやってみろ、みたいな言葉には簡単に乗せられちゃ駄目だし、自分の中で『一回だけだから、いいや』みたいに考えるのは、ホントに危険なことだと思うよ」
──そういうときは「それでいいのか?」って自問自答をしないといけないってことですね。
小沢「そうね。別にこれは『絶対に謝るな』とかって話じゃなくてさ。要するに、その人が何を一番大事にして生きてるか? なんだよ。自分にとって大事なその何かのためには、たとえ一回でも折れちゃいけないって思うんだよね。自分の中のプライオリティー、優先順位を、何かのために犠牲にしてはいけないってことだよ」
──ちなみに、小沢さんの中では、その「一番大事にしてる何か」っていうのどんなことですか?
小沢「それがないから、困ってるんだよね。優先したいものが何もない(笑)」
──ここまで熱く語っておきながら、自分にはないんですか?
小沢「うん。まあ、強いて言うなら、人生で一番優先したいのは、夏の日に仲間たちとみんなで遊ぶことなんだけどさ。ただ、この時期だと......明日は雨かな(笑)」
取材・文=八木賢太郎
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小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」の過去記事はこちらから
[放送情報]
麻雀放浪記2020
WOWOWシネマ 8/7(金)よる9:00
WOWOWプライム 8/11(火)深夜2:00
WOWOWシネマ 8/24(月)午前11:45
麻雀放浪記
WOWOWシネマ 8/7(金)よる7:00
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