2018/06/18 up

今なおスパークする米寿! クリント・イーストウッドの名作群をもう一度

「ハドソン川の奇跡」 6/20(水)午後5:00

 クリント・イーストウッド。ハリウッドに長らく君臨した映画スターであり、御年88歳にして現役バリバリの映画監督。次々と新作を発表し続けているのも凄いが、次回作の『The Mule(原題)』では久々に主演も兼ねるというから、その活力に恐れ入るしかない。作曲家/ピアニストとして映画音楽も手掛け、80年代にはカリフォルニア州カーメル市の市長を務めたこともある。安っぽい言い方で恐縮だが、才能が人の形をして歩いているような"生きる伝説"である。

 しかし、だ。イーストウッドという映画人に抱くイメージは、世代によって大きく変わる。B級映画に出演していた下積み時代を経て、60年代には西部劇ドラマ『ローハイド』('59~'66)でお茶の間の人気者となり、やがてイタリアに渡って西部劇の異端とされたマカロニウエスタンを象徴する存在となる。70年代には無骨な刑事を演じた『ダーティハリー』シリーズ('71~'88)で大ブレイク。アクション・スターとして活躍する一方で監督業にも進出するが、本当に映画監督としての真価が認められたのは"最後の西部劇"と銘打たれ、第65回アカデミー賞で4部門を受賞した『許されざる者』('92)で、この時、彼はすでに62歳になっていた。

 イーストウッドのキャリアの異様さは、60代になってから活動のペースを上げ、ほぼ1年に1本、新作映画を世に送り出していること。おそらくハリウッドでこれほどの長きにわたって安定した活動を続けられている映画監督はイーストウッドとウディ・アレンくらいしかいない。しかもその間にジョン・キューザックが製作と主演を務めた『さよなら。いつかわかること』('07)に音楽を提供してもいる。まさにスーパー老人。"老後"という言葉がまったく通用しない。

 そんなフットワークの軽さ故に、イーストウッドの映画監督としての作風をひと言で言い表すのは至難の業。近年は『ハドソン川の奇跡』('16)のような実話をベースにしたノンフィクションを多く手掛けているが、『目撃』('97)は泥棒がたまたまアメリカ大統領の犯罪行為を目撃してしまうサスペンス・スリラーであり、『スペース カウボーイ』('00)は老いたパイロットたちが宇宙飛行士になる夢をつかむ胸アツのSF、『ガントレット』('77)は命を狙われた裁判の証人を命懸けで護送する刑事アクションである。

detail_180618_photo02.jpg© Warner Bros. Entertainment Inc.

 オールド・ファンにはどうしても"西部劇"と"刑事もの"のイメージが強いイーストウッドだが、世間のことなどどこ吹く風で、語りたい物語を作り続ける。その点では映画作家としての姿勢は一貫している。また長年のキャリアで培った、必要な描写をきっちりと積み重ねるシンプルな演出法は"映画の教科書"と呼ぶにふさわしく、わずかな人間しか達することのできない"名人"の境地にいるのである。

detail_180618_photo03.jpg© Warner Bros. Entertainment Inc.

 そんなイーストウッドのこだわりは、多彩なフィルモグラフィよりもむしろイーストウッドが演じ続けてきた役柄に見いだす方がたやすい。おそらくイーストウッドは、映画監督として俳優である自分の幅の狭さを誰よりも自覚しているのだろう。彼が演じるのは、頑固で偏屈で、古いものを愛する保守派のオヤジ。どの映画でも、本人のパブリック・イメージとほとんどそのままなのだ。

 社会のはみ出し者だが、自分の価値観と善悪の基準を信じ、自分の力で始末をつける。何度も繰り返し演じ続けている主人公像に、イーストウッドの強固な思想が見えてくる。それが明確に感じ取れるのが監督&主演した『アウトロー』('76)だ。

『アウトロー』はアメリカの建国200周年記念映画として企画された。ジャンルとしては西部劇だが、イーストウッドにとっての"アメリカ史"を描いた壮大な叙事詩でもある。イーストウッド演じる主人公はならず者の一団に家族を殺され、復讐の思いを胸に南北戦争の南軍に身を投じる。そして戦争が終わっても北軍に下ることを良しとせず、お尋ね者となって逃亡を続けるのだ。

detail_180618_photo04.jpg© Warner Bros. Entertainment Inc.

 ここにイーストウッドの根源的な反骨精神が現れている。誰かに頭を下げるくらいならば、社会の敵になることも、死も顧みない。正義や善悪の基準はあくまでも自分にあり、そのために闘うことをいとわないし、同じ魂を感じた誰かを守るためには死力を尽くす。そんな独立自立の精神をイーストウッドは尊んでいる。それは法の限界からはみ出す『ダーティハリー』シリーズのハリー・キャラハンも、『ミリオンダラー・ベイビー』('04)のボクシングの老トレーナーも変わらない。

 『アウトロー』の主人公ジョージー・ウェールズは、逃避行を続ける中で奇妙な疑似家族を形成していく。さまざまないきさつで旅の道連れが増えていくのだが、彼らはみんな社会からはじき出された者たち(中には犬まで!)だ。自分たちの生活と誇りのために命を懸ける、そんな仲間たちができて、ウェールズは初めて"孤独"から抜け出すことができる。言わば戦友のようなパーソナルな絆で結ばれた小さな共同体、それこそがイーストウッドが信じ、描き続ける"アメリカ"なのだと『アウトロー』は伝えているのではないだろうか。

文=村山章

[放送情報]

ハドソン川の奇跡
WOWOWシネマ 6/20(水)午後5:00

アウトロー(1976)
WOWOWシネマ 6/24(日)午後0:00ほか

目撃
WOWOWシネマ 6/24(日)午後4:30ほか

スペースカウボーイ
WOWOWシネマ 6/24(日)よる6:45ほか


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