2018/10/12 up

『音量を上げろー』阿部サダヲ×吉岡里帆 「踏み出せない人へのエールが詰まっています」

『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(10月12日公開)――すさまじく長いタイトルである。脱力系コメディの旗手、三木聡監督の新作。だから大いに笑える。だが、作品の中心にあるのは意外にもジンジンくるような感動だ。

WOWOWでも「テンション爆上げ!音楽映画編」「コメディの王様!阿部サダヲ編」といった公開記念特集が放映される本作を巡って、主演の阿部サダヲとヒロイン役の吉岡里帆に話を聞いた。まずは、お互いの第一印象から。

吉岡 三木さんの読解するのが難しい台本を、阿部さんはめちゃめちゃ分かった状態で立ち稽古を始められるのだと思っていたら、私と同じように「何、これ?」となってて、めっちゃ嬉しかったです。ひとりじゃなかったと。

阿部 かわいらしくて、ふわ~っとした感じの人かと思っていたら、しっかりしているんですよね。

吉岡 長女なので!

阿部 そっか(笑)。しっかりしている人でよかったと思って。

吉岡 私は阿部さんのことを"コメディの王様"って思っていました。ミーハー心をくすぐる人。会えたらうれしいなと。だから今回、絶対絶対楽しい現場なんだろうなと思っていました。でも、怒られたらどうしようとも思っていて...。「お前、面白くないからしゃべんな!」みたいな...。

阿部 そんな人なわけないじゃない...(笑)。

吉岡 「面白くない人は現場来ちゃダメだよ」って言われたらどうしよう...って。

阿部 いたの? そういう人が。

吉岡 いません(笑)。

阿部 現場でずっとしゃべっていてほしいですよ。僕が現場でずっとしゃべっているタイプじゃないので。

阿部が演じるのは、"声帯ドーピング"なる禁断の方法で驚異的な歌唱力を維持している世界的ロックスターのシン。一方、吉岡はあまりにも声が小さいストリートミュージシャン・明日葉ふうかに扮している。

吉岡 大きな声を出しちゃいけないって、鎖をはめられているような気がしました。大きい声出すから伝わることがいっぱいあると思うんです、劇中でもシンに激励されたり、腹立つこと言われても、小さい声でしか言い返せないので。

小さい声で大声を上げている。そんな場面もある。

吉岡 そうです。それがすごく難しくて...。初めは、どうしよう? と思っていました。(場の)テンションが上がっても、ひとりだけずっと小さな声でいなきゃいけないのが、難しかったです。みんなと一緒に大きい声でしゃべりたいシーンはいっぱいありました。でも、逆にそれが良かったのかもしれないですね。フラストレーションが溜まることが、エネルギーの蓄積になったかもしれません。

無理をしてでも大声を出しているシンは、小さな声も個性のひとつかも、とどこか開き直っているふうかに、それじゃダメだろ、とハッパを掛けていく。

そうして、タイトルとなっている言葉が飛び出す。表現者が表現者を鼓舞する言葉であると同時に、それはとても愛情のある言葉だった。まさか、三木聡作品でここまで感動的なフレーズが飛び出すとは!

阿部 ロックスターという役を借りているからこそ、ストレートに言えてるのかなとも思いますね。「やらない理由、探してんじゃねえよ」とか、ちゃんとしたこと言ってるじゃないですか。それはすごく良かったですね。

吉岡 三木さんが娘さんに伝えたいメッセージらしくて。「やらない理由を見つけるな」って。家族に対しての想いなので、やっぱり愛情たっぷり。「好きなことやっていいんだよ」と言い換えられる。「怖がるな」っていうか。シンって「ひとりじゃないぞ」って言ってくれてる気がして。「みんな大変なんだよ。ひとりじゃないから頑張れよ」って。私も映画の中で言われて、すごく愛情を感じてました。これは三木さんからのエールかなと思います。一歩踏み出せない人たちのための。

やらない理由。確かに一歩踏み出せないとき、人は言い訳を探してしまう。そうして、やらない自分をなんとか正当化しようとする。阿部にもそんな時期があったという。

阿部 役者になってからはそんなことはないですけど、部活ですかね。野球やってたんですけど、素振りをしない理由を作るのはすごくうまかったですね。「今度、左打ちになるかもしれないから」とか(笑)。ほんと、どうでもいいこと言いながら、素振りしない(笑)。だから野球はダメだったんだなと、この夏、甲子園を観ながら思いましたね。劇団のオーディション受けに行ったときは、もう理由なく、でしたね。それ以降は、もう「何でもやります!」って。できるかどうかも分からないのに、できるふりして(笑)。だから、やらない理由を見つけてた頃の自分はもう思い出したくないのかもしれないですね。役を断ったこともないですし。

つべこべ言わずにやる。そうしていくことで、その人だけの強みが生まれる。ふたりにとって「強み」とはなんだろう。

阿部 俳優やる前に、結構いろんな仕事に就いてたことですかね。そこでいろんな人と会ってたことは強みになってるかもしれないです。ちっちゃいときからずっと役者やってる人とはまた違う人生たどってはいるので。昔は、ものすごく複雑な家庭で育った方が(役者をやる上では)有利だと思ってたんですけど、意外と平均的なのもいいのかなと、いまは思ってますね。ヘンに親を恨んだときがあったんですよ(笑)。なんで離婚してねえんだよ、って。なんだよ、この平均的な家、みたいな(笑)

吉岡 私は、自分と関わった人とか、自分が出た作品とかが、めちゃめちゃいいものだ、と思えるところですね。すごく自信持てるんで。熱い気持ちでやったし、面白いと思える。自分に来た作品は全部面白いものに見える。最高の作品に出会ったと毎回思えること。それが私の強みです。

取材・文=相田冬二
撮影=渡邊明音

[放送情報]

舞妓Haaaan!!!
WOWOWシネマ 10/13(土)午前9:15

デトロイト・メタル・シティ
WOWOWシネマ 10/13(土)よる6:15

なくもんか
WOWOWシネマ 10/14(日)午前9:30

少年メリケンサック
WOWOWシネマ 10/14(日)午後4:30

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