2019/02/08 up

『犬ヶ島』に見る ウェス・アンダーソン監督の芸術性と黒澤映画へのオマージュ

「犬ヶ島」2/17(日)よる9:00

 ウェス・アンダーソンを映画監督と形容するとき、英語のFilmmakerやDirectorではなく、フランス語のAuteur(オトゥール)という言葉がふさわしい。作家性の強い、芸術的で個性的な作品を放つ彼はアメリカ人ながら、そのテイストはヨーロッパ映画寄り。世界の偉大なクラシック作品の数々にオマージュをささげつつ、独自のストーリーテリングと世界観を追求し続けているのだ。

 ウェス・アンダーソン作品の特徴として、独特のオフビートなユーモアとペーソスが挙げられるが、それがただの一部のシネフィルに向けられたアート映画ではなく、商業的にも成功を収めているところが特筆すべきポイントだろう。あまたの批評家賞を受賞し、アカデミー賞には4作品で9つの部門にノミネートされた経験を持ち、2014年の監督作『グランド・ブダペスト・ホテル』などは全世界で約1億7400万ドル(※1)も稼ぎ出したのだ。世で幅広く受け入れられている、唯一無二の芸術的な現代映像作家といっていいだろう。

 そんなウェス・アンダーソンの最新作が『犬ヶ島』。近未来のディストピアな日本を舞台にしたSFコメディ・ドラマ・アニメーションだ。アンダーソンは過去に『ファンタスティック Mr.FOX』('09)を監督しており、アニメ映画は今回が2作目だが、前回は"狐"(イヌ亜科)で今回は"犬"(イヌ属)。実写で動物を主演に据え、かつ演技指導するのは難しいので、このチョイスは納得でもある。その2本のアニメは共にストップ・モーションだ。ストップ・モーションは、人形などの静止した被写体を少しずつ動かしながら撮影し、まるで動いているかのように見せるアニメの撮影技術。代表作として『ウォレスとグルミット』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』('93)、『コララインとボタンの魔女』('09)、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』('16)などがある。『犬ヶ島』の撮影では、なんと2万の背景キャラクターの顔と、アニメ化できる1千体以上の犬と人間の人形を製作したという。驚異的な数である。おかげで、スピード感あふれる同作の中で個性的なキャラクターたちが、幅広いさまざまな表情を見せてくれるのが非常に味わい深い。CGアニメ全盛の今、あえてオールドスクールな手作業が生み出す人間味あふれるストップ・モーションを選ぶのがこだわりの職人、ウェス・アンダーソンらしい。

 高校生時代に『羅生門』('50)を既に鑑賞していたアンダーソンは、黒澤明を「ジョン・ヒューストンやオーソン・ウェルズと並ぶ真のオーソリティー(権威)」と呼び、多大な影響を受けている。それは『犬ヶ島』を観ても顕著で、本作には多くの場面で黒澤明にオマージュがささげられている。まずはタイトル。『犬ヶ島』(Isle of Dogs)は、'49年の『野良犬』(Stray Dog)を連想させるが、ストーリーも前者はアタリ少年が犬ヶ島に追放された愛犬スポックを捜しにいくのに対し、後者は刑事が盗まれた拳銃を探し奔走するという"主人公が失われた大切な何かを探す"部分で共通している。ゴミの島である犬ヶ島は『どですかでん』('70)の舞台となる不思議な街を彷彿とさせられる。本作のヴィランである小林市長の顔は、『天国と地獄』('63)の三船敏郎さながらである。劇中では『七人の侍』('54)と『醉いどれ天使』('48)の音楽を使用している。最後に序盤の、ヒーロー的な犬たちと邪悪な犬たちが対峙するシーンは構図も含め、まさに世界の黒澤の代表作のひとつ『七人の侍』のワンシーンそのものである。

 第91回アカデミー賞長編アニメ賞部門(※2)にもノミネートされている『犬ヶ島』。大学時代に日本映画をこよなく愛し、14年前に初めて日本を訪れて以来、ずっと日本を舞台にした映画を撮りたいと考えていたアンダーソンの念願が叶った本作で、悲願のオスカー初受賞なるかも注目である。

小林真里(映画評論家/映画監督)

(※1)世界興収はBox Office Mojoより
(※2)第91回アカデミー賞は2019年2月24日(日本時間25日)に発表予定。

[放送情報]

犬ヶ島
WOWOWシネマ 2/17(日)よる9:00

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