2019/08/06 up

あの民川裕司3部作が帰って来た! 80年代スーパースター、吉川晃司の伝説

「すかんぴんウォーク」8/18(日)午後1:30

文=橋真奈美

 ここ10年ほど、時代劇や社会派ドラマ、意外なものでは特撮変身ヒーロー映画にも重要な役で出演し、俳優として高い評価を得ている吉川晃司。第一線で活躍し続けているミュージシャンならではのカリスマ性や、さまざまな逸話から伝わってくる"男気"を伴った渋い魅力が注目されているが、デビュー間もない頃の"若いのに大人っぽいカッコよさ"も若い世代の方たちに紹介したい。

 WOWOWの8月の特集「吉川晃司デビュー35周年WOWOWスペシャル」で放送される『すかんぴんウォーク』('84)、『ユー★ガッタ★チャンス』('85)、『テイク・イット・イージー』('86)は、吉川が10代後半から20代前半の時に主演した青春映画3部作。3作すべてを『ヒポクラテスたち』('80)の大森一樹が監督、『野獣死すべし』('80)などで松田優作の"共犯者"だった丸山昇一が脚本。主人公は、吉川自身を投影したかのような若者、民川裕司(たみかわゆうじ)だ。

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 1984年、吉川晃司のデビュー・シングル「モニカ」のリリースと同時期に公開された第1作『すかんぴんウォーク』は、演劇の世界を夢見て広島から上京した18歳の裕司が、ポップ・シンガー志望のバイト仲間(山田辰夫)やパッとしない清純派女性タレント(鹿取容子)との交流と決別、挫折を経て、音楽の道に進んでいく物語。裕司が東京湾の沖の方からバタフライで泳いでやって来るオープニングは、語り草になっている名(珍?)場面だが、都心の道路をはだしで駆けたり、路地裏を逃走するなど、地味ながら身体能力の高さを示す動きも多く、ライブ・シーンでは、既に堂に入ったステージ・パフォーマンスを披露している。一方で、若者特有のナイーブな心を表現する姿は素朴で初々しく、ちょっとかわいらしかったりもする。ちなみに蟹江敬三演じるカニしか食べない喫茶店のマスターも必見。

detail_190806_photo02.jpg『すかんぴんウォーク』
©1984 渡辺プロダクション

 第2作『ユー★ガッタ★チャンス』は、人気スターになったもののアイドルという役割になじめず悩む裕司が、新しい自分を求めて繰り広げる冒険を描いている。才能(原田芳雄扮する映画監督)への憧れ、美女(浅野ゆう子)との恋、マスコミやカジノの用心棒との追いつ追われつなど内容が盛りだくさんな上、『ウエスト・サイド物語』('61)を彷彿させるダンス・シーンや、グアム島でのウインドサーフィン・レースのエピソードが脈略なく挿入され、混沌としたにぎやかな作品に仕上がっている。

detail_190806_photo03.jpg『ユー★ガッタ★チャンス』8/18(日)午後3:20
©1985 渡辺プロダクション

 パフォーマンス集団との乱闘、救命ボートを押しながらの遠泳、自転車での爆走、神戸の町を舞台にした、人間(吉川)の足と車とのチェイスなど、アクションも1作目よりボリューム・アップ。歩道橋のデッキから眼下を走るトラックの荷台にダイブするなど、本格的なスタントも堪能することができる。また、ホールでのコンサート風景や、古びたホテルでピアノを弾くシーンもあり、吉川晃司の魅力を思い切り詰め込んだ1本になっている。

detail_190806_photo04.jpg『ユー★ガッタ★チャンス』
©1985 渡辺プロダクション

 3部作最終章『テイク・イット・イージー』は、世界進出を望むなかで北方への旅に出た裕司が、才能豊かな女性ミュージシャン(名取裕子)と運命的に出会い、やがて大きな転機を迎える無国籍風ウエスタン(実際の舞台は北海道)。前作から1年で急に大人びた吉川の存在感が、この作品では西部劇のヒーロー的な役割を果たす裕司役にピッタリである。

detail_190806_photo05.jpg『テイク・イット・イージー』8/18(日)午後5:05
©1986 渡辺プロダクション

 ここでも吉川は、走行中のバスや列車によじ登って車内や貨車上に乗り込むなどの軽業師的なアクションから、火山の斜面を滑り落ちたり、高い崖から滝つぼにダイブして流れの早い川を泳ぐなど、無謀と思えるスタントまでこなしている。

 そして、ストーリーは終盤で(激しい銃撃戦にUFOまで出現するという)思わぬ方向に展開し、吉川晃司が作詞・作曲の両方を手掛けた初の楽曲で主題歌でもある「MODERN TIME」のPVへとつながっていく。NYの街を歩く"吉川晃司"は、世界進出の夢を叶えた"民川裕司"なのか? 吉川本人の意向で脚本が変更されたそうだが、ちょっと不思議なフィナーレである。

detail_190806_photo06.jpg『テイク・イット・イージー』
©1986 渡辺プロダクション

 この民川裕司3部作は(ファンクラブ特別受注生産以外は)未だにDVD&ブルーレイ化されておらず、今回の放送は貴重なチャンス。少々フェミニンな王子様タイプの男性アイドルが多かった80年代、クールでロックで長身の吉川晃司が異質のアイドルだったこと。デビューからの3年間で、今に通じるスタイルが早くも確立されていたこと。そうしたところにも注目してほしい。

  • 文=橋真奈美
    情報誌の編集を経てフリーライターに。雑誌、WEB等で映画紹介やインタビュー記事を執筆中。リアリティー番組も好きで「プロジェクト・ランウェイ」のファン。

[放送情報]

すかんぴんウォーク
WOWOWライブ 8/18(日)午後1:30


ユー★ガッタ★チャンス
WOWOWライブ 8/18(日)午後3:20


テイク・イット・イージー
WOWOWライブ 8/18(日)午後5:05


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