2019/11/19 up

これから注目すべき"12人"の演じたい若者たち

『十二人の死にたい子どもたち』11/23(土・祝)よる8:00他

文=SYO

 映画は、「死んだ芸術」といわれる。演劇やライブコンサート、生放送のテレビ番組と違い、だいぶ前に作られているからだ。「生きた」ものではない――という意味でのこの言葉である。しかしその中で、役者や監督といった作り手たちは、作品ごとに"成長"していく。そのプロセスを観られるのは、映画ファンにとって大きな喜びだ。

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 中でも"旨味"を感じられるのは、やはり若手俳優の台頭だ。例えば2012年の『桐島、部活やめるってよ』では、神木隆之介や橋本愛を筆頭に、東出昌大、山本美月、松岡茉優、浅香航大、前野朋哉、鈴木伸之といった若手が多数集結した。東出しかり松岡しかり、この映画に出演後、大きく飛躍していったことは周知の事実だ。

 2019年公開の映画であれば、『十二人の死にたい子どもたち』も、今後が楽しみな若手キャストがそろい踏みした作品だ。杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈、吉川愛、萩原利久、渕野右登、坂東龍汰、古川琴音、竹内愛紗といった12人の期待の星が、廃病院で集団自殺しようと集まった個性的な若者たちを演じている。

 『桐島、部活やめるってよ』では原作が朝井リョウ、監督が吉田大八と実力派がそろう。一方で本作も、大人気アニメの最新シリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』('19)のシリーズ構成・脚本も担当する冲方丁が原作を手掛け、監督は「TRICK」シリーズから『人魚の眠る家』('18)まで幅広く手掛ける堤 幸彦と、これまた豪華。日本演劇界の最高賞、岸田國士戯曲賞を受賞した倉持裕が脚本を執筆している点にも注目だ。

 一流スタッフが集結した『十二人の死にたい子どもたち』は、俳優それぞれの「演技力」が試される構造となっている。タイトルを見れば分かる通り、往年の名作『十二人の怒れる男』('57)に影響を受けたであろう会話劇だからだ。堤監督らしいトリッキーな映像演出がサポートするものの、メインの舞台は廃病院の一室と、演劇に近い状態。各キャストは、密室劇として名高い『十二人の怒れる男』と同じく、自らの表現力のみで役を構築し、他の出演者たちと対決しつつ、会話を転がしていかなければならない。役者にとっては非常にハードルが高い状況設定だ。

 しかも、本作のキャストに課される課題は、それだけではない。この映画のキャラクターたちは皆、本音を隠してその場に座っている。つまり、全員が「嘘つき」なのだ。そのため、キャスト陣はまずAというキャラクターを創造したのち、(A)のように「見せかけの自分」をまとわなければならない。

『十二人の死にたい子どもたち』は、さまざまな理由を秘めた「死にたい」若者12人が集団自殺をしようと集まったところ、会場に既に死体となった13人目がいたことから疑心暗鬼に駆られ、犯人捜しに乗り出すというミステリー・タッチの物語だ。その中で、彼らが「死にたい」動機も紐解かれていき、ヒューマン・ドラマの濃度が濃くなっていく。

このような展開上、キャストたちは"素直"な演技が許されない。童話「ヘンゼルとグレーテル」のように、常に何らかの"ヒント"を観客に提示する必要がある。テクニカルな演技が必須なだけに、それぞれの実力が丸裸になるともいえるだろう。

detail_191119_photo02.jpg©2017 2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

では、本作の俳優陣の演技について見ていこう。『湯を沸かすほどの熱い愛』('16)で圧倒的な「泣きの演技」を見せた杉咲花は、今回は異常に高圧的な「嫌われ役」を演じている。攻撃的な物言いで他者との会話を遮り、主導権を握ろうとするが、近寄り難いオーラも放ち、自らの情報を提示しようとしない。しかし時折、目の奥に「おびえ」のようなものを垣間見せ、観る者に何らかのメッセージを送ってくる。

detail_191119_photo03.jpg©2017 2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

杉咲花が場の空気を加熱する「動」の演技を請け負った存在なら、落ち着かせる「静」の演技を見せるのが北村匠海だ。堂々たる存在感を披露した『影踏み』('19)が公開中の北村は、流れるような自然な口調で虚実感の強い作品に真実味をもたらす。特筆すべきは、会話に滑り込む技術力の高さだ。個性的なキャラクターだらけの本作で、「普通」でいなければならない、というポジションは役に任せた「飛び出し」ができないが、約束事を守りつつ見事に会話を転がしている。

detail_191119_photo04.jpg©2017 2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

"探偵"役として物語の「進行」を任されたのは、新田真剣佑。『ちはやふる』シリーズでの穏やかに包み込むような演技、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』('17)でのオラオラ演技など、役によって演技のトーンをしっかり変えてくる新田は、オーラを完全に消しつつ、病弱ながら推理力は超人的というキャラクターを熱演している。

detail_191119_photo05.jpg©2017 2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

 他にも、『散歩する侵略者』('17)の超然とした演技で度肝を抜いた高杉真宙は真意を見せない自殺イベントの発起人、『カツベン!』('19)でヒロイン役に抜擢された黒島結菜は狂信的な感情を隠したミステリアスな女性、橋本環奈は『銀魂』シリーズのイメージを覆すシリアスなキャラクターに挑戦し、『3月のライオン』('17)では大友啓史監督、『アイネクライネナハトムジーク』('19)では今泉力哉監督と組み、成長著しい萩原利久は吃音の役柄をこなしている。いずれも、一筋縄ではいかない難役ばかりだ。

detail_191119_photo06.jpg©2017 2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会

 このように、演技の比重に重きを置いた作品は、タスクが多い分、役者を加速度的にパワーアップさせるものだ。未完成や粗削りな部分も含めて「可能性」を感じさせる12人の若手たちは、今後どのような成長曲線を描いていくのか。楽しみに見守っていただきたい。


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  • SYO
    東京学芸大学卒業後、編集者を経て映画ライターに。
    CINEMORE、FRIDAYデジタル、映画.com、DVD&動画配信でーたなどに寄稿。Twitter(@SyoCinema)フォロワーは1万4000人超。


[放送情報]

十二人の死にたい子どもたち
WOWOWシネマ 11/23(土・祝)よる8:00
WOWOWプライム 11/24(日)午後1:15
WOWOWプライム 11/27(水)よる7:55
WOWOWシネマ 12/1(日)午前9:00
WOWOWシネマ 12/19(木)午後1:00
WOWOWシネマ 12/29(日)午前7:00


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