2020/07/14 up

日本映画界の頂点に立った、韓国人女優シム・ウンギョンとは

『新聞記者』7/19(日)よる9:00他

文=くれい響

 松坂桃李とW主演を務めた『新聞記者』('19)にて、第43回日本アカデミー賞で外国人として史上初となる最優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョン。彼女が韓国エンタメ界において、どのような女優であり、どのようなキャリアを積んできたのか? その類い稀な魅力について振り返る。

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 1994年生まれ、現在26歳である彼女のキャリアの原点は、9歳での子役デビューに遡る。連続ドラマにおけるヒロインや主要キャラの幼少時代を演じることで、いわゆる"名子役"として注目されていくのである。その代表作となるのが、「冬のソナタ」('02)のユン・ソクホ監督による四季シリーズ最終章「春のワルツ」('06)、ぺ・ヨンジュン主演の大型時代劇「太王四神記」('07)、そしてハ・ジウォンの幼少時代を演じ、KBS演技大賞青少年演技賞を受賞した「ファン・ジニ」('06)。この3作は、NHKの地上波でも放送されていたことで、韓国のみならず、日本の韓流ドラマファンにとっても、お馴染みの子役として親しまれていたのである。

 そんな彼女が子役としてではなく、女優として一躍注目されるようになったのが、'11年に公開され、韓国で観客動員730万人超の大ヒットを記録した『サニー 永遠の仲間たち』('11)。これまで演じてきたような、主人公の少女時代という役どころではあるものの、この作品においては回想シーンが主軸となっている。1980年代後半、田舎の漁村からソウルの女子校に転校した引っ込み思案だったマジメ少女が、個性派揃いの女子グループの一員に迎えられたことで、キラキラ輝いていく過程を見事に演じ切った。

 さらに、『怪しい彼女』('14)ではある日突然、20歳の姿に若返ってしまった70歳の老婦人をコミカルに演じ、百想芸術大賞映画部門 女性最優秀演技賞など、数多くの映画賞を受賞。この2本は、後の日本リメイク版である『SUNNY 強い気持ち・強い愛』('18)と、『あやしい彼女』('16)において、広瀬すずと多部未華子がそれぞれ演じている。

 そして、彼女が4年ぶりのTVドラマ復帰作として選んだのが、日本の人気コミックの実写化である「のだめカンタービレ~ネイル カンタービレ」('14)。日本の実写版で上野樹里のハマリ役として知られる、"変態"とも呼ばれる天才ピアニストという型破りなヒロインという高いハードルに挑んだのである。その結果、原作者の二ノ宮知子からも、「心のこもった演技が素晴らしい」とお墨付きをもらうほどの好演を見せている。

 このように、若干20歳にして韓国エンタメ界が誇る若手女優として、確固たる地位を築いていたウンギョンが'17年に日本の芸能事務所ユマニテとマネジメント契約を結んだのは、かなり意外だったと言える。ちなみに、彼女が所属するユマニテといえば、過去には満島ひかりが所属し、現在は安藤サクラ、門脇麦などの演技派女優が数多く所属しており、まさに心機一転の再スタートを切ったといえるのだ。

 そんな彼女が、夏帆演じるヒロインの謎の友人役を務めた『ブルーアワーにぶっ飛ばす』('19)に続いて出演した日本映画が『新聞記者』であった。現役新聞記者の望月衣塑子による著作を原案にした本作でウンギョンが演じたのは、日本人の父と韓国人の母のもと、米国で生まれ育ち、日本の新聞社に所属する社会部記者、吉岡エリカ。新聞記者だった亡き父の「誰よりも自分を信じ、疑え」という言葉を胸に秘め、彼女は上層部からの圧力に対しても屈せず、真実に立ち向かう。

"真実と選択"をテーマに、女性ジャーナリストの性的暴行事件や特区の新設大学にまつわる内部告発といった、誰もが耳にしたことがあるようなスキャンダルが扱われているため、主演の候補に挙がった有名女優が断った噂も出るほどの難役であり、膨大な量のセリフには難解な専門用語が満載。そして、シリアスかつ孤独感漂うエリカの人物像は、これまでコメディエンヌとしてのイメージが強かったウンギョンから程遠い。そこにあえて挑んだウンギョンの女優魂はかなりのもので、劇中では彼女の大きな瞳から鬼気迫るものを感じるほどだ。この演技により、彼女は先の日本アカデミー賞だけでなく、第74回毎日映画コンクール女優主演賞や第11回TAMA映画賞最優秀新進女優賞も受賞することになった。

detail_200714_photo02.jpg©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

 まさに日本映画界の頂点に立った『新聞記者』後も、芸人バカリズム原作による劇場版『架空OL日記』('20)で、主人公たちの同僚となる銀行員役で笑いを誘ったかと思えば、韓国で6年ぶりのTVドラマ復帰作となった「マネーゲーム」('20)では、企画財政部の新任事務官を熱演。名子役からコメディエンヌ、そしてカメレオン女優へと華麗に進化を遂げている彼女の勢いは、まだまだ、とどまるところを知らない。


  • くれい響
  • 文=くれい響
    1971年生まれ。TV番組制作、『映画秘宝』編集部を経て、映画評論家に。雑誌、ウェブ、劇場パンフレットなどに映画評やインタビュー記事を寄稿。


[放送情報]

新聞記者
WOWOWシネマ 7/19(日)よる9:00
WOWOWプライム 7/22(水)よる7:00
WOWOWシネマ 7/30(木)午後2:45
WOWOWプライム 8/12(水)よる6:30


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