「ジャック・リーチャー NEVER GO BACK」8/14(火)午前8:25ほか
トム・クルーズといえば押しも押されもせぬトップスターであり、どんな危険なアクションも自分でこなす命知らず。それだけでも現実に存在するとは到底思えないぐらいなのに、加えてハリウッドを代表する大物プロデューサーでもある。そこで今回は、映画プロデューサーとしてのトム・クルーズにスポットを当ててみたい。
トムが最初に映画のプロデュースに乗り出したのは1996年の『ミッション:インポッシブル』。子どものころから好きだったというTVシリーズ『スパイ大作戦』の映画化企画に、主演するだけでなくプロデューサーとしても名乗りを上げたのだ。
映画スターが主演作でプロデューサーを務めることは珍しくない。スターになることで得た影響力を活かして、自分が本当にやりたい企画を実現させるためにプロデュース業に進出するパターンが多い。
トムが通常のスター兼プロデューサーと違ったところは、普通のプロデューサーなら絶対に許可しない超危険なスタントを、"主演俳優であるトム・クルーズ"に許したこと。通常の撮影現場なら、主演スターがケガをすればスケジュール的にも予算的にも大問題となるので極力スタントマンを使う。しかしトムはプロデューサーも兼ねることで「主演スターが一番危険なスタントをやる」というクレイジーな方針を押し通すことができたのだ。
そのムチャが如実に表れているのが「ミッション:インポッシブル」シリーズであり、クルーズの命知らずのスタントはもはや名物として世界のニュースをにぎわせるようになった。あり得ないことを押し通したら最大の売りになったのだから、プロデューサーとしてかなりのやり手だと言っていい。
プロデューサーとしての辣腕を証明しているのは、もちろんアクションシーンだけではない。常に人材に目を光らせて、これはと思う才能を見つければ有名無名にこだわらずに引き込んでしまう。その最たる例が現在公開中の『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』('18)の監督、クリストファー・マッカリーだ。
マッカリーは、もともとは『ユージュアル・サスペクツ』('95)などブライアン・シンガー監督とのコンビで知られた脚本家で、トムとの初仕事は、彼の主演作でシンガーが監督した第二次世界大戦映画『ワルキューレ』('08)の脚本。その縁で、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』('11)ではノークレジットで脚本の手直しを依頼されている。
トムは翌年製作の『アウトロー』('12)でマッカリーを監督として起用。さらに"ミッション:インポッシブル"チームに移籍させるような形で『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』('15)、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』と2本連続で監督を任せ、周囲を驚かせた。「ミッション:インポッシブル」シリーズは毎回監督が交代することがお約束になっていたのに、クルーズ自らその前例を破ったのだ。これはマッカリーなら素晴らしい仕事をしてくれるという信頼の証に他ならないが、マッカリーのキャリアはこの10年、ほとんどトム・クルーズに占有されているようなものだ。
同じような"囲い込み"はプロデューサー=クルーズの得意技。自分が出演しない『NARC ナーク』('02)をプロデュースしたのは監督のジョー・カーナハンに『M:i:III』('06)を任せるための布石だっただろうし(結局は撮影前に降板)、『ラストサムライ』('03)のエドワード・ズウィック監督には、マッカリーを引き抜いた穴を埋めるべく『アウトロー』の続編『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』('16)を任せている。
J・J・エイブラムスは『M:i:III』で映画監督デビューを果たしたし、アニメ監督だったブラッド・バードは『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』で初めて実写映画を撮ることになった。どちらもクルーズの鶴の一声による大抜擢だったのだ。
常に才能を発見し、大きな仕事を任せ、映画作りへの熱い情熱と捨て身のスタントで相手を魅了し、やがては自らの懐刀としてトム・クルーズ一座に組み込んでいく。まるで国盗りゲームの武将であり、ついていきたい理想の上司像でもある。そして生き馬の目を抜くハリウッドのパワーゲームで、少年のような純真さを発揮するとびきりの"映画バカ"。全部をひっくるめると出来上がるのが、奇跡を起こす大スター=プロデューサー=トム・クルーズなのである!
文=村山章
[放送情報]
ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
WOWOWシネマ 8/14(火)午前8:25ほか
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