「クリード チャンプを継ぐ男」10/8(月・祝)よる9:00
三流ボクサーがチャンスをつかみ、不屈の根性を武器に王座へと駆け上がる、そんなドラマが世界中の共感を引き寄せた『ロッキー』シリーズ('76~'06)。主人公ロッキー・バルボアを演じ、ときには脚本や監督を手掛けてきたシルヴェスター・スタローンは感動的な第6作『ロッキー・ザ・ファイナル』('06)で、一度はシリーズの終焉を宣言。しかし、"伝説"は受け継がれた。『クリード チャンプを継ぐ男』('15)は、『ロッキー』シリーズを正しく継いだ21世紀の熱血ボクシング・ドラマだ。
主人公のアドニス(マイケル・B・ジョーダン)は、あのアポロ・クリード(カール・ウェザース)の息子。アポロはロッキーと2度にわたって死闘を演じた元ヘビー級王者で、その後友情を育み、『ロッキー4/炎の友情』('85)でソ連最強のボクサー、ドラゴ(ドルフ・ラングレン)と戦ってリングに命を散らせた。アドニスはアポロが愛人に産ませた子どもで、母親とは幼くして死別。施設を転々としていた頃に、アポロの未亡人に引き取られて育った。父のことはまったく知らないが、アドニスの胸には父と同じボクシングへの並々ならぬ情熱が秘められていた。そんな彼が、引退していたロッキーを訪ね、「トレーナーになってほしい」と頼んだところから、ドラマは大きくうねり始める。
この大筋だけでも、本作が『ロッキー』シリーズの続編であることが分かるだろう。実際、本作は多くのシリーズとのリンクを含んでいる。アドニスがロッキーを訪ねてからは、ロサンゼルスからフィラデルフィアへと舞台が変わるが、フィラデルフィア美術館へ駆け上るシーンや、ジョギングの場面は『ロッキー』に対する明快なオマージュだ。また、『ロッキー3』('82)のラストで描かれ、決着が誰にも分らなかったロッキーVSアポロの3度目の対決の行方についても言及される。
しかし、何よりも大きなリンクはスピリットの部分だろう。『ロッキー』シリーズのロッキーは、最初は周囲に軽んじられるチンピラに過ぎなかった。チャンピオンへの挑戦権を得たことで、彼は自分がただの負け犬ではないことを証明する機会を得る。本作のアドニスも同様で、アポロの血を引いているとはいえ、私生児であり、それゆえの負い目を抱えて生きてきた。自分は、過って生まれてしまったのだろうか? 王者との戦いは、そうではないことを証明するチャンスでもあった。"何者でもない自分"が、オンリーワンの自分であることを証明するための戦い。そのために、アドニスはロッキーと同様に血のにじむような特訓を積み重ねるのだ。そこには底辺から頂点を目指す者の揺るぎない意志の力がみなぎっている。
驚くべきことに、本作のアイデアは『ロッキー』シリーズの関係者によってもたらされたものではない。低予算の監督デビュー作『フルートベール駅で』('13)を撮ったばかりの当時20代の新鋭ライアン・クーグラーの発案によるものだ。アポロに遺児がいた...というアイデアはハリウッドのメジャースタジオを動かし、さらにはスタローンのハートをも動かして、『ロッキー』シリーズの正式な続編として製作されることになった。結果、本作は大ヒットを記録したばかりか高評価を獲得。クーグラーは本作の成功をステップにして、その後マーベル・コミック原作の『ブラックパンサー』('18)の監督を務め、同作を2018年最大の全米ヒット作に押し上げた。クーグラーもまた、ロッキーやアドニスと同様に底辺から頂点へと上り詰めた、アメリカン・ドリームの体現者なのだ。
『ロッキー』から『クリード チャンプを継ぐ男』に継がれた伝説は、さらに続く。アドニスのその後を描く『CREED II(原題)』が年内に全米で、2019年1月には日本で公開される予定。ここでアドニスは、父アポロをリングに沈めたドラゴの息子との因縁の対決に臨むという。もちろん、その脇にはボクサーとして、人生の先輩として、彼を導くロッキーもおり、ドラマチックな物語が展開されることは間違いない。まずは、新たな伝説の起点である『クリード チャンプを継ぐ男』を見逃すべからず!
文=相馬学
[放送情報]
クリード チャンプを継ぐ男
WOWOWシネマ 10/8(月・祝)よる9:00
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