「スリー・ビルボード」11/18(日)よる9:00 ほか
映画『スリー・ビルボード』は、第90回アカデミー賞で主要6部門にノミネートされ、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)と助演男優賞(サム・ロックウェル)を獲得した。これは作品が優れている証明であることはもちろん、キャストの演技が素晴らしい映画であると思ってもらって間違いない。
殺された娘の犯人が見つからないことに業を煮やし、町の警察と対立する母親を演じたフランシス・マクドーマンドは、過去に『ファーゴ』でも第69回アカデミー賞主演女優賞に輝いている、押しも押されもせぬ大女優。『スリー・ビルボード』でも大本命と目されていたので、受賞は誰もが順当だと思ったはず。助演男優賞のサム・ロックウェルもまた、差別主義者の警官を白黒曖昧に妙演して下馬評通りに初のオスカー像を手にした。
この助演男優賞部門で面白かったのは、ロックウェルがオスカーを争ったライバルが、同じ『スリー・ビルボード』に出演していたウディ・ハレルソンだったこと。ハレルソンはロックウェルが演じた警官の上司である町の警察署長を演じており、この年のアカデミー賞では、上司と部下が一緒にノミネートされていたことになる。
2人が演じた役は、一見正反対だ。ロックウェルの役どころは、感情の高ぶりが抑えきれず、ところかまわず暴力を振るってしまう粗野な田舎者。対してハレルソンは、事件の犯人が見つからないことを責められても、冷静に受け止める度量の大きい年長者。署長にとって、問題ばかり引き起こすロックウェル演じる年下の警官は悩みのタネのはずなのだが、署長はあくまでも寛容な態度で見守っている。
そのうち分かってくるのは、署長が年下の警官の中に、かつての自分を重ねていたのではないか、ということ。似た者同士だったからこそ、欠点ばかりのロクデナシの中に美点を見つけ、そのおかげでロックウェル演じる警官は劇的な変化を遂げることになるのだ。そんな師弟関係を、あくまでもぶっきらぼうに、ウェットな2人の感動シーンを一切入れることなく表現した演出も演技も本当に素晴らしい。
実はハレルソンもロックウェルも、個性派俳優であることがある意味で足かせとなり、アクの強いキャラにばかりキャスティングされる傾向があった。ハレルソンの名を世に知らしめたのは、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の暴力と殺人を繰り返すサイコ野郎と、ポルノ雑誌でのし上がった男の破天荒一代記『ラリー・フリント』だった。ロックウェルは、膨大な本数の映画で宇宙のスチャラカ大統領や自称CIAスパイのテレビマンなど振り切ったキャラを演じてきたし、そのどれもが陰と陽のどちらにも転ぶ狂気を秘めていて、とにかくこの2人に"ヤバい役"を振っておけば安心、という風潮すらあった。
ところが『スリー・ビルボード』では、2人の強烈な個性を活かしつつも、あくまでも田舎住まいの等身大の庶民の姿を演じさせていて、その狙いはみごとに的中している。2人が持っている不穏な空気が――特にロックウェルに関しては、前述した"ヤバさ"が映画前半の人間的な拙さに直結していて、だからこそ後半の転調がより一層際立ってくるのだ。
つまり『スリー・ビルボード』は"ヤバい"名優2人が、その演技力の高さと深みを最良の形で発揮したケースであり、ハレルソンやロックウェルのファンにも、そして今まで彼らを気にしていなかった人たちにとっても、彼らのベストアクトを満喫できるまたとない作品なのである。
文=村山章
[放送情報]
スリー・ビルボード
WOWOWシネマ 11/18(日)よる9:00 ほか
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