「今夜、ロマンス劇場で」12/15(土)よる8:00
映画監督への夢を持ち、足繁く映画館「ロマンス劇場」に通う青年、健司(坂口健太郎)。彼は、映写室で見つけた戦前のモノクロ・フィルム『お転婆姫と三獣士』に登場するお姫様、美雪(綾瀬はるか)に恋をしてしまう。すると、奇跡が起き、美雪がモノクロのまま実体として健司の前に出現。2人は一緒に生活を始めるのだが、2人は触れ合うことができない。なぜなら、思いを寄せた相手に触れると、美雪は消えてしまう運命にあったから......。
綾瀬はるかと坂口健太郎のW主演によるラブ・ロマンス『今夜、ロマンス劇場で』('18)は、今が旬の2人の共演が話題になった。だが、それだけではない。公開されてすぐに話題になったのが、古き佳き時代の名画を数々彷彿とさせる設定やシーンが盛りだくさんだったこと。ここでは、映画ファンをうならせたそれらオマージュについて解説する。
まず映画のヒロインが現実世界にやってくる、という設定。これはウディ・アレン監督の『カイロの紫のバラ』('85)とそっくり。『カイロ~』は、30年代のアメリカを舞台に、失業中の夫を支えるセシリア(ミア・ファロー)が夢中になっていた『カイロの紫のバラ』という映画の登場人物が現実世界に現れる、というもの。男女キャラの入れ替わりはあるものの、健司もセシリア同様に実生活に行き詰まりを感じて、映画で現実逃避をしているというところまで似ている。
また、モノクロの美雪が現実世界に現れてから次第に生活になじみ、カラーになっていくというくだりは、『カラー・オブ・ハート』('98)の真逆。『カラー~』は、古いモノクロのTVドラマにはまった男子高校生デイビッド(トビー・マグワイア)が、ある日そのドラマ世界に入り込んでしまうというもの。同じことが繰り返されるドラマの世界に彼が入り込んだことで変化がもたらされ、次第にその世界が色づき始めていくのだが、本作においては美雪がその"ドラマ世界"そのもののように、自身の変化とともに色を持ち始める。
その美雪だが、古いお姫様映画から抜け出た設定だが、その映画がまるで『オズの魔法使』('39)のようでもあり、狸などがお姫様の相棒ということから、木村恵吾監督のオペレッタ映画『狸御殿』シリーズ('39~'59)も想起させる。また、おてんば過ぎるキャラとその名前から思い浮かべるのは、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』('58)のヒロインだろう。しかも、庶民の健司とお姫様の美雪という格差恋愛や、美雪の好奇心旺盛な性格、ゴージャスなドレス姿は、オードリー・ヘプバーンの名作『ローマの休日』('53)にも似ている。
実際の映画が流れるシーンで使われるのは、ハンフリー・ボガートの「君の瞳に乾杯」の名台詞でおなじみの『カサブランカ』('42)。ラブ・ロマンスの傑作中の傑作といわれる作品を使っているのは、本作がロマンスの定番中の定番と匂わせるためか?(最後まで観れば、定番とは違う結末が待っていることが分かるだけに、引っかけのようにも感じるが)
触れると消えてしまうからラブ・シーンなし。だが、ガラス越しにキスをするという粋なシーンが盛り込まれている。これは言わずと知れた今井正監督の『また逢う日まで』('50)。日本映画の歴史において、最高に美しいキス・シーンとされるアレにオマージュを寄せ、シーンの美しさを際立たせている。
そして、最後まで観なければわからない、加藤剛が演じる老人の役どころ。この作品が映画の遺作となってしまった加藤にとっては、本作が古き佳き映画へのオマージュにあふれていることや、争い事を嫌う健司と美雪への共感があって出演を決めたのではないだろうか、と勘繰ってしまう。なにせ彼は映画界&ドラマ界を支え続けてきた名優であり、常に上質な作品を選び続けてきた大ベテラン。そんな彼が、出演シーン自体は少ないながらも重要な役柄を引き受けたのは、本作に流れる"佳き人による佳き人のためのラブ・ロマンス"というピュアなメッセージがあったから......と、鑑賞後に感じ取れるはずだ。
文=よしひろまさみち
[放送情報]
今夜、ロマンス劇場で
WOWOWシネマ 12/15(土)よる8:00
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