「スプリット」2/10(日)よる9:00
マーベル系のスーパーヒーローが集結する『アベンジャーズ』に代表される、同じ世界観を共有するマーベル映画群は"マーベル・シネマティック・ユニバース"と総称されている。昨今の映画界ではこういった"ユニバース"がいくつも展開されていて、例えばハリウッド版『ゴジラ』は今後『キングコング』と対決することになっている。
そんな中、最新作『ミスター・ガラス』が公開されたばかりの鬼才監督M・ナイト・シャマランも独自の"ユニバース"を展開! 実は"シャマラン・ユニバース"はずっと前から始まっており、その存在を世に明かした重要作が、シャマランの前作『スプリット』('17)だ。
『スプリット』は、女子高校生を誘拐・監禁した犯人ケビンが、実は「23の人格を持った多重人格者だった!」という仰天サイコ・スリラー。誘拐された側にしても、一体いま目の前にいる犯人が"事件を起こした凶悪な人格"なのか、"事件のことを知るよしもない無実の人格"なのかが分からない。しかもケビンの中にいる複数が結託して、"最凶"にして最強の24人目の人格"ビースト"を召喚しようとしているらしいのだ!
ハリウッド随一のトリック・スター監督シャマランだけに、観客は先読みの予想や先入観を次々と覆されて、物語は思いもよらぬ方向へと進んでいく。そして"サイコ・スリラー"というジャンルすらも疑わしいものになっていく。この辺りの油断のならなさこそが、シャマランという映画作家の真骨頂といえるだろう。
"シャマラン・ユニバース"に話を戻そう。その始まりとなったのが、シャマランが大出世作『シックス・センス』('99)に続いて発表した2000年の『アンブレイカブル』。ブルース・ウィリス扮する主人公デヴィッドが、131人が死亡した列車事故で唯一、無傷で生還する。「一体なぜ自分だけが?」という疑問から、やがてデヴィッドは、"不死身の身体を持つ正義のヒーロー"という役割に目覚めていくのである。
実はシャマランはかねてより『アンブレイカブル』続編の構想について語っていた。デヴィッドと、その宿敵となるミスター・ガラス(サミュエル・L・ジャクソン)の物語に、まだまだ可能性を感じていたのだろう。しかしシャマランのキャリアが一時期低迷したこともあり、『アンブレイカブル2』が作られることはなかった。
ところが、だ。『スプリット』のラスト・シーンで、ブルース・ウィリスがカメオ的に登場し、それが『アンブレイカブル』のデヴィッドであることが明かされたのだ。つまり、『アンブレイカブル』と『スプリット』の世界はつながっていたのだ!
そして、『アンブレイカブル』の主人公デヴィッドと、『スプリット』のケビンが激突するのが最新作の『ミスター・ガラス』なのだが、タイトルを見てもらえば分かるように、『ミスター・ガラス』は『アンブレイカブル』に登場した悪役、イライジャことミスター・ガラスの物語でもある。人知を超えた能力を持つ彼らには、果たしてどんなつながりがあって、いかなる運命が待ち受けているのか? ひと癖もふた癖もある"シャマラン・ユニバース"を満喫するためにも、全体の鍵を握る『スプリット』は決して見逃せない一作なのである。
文=村山章
[放送情報]
スプリット
WOWOWシネマ 2/10(日)よる9:00
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