「blank13」3/2(土)よる10:00
斎藤工さんと板谷由夏さんが、話題の映画の魅力を語りつくす映画情報番組「映画工房」。今回は、斎藤工さんが「齊藤工」名義でメガホンを取った長編監督デビュー作『blank13』(17)を取り上げます。放送作家のはしもとこうじの実体験を基に、音信不通だった父親が余命3カ月の状態で発見されたことから再び動きだす家族の物語を綴る。父親に対して複雑な感情を抱く主人公、コウジを高橋一生、その父、雅人をリリー・フランキーが演じる。
板谷「さぁ、とうとうこの日がやってまいりました」
斎藤「そうですね」
板谷「この番組で、映画工房で、工君の映画を紹介する日が」
斎藤「本当に皆さんのおかげです」
板谷「高橋一生さんとのコミュニケーションを含め、製作の日々がどうだったのかっていうのはとても興味あります。世代的には?」
斎藤「ほぼ一緒です。一生さんがひとつ年上なくらいです。一生さんの名前が出たときから僕とはしもとさんは「一生さんで撮りたい」と決めていて。でも一生さんは、プライベートを含めてあまりにも類似するような体験をされた直後だったので、実は何度かお断りされました。だけど、最後の最後に、脚本の西条みつとしさんに『違う角度から物語をつくってほしい』ということをお願いした紙1枚だけを持って、『読まなくてもいいので持って帰ってください』と一生さん宛てに渡しました。その後『一生さんは出演しない方向で』となった翌日に、ご本人から連絡をいただき『これはできると思います』と。そこからは一生さん、本当に台本に寄り添ってくださいました。当初の台本にあった感情の断定、"(涙)"みたいなものを全部排除していったんです。悲しいときに人間が泣くとは限らない、というのが一生さんの実体験としてあったらしいので。映画全体のトーンがまさに一生さん自身が持っている質感みたいなものにどんどんなっていきました。だから、現場で指示したことはほぼ導線くらいで、クランクインの日までの一生さんとの時間が、この作品の指針になっています。はしもとさんもそうですけど、そういう個々の力を総動員しました」
板谷「なんか、動いたね」
斎藤「そうなんです。だから僕、本当に監督って呼べないくらい、総合力の賜物でしかないというのが正直な気持ちです。差し入れ多めの俳優でしたね(笑)」
板谷「(笑)」
13年前に蒸発したコウジの父、雅人が余命3カ月の状態で見つかった。母の洋子と兄のヨシユキは見舞いを拒み、病院を訪ねたコウジも金の無心をする雅人に失望。家族の溝は埋まらないまま、雅人は帰らぬ人となった。葬儀の日、参列したのは数少ない雅人の友人たち。やがて彼らは、僧侶に促されて雅人の思い出を語り始める。そこで明らかになったのは、コウジや家族が誰も知らない、人情味あふれる雅人の生きざまだった。本作の見どころは?
板谷「私は後半が泣けた。お父さんを葬儀の参列者によって知るというところ。例えばうちの家族が同じことになったときに、私が知っている家族と、みんなが知っているその人、故人のことって一致することがすべてじゃないし、しないことだってある。それを亡くなったことによって気付くってとこがね、グッと来た。あの場面によって、持って帰るものがお客さんは多かったと思う。自分の家族のこととか、自分の家族の自分が知らない面とか。もっと言うと、自分の、家族が知らない面だってあるわけだから」
斎藤「そうですね」
板谷「そういう意味では、あそこで"家族"というものが浮き彫りになるというか、"家族"って? みたいなことを考えさせられる感じが、あなた(斎藤)らしいなって観てた」
斎藤「ありがとうございます。僕の中でポイントが2つあって。一生さんとリリー・フランキーさんは、コウジと雅人が13年ぶりに再会するシーンを、実際にお2人が初めましての状況で演じています。実験的ではあるのですが、お互いの湿度みたいなものを感じ合う会話になっている瞬間を収めました。そしてラストシーン、最後の一生さんの表情に関しては、僕は兄のヨシユキ役で出演していたのでモニターチェックをしていません。カットがかかった後、モニターを観ていたはしもとさんが号泣しているのを見て"ノー・ルック・オッケー"を出しました(笑)。一生さんが、人間は本当に悲しいときにどういう感情になるか、そのときになってみないと分からないとおっしゃっていた、その表情が撮れたんだと目じゃない部分で確認できた。ここはもう、二度と撮れないワンテイク・ファーストカットの奇跡だと思います。その辺が見どころかもしれません。ぜひお付き合いください」
WOWOWシネマで放送される注目の作品をピックアップしてレース形式でチェックする映画工房ダービー。今週のレースは2月25日から始まる【『ワイルド・スピード』8作品一挙放送】から、「どのワイルド系男子が好き?」を渋谷の女子たちにチェックします。
【話題の映画やWOWOWシネマならではの特集の魅力を、映画好きの俳優、斎藤工と板谷由夏が語りつくす。映画との新たな出会いを提供する映画情報番組・映画工房】
最新記事
-
2020/07/24 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第17回『あの日のオルガン』
-
2020/07/21 up
メガヒット劇場
私たちがホアキン・フェニックス版『ジョーカー』に共鳴する理由、あるいは"プロト・ジョーカー"説
-
2020/07/17 up
ミヤザキタケルの『シネマ・マリアージュ』
第17回 ありのままの自分であるために。時代を超えて描かれる人間の孤独
-
2020/07/14 up
その他
日本映画界の頂点に立った、韓国人女優シム・ウンギョンとは
-
2020/07/10 up
スピードワゴン小沢一敬の『このセリフに心撃ち抜かれちゃいました』
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第18回の名セリフは「謝るなんてな、ほんのちょっとの辛抱だよ」
-
2020/07/08 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第16回『記憶にございません!』