「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」3/23(土)よる8:00
とにかく今、ファンの期待を一身に集めている映画といえば『アベンジャーズ/エンドゲ ーム』(4月26日公開)でしょう。前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で衝撃的すぎる結末を迎えただけに、『~エンドゲーム』で奇跡が起こることを皆望んでいるわけです。そういう意味でも『~インフィニティ・ウォー』を観直したいのですが、改めてここで重要なキャラクターであるサノスについて振り返ってみましょう。
ご存知のようにサノスが6つのインフィニティ・ストーンを使って全宇宙の生命を半分に減らしてしまいました。本作と『~エンドゲーム』の監督であるアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟はサノスのあの行為のことを"デシメーション"(大量殺戮・間引きの意味)と呼んでいるそうです。原作コミックでもサノスは同様の行為をするわけですが、ちょっと動機が違うんですね。
映画版ではサノスは全宇宙の存続のためには生命を半分にしないと限りある資源がなくなってしまう、というバランス論であの凶行に及ぶわけです。コミックでは、すごく大雑把に言うとサノスがデスという超存在に恋をしてしまう。デスの名から分かる通り彼女は死神みたいなもので、彼女の気を引くために、サノスは生者と死者の数を同じにしましょうと全宇宙の生命の半分を消してしまうのです。
やっていることは同じですが映画版では宇宙を救うという大義、コミックでは恋のためだったのです。僕はコミックを読んだ時にこれだけとんでもないことをしながら、実は片思いが理由だなんて、と思ったのですが、こういう人間味がマーベルらしいところです。昨年天に召されたスタン・リー氏が、マーベルのヒーローたちが愛される理由は、「彼らが完璧な存在ではなく欠点や悩みを抱えた存在だからだ」と言っていました。と同時に「完璧な悪人なんてのもいないのだ。悪党(ヴィラン)にもどこか同情すべき面、弱いところがあるんだよ」と。
コミックのサノスに僕が感じた"人間味"みたいなものは映画版でも十分活かされていました。映画をご覧になるとお分かりになりますが、サノスは確かに強く、怖いキャラだけど、どこか脇の甘いところがありますよね。娘ガモーラに見せる涙やハルクに対してあれだけの強さを見せながら、スパイダーマンに糸を吹き付けられて慌てたり、どこか憎めないところがあります。その後の結果はともあれ、自らの手でヴィジョンを殺してしまったワンダに見せるサノスの優しさなど、冷酷非情のキャラでないことが分かるのです。
©2018 MARVEL
ルッソ兄弟はサノスもまた、彼なりの信念で全宇宙を救おうとしている"ヒーロー"として描いていたのかもしれません。そう考えると『~インフィニティ・ウォー』という作品が"途中で終わっている"とは言えず、作品として完結していることが分かります。"途中で終わっている"という意味は、基本ヒーローものなんだから、主役のヒーローたちが悪を倒すべきでしょう。なのにアベンジャーズはサノスを倒していない、ということですが、『~インフィニティ・ウォー』の主役がサノスであり、そのサノスが困難を乗り越え、自分のミッションを達成するまでのお話だったと考えれば納得がいきますね。
『~インフィニティ・ウォー』のエンド・クレジットで"THANOS WILL RETURN(サノスは帰ってくる)"と表示されますが、この表示は一連のマーベル・シネマティック・ユニバース作品では今まで、全てヒーロー名でした。例えば『アントマン』('15)のラストには"ANT-MAN WILL RETURN"と表示され、続く『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』('16)にアントマンが登場、『シビル・ウォー~』の時は"SPIDER-MAN WILL RETURN"で『スパイダーマン:ホームカミング』('17)に続きます。ということは、サノスもまた重要な役割で『~エンドゲーム』に登場するということであり、サノスを単なるヴィラン(悪役)としてルッソ兄弟は認識していないのでしょう。というわけで『~エンドゲーム』が楽しみですが、物語と並んでサノスがどういう立ち位置で登場するかも注目ですね!
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文=杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書で、アメコミ映画・ドラマまわりの記事やコラムなどを執筆。東京コミコンのスーパーバイザー&MCとしても活動。 現在「スクリーン」「ヤングアニマル」で執筆。『ヴェノム』『スパイダーマン:スパイダーバース』などの日本語吹替版の監修も務める。
[放送情報]
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー
WOWOWシネマ 3/23(土)よる8:00
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