第3作では、超能力で友人を殺害してしまったスキャナー青年(スティーヴ・パリッシュ)が、タイの僧院で精神修養を積み、邪悪な姉との対決に身を投じていく。どちらも、のちに『スクリーマーズ』('96)、『アサインメント』('97)、『アート オブ ウォー』('00)といったSFやアクションの佳作を発表した職人、クリスチャン・デュゲイが監督を務めている。もちろん、両作品とも趣向を凝らした頭部爆発シーンが盛り込まれているので、そちらもおそるおそるお楽しみに!
『スキャナーズ』4/12(金)よる11:00
今や映像化不可能なものはないとさえいわれるデジタル・テクノロジーのCGが、映画業界で本格的に普及していったのは『ジュラシック・パーク』('93)以降のこと。それ以前の1980年代のハリウッドでは、アナログなSFXと特殊メイクを駆使したホラーやSFが大量生産された。とりわけサム・ライミ監督の長編デビュー作『死霊のはらわた』('81)は、超低予算ながら創意工夫に富んだグロ描写を全編にちりばめ、スプラッタ・ホラーの一大ブームを巻き起こした。
その同年、カナダで製作されたデヴィッド・クローネンバーグ監督の『スキャナーズ』('81)もまた特殊メイクの威力が絶大な効果をあげた作品だが、こちらのインパクトは『死霊のはらわた』とはかなり異なっていた。世界征服の野望を抱く怪人レボック(マイケル・アイアンサイド)が、超能力の公開実験中にスキャンと呼ばれるテレパシー&サイコキネシスを発揮し、もうひとりの超能力者の頭部を爆発させてしまう衝撃的なシーン。しかも初公開時、そんなトラウマ級のショック描写がクライマックスではなく、序盤わずか10分過ぎに炸裂するとは誰も予想しておらず、『スキャナーズ』はこのワン・シーンだけで映画史にその名を刻むサイキック・ホラーとなった。
『スキャナーズ』には特殊メイク界の2人のレジェンドの名がクレジットされている。頭部爆発シーンを担当したのは、当時ルーカスフィルムに所属していたクリス・ウェイラス。石膏や蝋人形を空気の圧力で爆発させるなどの試行錯誤を繰り返したのち、ラテックスやゼラチン、血のりのシロップを用いて作り上げた頭部の模型を、後ろからショットガンで撃って粉砕するという荒っぽい手法でこの爆発シーンを映像化した。本作で注目を集めたウェイラスは、その後『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』('81)、『グレムリン』('84)といった大ヒット作で重要な仕事をこなし、クローネンバーグ監督と組んだ『ザ・フライ』('86)における蝿男の特殊メイクで第59回アカデミー賞メイクアップ賞を受賞した。
©1980 AVCO EMBASSY PICTURES CORP
もうひとりは、リンダ・ブレアを悪魔に憑かれた少女におぞましく変貌させた『エクソシスト』('73)、ポール・ルブランクと共に第57回アカデミー賞メイクアップ賞に輝いた『アマデウス』('84)などで名高いディック・スミス。この大御所はスキャナーの超能力によって顔面や腕の血管が浮き出し、おどろおどろしく出血するシーンを担当した。これらの見せ場は今見直してみると最先端のCGほど滑らかではないが、実際にカメラの前にある物体を歪ませ、膨張させ、破裂させた特殊メイクの生々しいリアリティと迫力は尋常ではない。
『スキャナーズ』は、それまでアングラなアート系監督、もしくはドライブイン・シアター向けのキワモノ映画の作り手というイメージがつきまとっていたデヴィッド・クローネンバーグのキャリアの転機となった。確かに、善と悪のスキャナーの攻防がテンポよく展開し、銃撃やチェイス・シーンも満載の本作は、クローネンバーグのフィルモグラフィにおいて最も娯楽性が高いジャンル映画である。
その半面、罪深き医療の影響で人間が変容し、その思念や感情が物理的に具現化していくというクローネンバーグらしい特異なモチーフも追求されている。主人公である善のスキャナー、ベイル(スティーヴン・ラック)が、電話回線を通して超能力研究所のコンピュータを破壊するシーンにはサイバーパンク的な先駆性がうかがえるし、そのときベイルが握りしめた公衆電話の受話器がドロドロと液状化する描写もいかにもクローネンバーグ的だ。
©1980 AVCO EMBASSY PICTURES CORP
また、本作は前述したように善と悪のスキャナーの対決が主軸になっているが、クローネンバーグのオリジナル脚本はストーリーの進行とともに善悪の境界を曖昧化させていき、超能力者たちの苦悩と悲哀に満ちたドラマに仕上げた。ベイルもレボックも、逃亡中にベイルと恋に落ちる美しき女性スキャナーのキム(ジェニファー・オニール)も、社会に疎外された悲劇のアウトサイダーなのである。レボックに扮して圧倒的なカリスマ性を放ったマイケル・アイアンサイド、ベイルを打倒レボックの刺客にスカウトするルース博士を怪しげに演じたパトリック・マッグーハンらのキャストも素晴らしい。
かくして興行的な大成功を収めた『スキャナーズ』は4本のシリーズ作が製作され、そのうち『スキャナーズ2』('90)、『スキャナーズ3』('91)も今回WOWOWで放送される。悪徳警視によって政治的に利用される若きスキャナーの運命を描いた第2作は、内容的にも第1作とつながりがある正統な続編。
『スキャナーズ2』4/12(金) 深夜0:45
©1990 FILMTECH PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED
『スキャナーズ3』4/12(金) 深夜2:30
©1991 FILMTECH PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED
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文=高橋諭治
純真な少年時代に恐怖映画を観過ぎて、人生を踏み外した映画ライター。世界中の謎めいた映画と日々格闘しながら、毎日新聞、映画.comなどで映画評を執筆している。
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