――小沢さんにとってのこの映画の名セリフはどれでしょう?
小沢「ベイビーは寡黙だから、名セリフっていうのも難しいんだけど、好きな子っていうか、気になる女の子ができるじゃない。ベイビーが常連のレストランで働き始めた子(リリー・ジェームズ)で、彼女が明るく『ご注文は?』って訊いてくるんだけど、ベイビーは『君の名前』って言う。そうしたら『それは無料ね』って返してくるんだよね。
「ベイビー・ドライバー」4/29(月・祝)午前11:00他
小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第2回は、天才的な運転テクニックを持つ青年が活躍する痛快犯罪カーアクション映画『ベイビー・ドライバー』('17)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
――今回はいくつかの候補から『ベイビー・ドライバー』を選んでいただきました。
小沢一敬(以下・小沢)「劇場でも観たんだけど、今回改めて観てやっぱり良いなって。俺も、主人公の"ベイビー"(アンセル・エルゴート)みたいに、普段いつもずっと音楽をかけっぱなしにしてる。昔のiPodクラシックに2万曲くらい入れていて、シャッフルで何がかかるか分からないっていう状態が好きで。昔から、デートの時もイヤホンしながらデートしてたし」
――それってケンカになりませんか?
小沢「ならない。なったことない。なんでそうするかっていうと、子供の頃から映画が好きで、映画っていいシーンになると音楽がかかるじゃない。例えば女の子とデートしてて、信号が変わる前に『渡り切っちゃおうよ!』って走り出すとするじゃん。その瞬間を映画のワンシーンみたいにしたくて、どんな曲がかかるだろうって楽しみにしてるの。『わぁ、映画っぽい!』って思えたり『この子だとすげえ暗い曲かかったじゃん!』って思ったり(笑)。もちろん自分の中だけで、彼女にはそんなことは言わないけどね。でもいつも曲がかかっていてほしいから、"ベイビー"の気持ちが分かるっていったらアレだけど、分からないわけじゃない」
――"ベイビー"の特技は車の運転ですが、小沢さんは?
小沢「俺は18歳の誕生日の1カ月前から自動車学校行って、誕生日と同時に免許とった。15歳から働いてて、車を買うおカネも貯めてたから、誕生日と同時に車も持ってた。中古のフェアレディZっていう車で、あの車に乗ってた自分を思い出したっていうのはあったね。カーステで好きな曲かけて、曲が始まらないと出発しないとか、ああいうノリは一緒だなって思ったし。でも真逆だなっていうところもあって、俺って基本、スピード出さないんだ。免許証もゴールド、ゴールドでやってきたし(笑)」
――小沢さんにとってのこの映画の名セリフはどれでしょう?
小沢「ベイビーは寡黙だから、名セリフっていうのも難しいんだけど、好きな子っていうか、気になる女の子ができるじゃない。ベイビーが常連のレストランで働き始めた子(リリー・ジェームズ)で、彼女が明るく『ご注文は?』って訊いてくるんだけど、ベイビーは『君の名前』って言う。そうしたら『それは無料ね』って返してくるんだよね。
©2017 TriStar Pictures, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.
――2人が再会するシーンですよね。最初にレストランで出会った時、2人は打ち解けるけど、ベイビーは彼女の名前すら聞けなくて、これが2度目のチャンス。しかもベイビーは『ご注文は?』って訊かれた後、音楽を聴いていた耳のイヤホンをちょっとカッコつけながら外して、ゆっくりと彼女を見てセリフを言ってます。それにしても粋な返しですよね。
小沢「うん。いつもこういう返しができる人間でいたい、って思ってる。子供の頃から(寺沢武一の)『COBRA(コブラ)』っていうマンガが好きで、『COBRA(コブラ)』が俺の思想を決定づけたんだよね。あるエピソードで1週間コブラを待っていたという女の子から「助けて!」って言われるの。普通はまず「何があった?」って訊くと思うんだけど、コブラは「オレの助け...? 残念ながら今は休業中でね。もっとも背中のファスナーをさげたいっていうならいくらでも手をかすぜ」みたいな軽口を言うのね。『COBRA(コブラ)』ってそういう会話の宝庫なんだ」
――『ベイビー・ドライバー』にも『COBRA(コブラ)』を感じたってことですか?
小沢「『COBRA(コブラ)』のカッコよさと『ベイビー・ドライバー』のカッコよさは違うんだけどさ。でも、こういう会話って洋画のオシャレさだと思うの。もし俺が日本のレストランで同じことをやったら『うわっ』てなるでしょ。店員さんが絶対に『うわっ』てなるでしょ(笑)。洋画を観ててよく思うのは『あっちではこれが普通なんだろうか?』って疑問なんだけど、でも、俺はこういう会話が普通である世界にいたいって、いつだって思ってる。こういうこと言うと『カッコつけてんじゃん』って言われるんだけど、俺に言わせれば、そういうヤツらのほうがカッコつけてる。『それサブいね』って言われることから逃げてるわけだから、それってホントはカッコつけてんじゃん。だから、躊躇わずにカッコつけるセリフを言えるヤツのほうが、実はカッコつけてない。だからこの映画はカッコいいって、素直に言えるんだよ」
――とはいえ、カッコいい気の利いたセリフをどうしても思いつかない人も世の中には大勢いると思うんですが。
小沢「それはね、松田優作さんが昔インタビューで言ってた言葉があって。その当時は日本映画が下火で洋画のほうがずっと凄かったんだけど、優作さんは『結局、映画人じゃないヤツが映画撮っても映画にならねえんだよ』的なことを言ったの。俺、結構これって何に対しても当てはまるなと思ってて、例えば英語をいくら勉強しても、大学出た日本人より、小学校しか出てないアメリカ人のほうが英語うまいじゃん。根っこからそっちの人たちには勝てない。だからどっちが偉いっていうことでもないし、別にカッコいい言葉が出てこなくてもいいんだけど、人って自分がやれることをやるべきだと思ってるんだよね。たまたま俺は、そういう風に生まれついたから、やっぱりカッコいい言葉は出ちゃうよね。あと、10代にこの映画を観ていたかったとは思った。どちらかというと今の自分は、ケヴィン・スペイシーが演じる組織のボスが若い2人を見て『昔を思い出した』っていうセリフのほうに近いから」
小沢「ただ『ベイビー・ドライバー』ってすごく面白いし、何度でも観られる映画なんだけど、ここがああだ、あれがこうだって理屈を言うのは向いてないような気がする。だって"ベイビー"は止まってねえんだから、俺らが止めちゃいけないよ!」
――今、すごくカッコいいこと言いましたね!
小沢「うん、ごめんね。俺、そういう血なの(笑)」
取材・文=村山章
「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」の過去記事はこちらから
ベイビー・ドライバー
WOWOWプライム 4/29(月・祝)午前11:00
WOWOWシネマ 5/11(土)午前8:00
WOWOWプライム 5/14(火)よる8:00
2020/07/24 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第17回『あの日のオルガン』
2020/07/21 up
メガヒット劇場
私たちがホアキン・フェニックス版『ジョーカー』に共鳴する理由、あるいは"プロト・ジョーカー"説
2020/07/17 up
ミヤザキタケルの『シネマ・マリアージュ』
第17回 ありのままの自分であるために。時代を超えて描かれる人間の孤独
2020/07/14 up
その他
日本映画界の頂点に立った、韓国人女優シム・ウンギョンとは
2020/07/10 up
スピードワゴン小沢一敬の『このセリフに心撃ち抜かれちゃいました』
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第18回の名セリフは「謝るなんてな、ほんのちょっとの辛抱だよ」
2020/07/08 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第16回『記憶にございません!』