「センセイ君主」(’18)6/8(土) よる8:00他
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文=ミヤザキ・タケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
別冊マーガレットに連載されていた幸田もも子原作コミックを映画化。監督は実写版『君の膵臓をたべたい』('17)の月川翔。俗に言う"キラキラ映画"だと高をくくり敬遠している方が多いかもしれませんが、侮るなかれ。本作はあなたの心に想定外のときめきと感動を与えてくれることでしょう。恋に焦がれる女子高校生の佐丸あゆは(浜辺美波)と、冷静沈着で生徒に深入りしようとしない数学教師、弘光由貴(竹内涼真)の一風変わった恋愛模様を通し、真っすぐな想いこそ真に人の心を突き動かすのだということを感じさせてくれる作品です。
『センセイ君主』('18)
©2018「センセイ君主」製作委員会 ©幸田もも子/集英社
現実的に考えたら、「教師がそんな発言したらマズいでしょ」など、ツッコミ出したらキリがない。だけど、常に全身全霊で主人公たちの葛藤を描き出し、非現実的なストーリー展開の違和感など帳消しにしてしまう。気付けばキラキラ映画うんぬんの問答など忘れ去り、楽しみながら観てしまうはず。
漠然と「恋がしたい」と思っているうちは、なかなか本物の恋には巡り合えない。劇中のあゆはのように、あんなにも誰かに「好き」と言ったことが、弘光のように、あんなにも誰かに「好き」と言われたことがあなたにはあるだろうか。一歩間違えればストーカーの領域だが、彼女の「好き」はただひたすらに真っすぐである。そして、あそこまで想いを貫くためには勇気がいる。その勇気を絞り出すことがいかに困難であるかを知っている僕たちだから、観ていて彼女を応援したくなってしまう。
何かに本気で取り組んでいる人は、周囲に何かしらの影響を及ぼすもの。その光を浴び続けた者も、輝きを放てるようになっていく。あゆはが放つ強烈な輝きを浴び続ける弘光の心もまた変化を余儀なくされる。人の想いが他者の心へと染みわたっていく過程を僕たちは垣間見る。ポスタービジュアルなどの軽さとは裏腹に、芯のある恋愛の機微を描いた良作です。余計な偏見を取っ払い、ぜひチェックしてみてください。
続いて紹介するのは、ベストセラー小説を映画化し、オール・アジアン・キャストのハリウッド映画ながらアメリカで大ヒットを記録した話題作。住む世界の異なる庶民とセレブの恋愛模様を通し、一朝一夕で分かち合えない愛情を、向き合い方一つで変わっていく他者との関係性を描いた作品です。
序盤、主人公である庶民の女性が飛び込んだ、ぶっ飛び気味のセレブの世界に圧倒されるだろうが、次第に僕たちが生きる現実と変わらないことに、物語の根っこにあるのは"家族"や"結婚"の在り方だということに気付くはず。
『クレイジー・リッチ!』('18)6/15(土)よる10:30他
© Warner Bros. Entertainment Inc.
"付き合う"のと"結婚する"のとでは、一体何が違うのか。人それぞれに答えは異なるだろうが、本作に限って言えば、相手家族の存在の有無だ。付き合っているうちは2人の間で物事が完結するが、結婚となるとそうもいかない。血のつながらない家族が増えれば、当然相いれない部分が増えていく。それを受け入れるのか、拒絶するのか、耐え忍ぶのか、選択肢はさまざまあるけれど、庶民がセレブに端から拒絶されてしまうのが本作のキーであり見どころである。
僕たちはすぐに答えを欲してしまう。だけど、すぐには答えを得られないことが人生には山ほどある。それが大事なことであればあるほどに時間を要するし、結婚がゴールではないのと同様、今ある状況や人間関係だけがすべてじゃない。たとえ今は分かり合えずとも、分かり合いたいという願いを手放さない限り、希望はいつまでも残されている。そう、諦めてしまうのはいつだって自分自身。数多の困難を前に何度もくじけ、はい上がり、立ち向かっていく主人公の姿が、その事実を教えてくれる。
『クレイジー・リッチ!』('18)
© Warner Bros. Entertainment Inc.
本当に大切で譲れないものがあるのなら、あらがい続けなくてはならない。そのために何が必要で、どう立ち向かうべきなのか、本来であれば重苦しくなりがちなテーマを、セレブという華やかな世界観の中で描くからこそ本作は面白い。今まさに結婚を考えているなら、相手の家族とうまくいっていないのなら、何かしらのヒントを得られると思います。また、生んでくれた親に対して思いをはせる時間になるとも思います。
最後に紹介するのは、アメリカ人フィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの半生と、1994年に起きた"ナンシー・ケリガン襲撃事件"を描いた実話ベースの物語。愛を、名声を、己の存在意義を渇望する者たちの心の内に抱えられた狂気との向き合い方を描く作品です。
"凡人"と"天才"の差とは何か。それはきっと、努力し続けられるか否かの差。限られた枠を勝ち取りにいくのであれば、人並み以上の努力が必要不可欠。徹底的なスパルタ教育を施され、世間一般的な子どもが過ごす楽しい時間を捨て去り、他者より多くの犠牲を払ってスケートに打ち込んできたからこそ、トーニャ(マーゴット・ロビー)は群を抜いて成長し、トリプルアクセルを成功させるまでに至る。
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』('17)6/9(日)よる9:00他
©2017 AI Film Entertainment LLC
"天才"と"怪物"の差とは何か。それはきっと、狂気を飼い慣らせるか否かの差。凡人であれば、心にとても負担のかかることだから、狂気を抱えることを極力拒む。でも、その負担に耐え抜かなければ目にすることのできない景色がある。狂気を飼い慣らし力に変換できる者だけが天才と呼ばれ、抱えた狂気に押しつぶされてしまう者は怪物へと成り下がる。
プロフェッショナルと呼ばれる者たちは皆、狂気をコントロールするすべを心得ている。狂気を純粋な力に変換することができるから、尊敬されるだけの輝きを放つことができる。が、トーニャは母親の存在なくして狂気を飼い慣らせない。夫では彼女の狂気を御し切れず、漏れ出た狂気が忌むべき事件を引き起こす。
『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』('17)
©2017 AI Film Entertainment LLC
凡人も天才も怪物もきっと紙一重。夢を追う者であれば、胸に抱えた狂気といかに向き合っていくのかを問われることになるだろう。挑戦を続ける限り、狂気は必ず付きまとうものだから。最上級のストイックさと戒めを感じさせてくれるまさに狂気の作品です。
恋愛の輝き、家族の温かさ、狂気の世界を感じさせてくれる3本の作品とともに、今月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
[放送情報]
センセイ君主
WOWOWシネマ 6/8(土) よる8:00
WOWOWプライム 6/9(日) 午後3:00
WOWOWプライム 6/12(水) よる8:00
WOWOWシネマ 6/16(日) よる7:10
WOWOWシネマ 6/29(土) 午後4:05
WOWOWプライム 7/9(火) 午後3:00
WOWOWライブ 7/14(日) よる6:00
WOWOWシネマ 7/22(月) よる7:00
クレイジー・リッチ!
WOWOWシネマ 6/15(土) よる10:30
WOWOWプライム 6/17(月) よる7:45
WOWOWシネマ 6/25(火) 午後4:40
WOWOWプライム 7/5(金) 深夜3:00
WOWOWプライム 7/30(火) 午後5:30
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
WOWOWシネマ 6/9(日) よる9:00
WOWOWプライム 6/13(木) よる7:45
WOWOWシネマ 6/20(木) 午後3:00
WOWOWシネマ 7/10(水) 午前9:00
WOWOWプライム 7/31(水) 深夜3:15
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