2019/07/16 up

第5回 現実と見紛う映画体験をあなたに

「search/サーチ」7/18(木) 午後3:00

文=ミヤザキタケル

 映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、あわせて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。

 第5回は、誰もが目にするPCやスマホ画面越しに物語が展開していく『search/サーチ』と、事件の当事者が本人役で出演している『15時17分、パリ行き』をマリアージュ。

『search/サーチ』('18)

 インド系アメリカ人、アニーシュ・チャガンティの長編監督デビュー作。全編にわたりPC画面上で物語が進む異色作ながら、姿を消した娘をSNSなどを使って捜す父親の姿を通して、本当に大切な他者とのつながりを描きヒットを記録した作品です。

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『search/サーチ』
©2018 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc. All Rights Reserved.

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 PC画面上だけで物語が展開していく。そんな斬新な設定で、どんなふうに描くのか、そもそも成立するのか、一抹の不安を感じてしまう人もいるだろう。だけど、これっぽっちも違和感はない。語弊があるかもしれないが、新鮮味すら感じない。なぜならば、今この時代を生きる僕たちにとって、PCやスマホ画面に向き合うことが日常と化してしまっているからだ。

 写真や動画、ビデオ通話アプリ、各種SNSの画面を駆使する本作では、既読にならない不安やイラだち、ネットのつながりに甘んじて希薄になりがちな対人関係、ネット上にさらされている個人情報etc...、現代人だからこそ理解できる描写の数々が、みごとに映画の世界観に落とし込まれている。

 そして、何よりスゴイのは、先のストーリー展開がまったく読めないということ。読めたつもりでいても、その答えではまだ足りない。真の答えは二歩三歩先にある。綿密に張り巡らされた伏線とミスリードの数々によって、観る者に父親と同じ歩幅で作品世界をさまよい続けていくことを余儀なくされる。

 今のご時世、スマホやネットなくして生きてはいけない。なくなったらなくなったでどうにでもなるのだろうが、便利で効率的に生きられるなら、ないよりあった方が良いに決まっている。ただ、善意をもって活用する者もいれば、悪意をもって活用する者もいる。使い方一つで、他人を傷つけ、欺き、陥れることができてしまう。必要な情報だけを選別しているつもりが、気付かぬうちに悪意にさらされていることなんて日常茶飯事。ネットに転がるあらゆる情報をつなぎ合わせていけば、本名や住まい、交友関係・趣味・性的嗜好さえも割り出されてしまう。アカウントを乗っ取られたり、スマホやPCを丸ごと奪われたのなら、完全にOUT。この作品は、そんな現代社会に対する警鐘を鳴らしつつ、ネットを用いずとも他者との関係性が築けているかどうかを問うものでもある。

 娘を捜し出すため娘のSNSなどに触れていく父の姿に、あなたは一体何を思うだろう。家族といえども知られたくない個人の世界。それを知られてしまう恐怖はもちろん、知りたくなかったのに知ってしまう恐怖が劇中には満ちあふれている。だが、SNS上では本当の本当に大事な想いまでは突き止められない。その想いが真に垣間見える瞬間があるとすれば、目の前にいる相手と本気で関わった時だけなのだと思う。

detail_190716_photo03.jpg『search/サーチ』
©2018 Sony Pictures Worldwide Acquisitions Inc. All Rights Reserved.

 うわべの言葉や情報ばかりを過信して、僕たちは直接言葉を交わしたり面と向かって相手に問いただすことを避けてしまいがち。ググって探り当てたことばかりを真実とし、一から地道に調べることもなかなかしない。他者を気遣う心があったとしても、伝え方を間違えれば無関心なのと変わらないし、明確な意思や努力の上に成り立つ平穏でなければ、ささいなことで崩れ去る。ネット上のつながりは常にそんな危うさを内包している。

 もはや日常と化してしまっているPCやスマホとの付き合い方、大事な人たちとのつながり方、それらを今一度見つめ直すキッカケをこの作品は与えてくれると思います。

『15時17分、パリ行き』('18)

 2015年8月21日に起きた、タリス銃乱射事件を綴るクリント・イーストウッド監督による実話ベースの物語。乱射事件の犯人に敢然と立ち向かった3人の若者が歩んできた半生と事件の細部を通し、なすべきと信じたことを貫く勇気を描いた作品です。

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『15時17分、パリ行き』7/29(月)午前11:10
©Warner Bros. Entertainment Inc.

 『search/サーチ』によって現実とフィクションの境目が揺らぎ始めたのなら、実話をもとにしたこの作品は、より強くあなたの心を突き動かすことになるだろう。また、本作はただの実話作品とは少し違う。実際に事件に直面した当人たちを俳優として起用するというまったく新たな手法を用いており、言ってみれば僕たちと同じ一般人がそこにいる。隣り合わせの世界が、寄り添うことしかできない現実がそこにはある。

 序盤において明かされる3人の少年時代は、お世辞にも褒められたものではない。むしろ、数多くの問題を抱えていた。そんな彼らの姿を通して描こうとしていたのは、良い職業に就いたり、夢を叶えるのには多くの条件を満たさなければならないが、正しいことをなすのには地位も金も見てくれも関係ないということ。どんな人間でも、正しいことを行なえるのだということ。

 何もテロに直面した際に、真っ向から立ち向かえと言っているわけじゃない。訓練を受けたり武術の心得がある者でなければ、余計な被害や悲しみを増やしかねない。奇跡的に状況を打破できて一躍ヒーローになれる可能性もあり得るが、大切なのはそこじゃない。人にはそれぞれ自分にしかできないことがある。それぞれに見合った役目というものがある。問われることになるのは、その役目を見いだせているのかどうか、果たせているのかどうか、いざという時に持てる力のすべてを注ぎ込めるのかどうか。

detail_190716_photo05.jpg『15時17分、パリ行き』
©Warner Bros. Entertainment Inc.

 真実はいつだって一つだけど、受け取り方はさまざま。この事件はテロを起こす人間の愚かさだけではなく、愚かな行為にも負けない人間の気高さをも感じさせてくれるはず。自分のやるべきこと、なすべきだと信じられることを見つけられたのなら、今やらなければ意味がない。ひとりひとりがそうできたのなら、おのずと世界は変わっていく。きれい事かもしれないが、彼らの示した勇気が、この作品こそがその証し。

detail_190716_photo06.jpg『15時17分、パリ行き』
©Warner Bros. Entertainment Inc.

 僕たちが生きるこの現実に、より良き影響を与えてくれる2作品だと思います。ぜひセットでご覧ください。

「シネマ・マリアージュ」の過去記事はこちらから
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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。


[放送情報]

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WOWOWシネマ 7/18(木)午後3:00

15時17分、パリ行き
WOWOWプライム 7/29(月)午前11:10

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