「億男」8/10(土)よる8:00
映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
文=ミヤザキタケル
今月は、人間が生きていく上で大切なことを教えてくれる3本を紹介します。
映画『天気の子』『君の名は。』のプロデューサーとして知られる川村元気原作の小説を大友啓史監督が映画化した『億男』。宝くじで当てた3億円を持ち逃げして消えた親友、九十九(高橋一生)の居場所を捜し求める主人公、一男(佐藤健)の姿を通し、人の心に良くも悪くも影響を及ぼす金のあり方を描いた作品です。
©2018 映画「億男」製作委員会
僕は間違いなく金に捕らわれて生きている。あなただってきっと同じはず。現実問題、金がなければ人は生きてはいけない。うまいものが食べたい、豪華な家に住みたい、子どもにより良い教育を受けさせたいetc...。人が抱く欲望に際限はなく、欲望の隣にはいつだって金の存在が付きまとい、金と人とのつながりは密接だ。一男は、親友の行方を追ってひと癖もふた癖もある億万長者たちと出会い、それぞれの金との付き合い方と向き合い方に触れる。並行して描かれる彼の過去との対比から、金が人に及ぼす悪影響をあなたは目の当たりにすることだろう。
でも、金=悪では決してない。祝い事や日頃の何気ない瞬間に贈るプレゼントもそう。人は善意で金を使い、喜びや幸福を生み出すことだってできる。見返りを求めてしまう卑しい気持ちをはらむこともあり得るが、要は使う人の裁量や心持ち次第でいかようにも変化する。金が関わる恩は通常の恩よりも跳ね上がるし、金が関わる恨みは通常の恨みよりも深くなる。金とは一体何か、幸せとは何なのか、万人に共通する答えを示せる人なんていやしない。それは人それぞれに違っていて当たり前。本作は、金との縁を断ち切れないこの世の中で、自分自身と金との関わり方を今一度模索するためのキッカケを与えてくれると思います。
続いて紹介するのは、オタク男子が同級生の美女と半年間限定の交際を始める、那波マオ原作マンガの実写化。他者と関わることで変化していく少年の心模様を通し、真に価値あることはいつだって自分の外側にあることを描いた作品です。
『3D彼女 リアルガール』8/16(金)よる9:00他
©2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 ©那波マオ/講談社
まず始めに、ヒロイン役の中条あやみが反則級にかわい過ぎる! それだけでも見応えたっぷりで、非モテ×リア充の恋模様もコミカルで面白い。多少のツッコミどころはあれど、基本的には笑えてしんみりもできる程良い作品に仕上がっている。ただ、そんな風には受け止められない人間もいる。劇中において「アニヲタでコミュ症で引きこもり予備軍」とさげすまれる主人公のことを他人事だと思えない自分がいた。詰んでいるのだとすれば、「アニヲタでコミュ症で引きこもり予備軍で不安定な職業でアラサーで金もない」、僕ミヤザキの方。リア充やパリピ属性の方には笑って観られる作品に留まるかもしれないが、非モテ&非リア充属性の方にとっては胸を締め付けられる程に切なく、それでいて勇気に満ちあふれた作品に感じられるはず。
待っていたって中条あやみのような美女から交際を申し込まれることなどあり得ない。仮に話す機会が訪れたとしても、まともにおしゃべりなんてできやしない。話し掛けたところで虫けら扱いされるのが関の山。そんな風に自分を卑下することばかりに捕らわれているうちは、他人と本気で接することなど叶わない。だが、主人公の筒井(佐野勇斗)は勇気を振り絞り、自分の殻に閉じこもっているやつでは開けない扉の前に立っていた。映画を観てどれだけ彼に寄り添えたところで、この現実を生きていかなければならないのは、勇気を振り絞らなきゃいけないのは僕たち自身。諸々こじらせている自覚がある方は、是非とも本作を観てほしい。
©2018 映画「3D彼女 リアルガール」製作委員会 ©那波マオ/講談社
最後は、ノルウェーを代表する監督のひとり、ヨアキム・トリアーによるダーク・ファンタジー。信仰心が強く厳格な両親に育てられた少女テルマ(アイリ・ハーボー)が、大学の同級生に初めて恋をしたことで、その身に宿る特別な力に目覚める。そんな彼女の葛藤を通し、生きていく上で必要な自制心を描いた作品です。
『テルマ』8/28(水)よる11:00
©PaalAudestad/Motlys
「願い」や「願望」と言えば聞こえは良いが、内包する想い次第でそれは「呪い」や「欲望」にもなり果てる。強過ぎる想いは時に人を傷つけ、場合によっては自分の心をも傷つける。いつだって心のままに生きていられたのなら幸せだけど、皆が自分本位に生きていたのなら世の中が破綻する。だからこそ、僕たちには戒めが必要だ。厳しい戒律の下で育てられてきたテルマのように、何かしらのかせを己に強いることで、道を誤らぬよう、正しき行ないを選べるよう、誰もが己自身をコントロールしながら生きている。
だが、時にはこの世のすべてを敵に回しても押し通したい願いが芽生えることがある。それは夢を叶えたり目的を達成するためには必要かもしれないし、そういった想いこそが自分や周囲を変えていく。ただ、そこに善悪の境界線はない。健全な想いが力の源であるに越したことはないが、負の感情が行動を起こすための原動力になることもあり得る。その際に生じる心の揺らぎを御し切れるか否か、本当に大事なのはそこだと思う。たとえテルマのような力はなくとも、何かを成し遂げたいと強く願ったその時だけは、彼女が持つ力に匹敵するだけの力を僕たちは発揮する。キッカケや手段さえ手にしたのなら、僕たちが抱く想いはすぐさま現実のものになっていく。だからこそ、明らかになっていくテルマの真実がどんなに奇想天外であっても、きっと他人事では済ませられないはず。真に押し通すべきは何なのか、その選別を誤ってしまってはいないか、自分を見つめ直す機会を与えてくれると思います。
©PaalAudestad/Motlys
三者三様、それぞれに異なる己自身との向き合い方を示してくれる3本の作品と共に、今月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
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文=ミヤザキ・タケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
[放送情報]
億男
WOWOWシネマ 8/10(土)よる8:00
WOWOWプライム 8/12(月・休)午前10:30
WOWOWシネマ 8/18(日)午前10:00
WOWOWプライム 8/27(火)よる8:00
3D彼女 リアルガール
WOWOWシネマ 8/16(金)よる9:00
WOWOWシネマ 8/27(火)午後3:30
テルマ
WOWOWシネマ 8/28(水)よる11:00
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