2020/02/11 up
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第12回の名セリフは「私は泣き虫なのだ。君らも慣れてくれよ」
「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」2/13(木)午後2:45
取材・文=八木賢太郎
映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第12回は、第2次世界大戦中に英国の首相に就任し、"政界一の嫌われ者"から"最も尊敬するリーダー"となった伝説の政治家を描いた『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』('17)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
──今回は、ゲイリー・オールドマン主演作です。ゲイリー・オールドマンはお好きですか?
小沢「好きだよ。『シド・アンド・ナンシー』('86)でしょ?」
──『シド・アンド・ナンシー』であり、『レオン』('94)ですね、初期の代表作といえば。
小沢「すごいよね、この人。正直言うと、戦争絡みの映画と実話ベースの伝記映画は好きじゃないのよ、俺。でも、めちゃくちゃ良かった、この映画は。某映画レビューサイトのポイントで、4.8つけちゃったもん(笑)」
──それは、かなりの高評価じゃないですか。
小沢「いや、俺は甘いから、基本は全部4点以上なんだけどね。でも、それぐらい良かったね。特に最後の30分間は、ずっと好きなシーンの連続って感じだった」
──チャーチルの人柄を理解した上での最後の30分間は、ホントに引き込まれますね。
小沢「チャーチル(ゲイリー・オールドマン)を助ける二人の女性、タイピストのレイトン(リリー・ジェームズ)とチャーチル夫人(クリスティン・スコット・トーマス)、どっちも魅力的だったし、ゲイリー・オールドマンもチャーチルをとてもチャーミングな人として演じてたよね。俺はばかだから歴史のこととか知らないけど、チャーチルっていう人のことを好きになったもん」
──それは映画として成功ですね。
小沢「そう思うよね。それは好きにさせたからすごいんじゃなくて、逆に嫌いにさせてもすごいわけじゃん。そのキャラクターに対して、好きだとか嫌いだとかっていう観客の感情を生み出せるってことがすごいわけで。そういう意味では、かつて『シド・アンド・ナンシー』で観たゲイリー・オールドマンって、やっぱりすごい役者だったんだなぁ、と改めて思ったね」
──『シド・アンド・ナンシー』と今回の作品、数十年を経て、全然違う役柄を演じてますけどね。
小沢「『シド・アンド・ナンシー』のときも、よく見れば全然似てないんだけど、だんだんシド・ヴィシャスに見えてきたし、今回のチャーチルだって、後で本物の写真を見たらあんまり似てないんだけど、観客はこういう人だと信じ込まされるもんね」
──そこがまさに演技力という部分なのかもしれないですね。
小沢「でもこれさ、非常に難しいのは、戦争継続か和平交渉かで当時のイギリス議会が割れた中で、戦争を続けることを選ぶ人の映画じゃん。そこを素晴らしいとは絶対に言えないし。特に今は、アメリカとイランがきな臭い時期だから、とても難しいタイミングでこの映画を選んでしまったなと」
──でも、こういうタイミングだからこそ、観るべき映画のような気もします。
© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
小沢「そうかもしれないね。この映画のメッセージも、戦争を続けることを選んだチャーチルが正しかった、というものではないからね。映画の中の戦争継続派も和平交渉派も、どちらも本当に正しいと思う道を選ぼうとしてるわけで。私利私欲ではなく、どちらも自分の国を良くしようと思ってるだけなんだよね」
──その中で、なぜチャーチルがそっちを選んだのか? ということを理解するための映画ですね。
小沢「歴史の教科書では数行で終わってしまう出来事の中にも、実際にはあれだけの葛藤があったんだと。そういう意味では、現代でわれわれの目や耳に届いてる事件とか、政治とか、芸能とかのニュースだって、すべてをうのみにするんじゃなく、本当は中で何が起きてるのかを考えるべきなんだ、って思い知らされる映画でもあると思うよね」
──この映画だって、結果的にイギリスは戦争に勝つからチャーチルが正しかったようにも見えますけど、たとえ国が侵略されても最後まで戦うって言ってるチャーチルの姿は、見方を変えれば当時の日本軍のようにも見えてしまいますしね。
小沢「そうだよね。だからこそいろいろと考えさせられる内容なんだけど、何より一本の映画としてものすごく面白かったから、みんなに観てほしいね」
──では今回も、そんな素晴らしい作品の中から、小沢さんがシビれた名セリフを選んでいただきたいのですが。
小沢「いくつもあるんだけどさ。まず好きなセリフというか、好きなシーンとしては、部屋に帽子がいっぱい飾ってあって、出掛ける前にチャーチルが『さて、今日はどの自分になるとするか?』って言いながら帽子を選ぶところ」
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──首相に任命された朝、身支度を手伝っていた夫人から「自分に正直に」と言われて、それを受けてチャーチルが言うセリフですね。
小沢「みんな誰しも、こういう気持ちになるときがあると思うんだよ。たとえば『昨日は職場で暗かったから、今日は明るくしよう』とか、そうやって毎日切り替えるわけじゃん。女の子はそういうときにメイクとか髪型を変えたりするんだろうけど、男にはそういうのがないから。帽子で気分を変えるっていう、当時のイギリス人のオシャレさがいいなって思ったね」
──チャーチル夫妻のシーンは、どれも名シーンばかりでしたね。
小沢「この二人のやりとりは、セリフがいちいち良かった。あそこも好きだな。チャーチルが『一人にしてくれ』って言ったのに対して、奥さんが『今さら離婚なんてイヤよ』って返すところ」
──自分の決断によって多くの兵士が犠牲になったことを知ったチャーチルが落ち込んでいるところへ、心配した夫人が声を掛けるシーンのセリフですね。「一人にしてくれって、そういう意味じゃないよ~!」ってツッコみたくなるような、粋な返しです。
小沢「あれはシャレてるよ。最高の奥さんだよね。あの返しによって、こっちの深刻なムードもリラックスできちゃうというか。後半に国王がチャーチルの自宅を訪ねてくるシーンの夫婦のやりとりもいいよね」
──「お客さまよ」「誰だ?」「"キング"よ」「どこのキング? まさか国王?」「ソックリさんじゃなければね」っていうところですね。吹替版だと、また少しセリフが違いますけど。
小沢「ああいうシリアスなシーンにも必ず皮肉の効いたユーモアみたいなのが入ってるのが、いかにもイギリス映画っぽいというか。とにかく言葉のセンスがめちゃくちゃいいんだよね、この映画。もちろん言うまでもなく、この映画の一番の見せ場になる最後のチャーチルの演説も素晴らしかったし。演説そのものは本当のチャーチルの演説なんだろうけど、その後に『気が変わった?』って聞かれたチャーチルが言う、『気も変えられないやつに国が変えられるか』っていうセリフも好きだな」
──なんだか今回は名セリフが次々と出てきますが、その中で最もシビれた名セリフは?
小沢「私は泣き虫なのだ。君らも慣れてくれよ」
──戦争継続か和平交渉で悩んでいたチャーチルは、議会に向かう途中で突然、車から下りて、たった一人で生まれて初めて地下鉄に飛び乗る。そこで市民たちと触れ合い、彼らの言葉を聞いたチャーチルが、思わずホロッと涙を流しながら言うセリフですね。
小沢「チャーチル首相だって気付いた地下鉄の乗客たちが、次々と自己紹介を始めるじゃん。あのシーンで描かれてる意味は、政治家とか権力者たちは、自分たちだけが国を動かしてて、その他の国民はモブとかエキストラだと思ってるかもしれないけど、実は全員にちゃんと名前があるんだよっていうことなんだよ。そこが俺はものすごくいいなって思ったの」
──チャーチルもそのことに気付いたからこそ、涙をこぼしたわけですよね。
小沢「そうだよね。俺がこの世界で一番嫌いなのは、芸能人以外の人のことを"素人"って呼ぶことなのね。俺らは一体、何の玄人なの? って思うんだよ。業界の人たちは"素人"とか"一般人"とか言ってしまいがちなんだけど、いやいや、みんなちゃんと名前があるからねって。それをちゃんと描いてくれたシーンだよね」
──映画に出てくるぐらいだから、きっとあれは実話のエピソードなんだと思います。
小沢「あのときのチャーチルがまた、めちゃめちゃチャーミングなんだよね。あそこは映画の本筋ではないシーンかもしれないけど、俺は一番好きだったね」
──では、いろいろ出ましたけど、今回一番シビれた名セリフは、あの地下鉄のシーンのセリフでいいですか?
小沢「う~ん、いや、ここまでいろいろ話してきたけどさ、やっぱり気が変わったから、今回は違う映画の話にしていい?」
──えっ? なんで急に?
小沢「だってさ、気も変わらないようなやつに国は変えられないじゃん(笑)」
取材・文=八木賢太郎
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小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」の過去記事はこちらから
[放送情報]
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
WOWOWシネマ 2/13(木)午後2:45
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