2020/03/13 up
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第13回の名セリフは「俺は納得いく自分になりたい」
『ムタフカズ』3/27(金)よる11:00
取材・文=八木賢太郎
映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第13回は、ギャング同士の抗争が日常と化したストリートに育った少年たちが繰り広げる過酷なサバイバルを描いた日仏合作アニメ『ムタフカズ』('17)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
──今回は、この連載では初めてとなるアニメ作品をチョイスしてもらいました。
小沢「そうなのよ。俺は人間が古いから、アニメを映画館で観るのは、水を買うみたいな感覚だったのね」
──水を買う?
小沢「子どもの頃って、水は水道水を飲んでたけど、大人になった今の時代は、水はコンビニで買うものになったじゃん。それと同じで、アニメも子どもの頃には、当たり前のようにテレビで無料で観てたものだったから」
──あ~、なるほど。お金を出して観るものなの? と。
小沢「お金を出す価値がないとは決して思ってなかったけど、水と同じだから、どうせ買うなら味のついてるコーラのほうがいいじゃんって、そういう感覚がどこかにあったのね。だけど今は、日本のアニメも海外のアニメもすばらしいものが多いから。それはコンビニでエビアンとかのおいしい水が買えるのと同じだよね」
──そういう意味でこの作品は、おいしい水でしたか?
小沢「おいしい水っていうか、おいしい炭酸水だったね。フランスの漫画が原作みたいだから、『この映画はペリエだな』って思いながら観てた(笑)」
──ペリエ作品、楽しめました?
小沢「うん、面白かったよ。たまにオシャレなバーとかカフェへ行くと、映画が流れてることあるじゃん。ああいうところで流れてそうな映画だなって思った」
──プロジェクターとかで洋画が流れてるやつですね。
小沢「ああいうのにピッタリだと思った。なんていうか、クールで気取ってるよね。気取っててダサいのは見てられないけど、気取ってるのが様になってる。たとえばさ、自分がしんどいときって、カッコつけて自分を奮い立たせるしかないじゃん。『物語の主人公ならこうするよね』とかって。人生にはそうやって気取りまくったほうがいい瞬間があるから。そんなときに思い出しそうな映画だよね」
──いい感じに気取れてる作品だと。
小沢「『鉄コン筋クリート』('06)のアニメのスタッフが作ってるんでしょ?」
──そうですね。『鉄コン筋クリート』の総作画監督である西見祥示郎が、原作漫画の作者であるフランス人のギヨーム・"RUN"・ルナールとともに監督を務めてます。
小沢「(『鉄コン筋クリート』原作者の)松本大洋って気取ってるじゃん(笑)」
──たしかに、いい意味ですごい気取ってますね、松本大洋の漫画。
小沢「俺はすごい好きなのよ、松本大洋の漫画。『ZERO』とかも大好きで。だからこの映画も、カッコいい映画だなぁと思ったよ。セリフもいちいち気取ってるし、シェイクスピアのセリフの引用が出てきたりするのもいいし。観てるほうまでカッコつけられる映画じゃん、『これを観てる俺って、カッコよくない?』って(笑)」
──まるで、若い頃に背伸びをして観たヌーベルバーグの作品のような感じですね。
小沢「街の風景とかはドライなんだけど、中身はどこかジメジメしてる感じは、まさに『勝手にしやがれ』('59)とか『気狂いピエロ』('65)とかのフランス映画にも通じるものがあるかもしれないね」
──今回は吹替版で観ました?
小沢「そう。実は誰が吹替をやってるのか、あんまり詳しく知らなかったんだけどさ、エンドロールを見てたら、ものすごいメンバーだったのね」
© ANKAMA ANIMATIONS - 2017
──細かいところでは、桜庭和志とか所英男とかの有名格闘家も声優として参加してます。
小沢「ビックリするよね。男色ディーノとかね(笑)。でも、やっぱりすごいのは、(主人公、リノの日本語吹替版の声を務めた)草彅(剛)さんだね。あの気だるい感じが、世界観にピッタリだったよ。もちろん、(リノの親友ヴィンス役の)柄本時生さんも、(リノとヴィンスの友人ウィリー役の)満島真之介さんもうまいしね」
──あの三人の組み合わせはハマってましたね。
小沢「決して気負わず、いい具合に肩の力が抜けてる感じがね。あそこでやりすぎちゃうとキツいけど、ちょうどいいカッコつけ方だから、映画にも入りやすかったし。やっぱりさ、男の子はカッコつけなきゃダメだなって思ったよ。俺はさ、"気取る"とか"キザ"っていう言葉を悪い意味に捉えてる人は、照れてるだけだと思ってて」
──そこを照れちゃダメだと。
小沢「そう。それを素直にカッコいいと思えない方が、よっぽどダサいんじゃないかと。今は『カッコつけることはカッコ悪い』って思われがちだけど、俺は『カッコつけることをカッコ悪いと思うことの方がカッコ悪い』って思うから(笑)」
──なんか早口言葉みたいになってますけど、とにかく男ならいつでもカッコつけようぜ、と。
小沢「そう思わせてくれる映画だったよね。言い方が難しいけど、ストーリーの細部を観るタイプの映画じゃないじゃん。木を見るのではなく森を見るというか。だって、細かい謎とかは最後まで分からないまんまだもんね。だからこそ、この世界の住人になった気分で、この世界をのぞかせてもらってる気分で観る映画だから。そういうところがアニメっぽいし、アニメだからこそやる意味のある映画だったんだなと思った、俺は」
──そんな今回の作品で、小沢さんが一番シビれたセリフは?
小沢「俺は納得いく自分になりたい」
──犯罪者と貧乏人の吹き溜まりであるDMC(ダーク・ミート・シティ)に生まれ育った通称"リノ"ことアンジェリーノはある日、ガイコツ頭の親友ヴィンス、ばかで臆病な友達ウィリーとともに、なぜか黒服の男たちに追われるはめに。なんとか難を逃れた夜、丘の上の空き地で流れ星を眺めていたときに、「リノの願い事は何?」とウィリーに聞かれたリノが応えたセリフですね。ちなみに字幕版のセリフでは「俺でない誰かになりたい」となっていました。
小沢「俺が大好きな甲本ヒロトさんと真島昌利さんのバンド、THE HIGH-LOWSの『不死身のエレキマン』という曲の歌詞に、『子どもの頃から憧れてたものに なれなかったんなら 大人のフリすんな』っていうのがあるんだけどさ、あれと通じるものがあるよね」
──男の子としての永遠のテーマともいえますね。
© ANKAMA ANIMATIONS - 2017
小沢「たとえばさ、仕事だとか私生活の人間関係とかがうまくいかなくて『あ~あ』って落ち込んだ日には、いつも思うんだよ、『中学生の頃の自分に合わす顔がねえな』って。中学生の俺に、『えっ? 将来、そんなふうになっちゃうの、俺?』って思われたくないから。だから『俺は納得いく自分になりたい』っていう、あのリノの考え方を、いくつになっても失いたくないなって思うよ」
──まさにそこはカッコつけていたいと。
小沢「そういうことだよね。だってさ、中学生のときは、カッコいい大人になりたかったんだもん。だから、仕事でも普段の生活でも、悩んだときに『決めるのは自分自身だ』って思いながらも、実は決めてるのは中学生のときの自分なんだよね。『中学生のときの自分だったら、どうするんだろう?』って考えるんだから」
──常に中学生の自分に見られてる感覚ってことですよね。ものすごくよく分かります、それ。
小沢「そういう意味では、特に男の子たちが観るとテンション上がる映画なのかもしれないね、これは。まさに松本大洋的というか。カッコいい男の子とは何か?っていうのを教えてくれる映画だから。差別をなくそうとか、格差社会がどうとか、そういうテーマの映画が多い中で、カッコいい自分にならなきゃいけないっていう、生き物としての、オスとしての、ものすごくシンプルなことを、それも説教臭くなく教えてくれる映画だよ」
──ちなみに、そんな今の小沢さんは、中学生のときの小沢さんにも納得してもらえそうですか?
小沢「俺はそう言いつつも、実は中学生のときの自分に後をつけられないように、常にまいてきてるから。たぶん今の俺を見失って、『どこにいるんですか?』って思ってるよ、中学のときの俺(笑)」
取材・文=八木賢太郎
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小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」の過去記事はこちらから
[放送情報]
ムタフカズ
WOWOWシネマ 3/27(金)よる11:00
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