2020/04/10 up
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第15回の名セリフは「ギャルソン! コーヒーを!」
『パルプ・フィクション』5/11(月)よる9:00他
取材・文=八木賢太郎
映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第15回は、クエンティン・タランティーノ監督の初期代表作であり、第67回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作『パルプ・フィクション』('94)。米ロサンゼルスを舞台に繰り広げられる3つの犯罪劇を、オムニバス形式で描いた作品です。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
──今回は、90年代の超名作『パルプ・フィクション』を選んでいただきました。
小沢「うん。俺がまず思うのは、その作品を境に映画の歴史が変わるような作品ってあるじゃん。SFだったら『スター・ウォーズ(エピソード4/新たなる希望)』('77)だったり、ホラー映画だったらジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』('78)だったり。『パルプ・フィクション』も、ある世代の、あるジャンルの人たちにとっては、そういうエポック・メイキングな作品だったと思ってるんだよね」
──間違いなく、そうだと思います。
小沢「この映画が公開された1994年って、ちょうど俺らがお笑いを始めたぐらいの年なんだけどさ、当時、俺らの世代やちょっと上の先輩たちの単独ライブが、み~んな『パルプ・フィクション』の真似した構成になってたのよ。なんなら、オープニングにあの曲(ディック・デイル&ヒズ・デルトーンズの「ミザルー」)を使ってたやつまでいたもんね(笑)」
──それぐらいの影響力ありましたよね、あの当時は。
小沢「モロに影響受けてたよね、俺らの世代は。全ての映画を変えたとまでは言わないけど、ある世代の人たちにとってタランティーノの登場っていうのは、キリストの誕生のようなもんだった。B.C.(紀元前)とA.D.(紀元後)みたいな(笑)」
──『パルプ・フィクション』が紀元!
小沢「それぐらい、あの映画で一本、太い線が引かれたよね。ただ、その中で俺はひねくれてたから、『パルプ・フィクション』より(タランティーノ初監督作の)『レザボア・ドッグス』('91)のほうが好きだったのね。だけど今回、この連載のために久々に観直したら、めちゃくちゃ面白くて。昔、あんまり好きじゃないなんて言ってたのは単なるポーズだったんじゃないか? とすら思えてきた(笑)」
──僕も久々に観直しましたけど、やっぱり面白かった。
小沢「今の若い子が観ても普通に面白いと思うんだけど、たぶん彼らがこの映画を観たら、『へぇ~、この時代の人たちもこういう手法の映画つくってたんだ』とか『はいはい、このオシャレなパターンのやつね』って言うと思うんだよ。だけど、違うよ、このパターンはこの映画がきっかけなんだよ!ってことは言っておきたい。もちろん、この作品以前にも、時系列を入れ替えて見せたり、複数の物語が伏線回収的につながっていく映画はあったんだろうけど、ここまでスタイリッシュにまとまってたものはなかったと思う」
『パルプ・フィクション』
© Miramax Films. All rights reserved
──僕らはああいうスタイルを「はいはい、『パルプ・フィクション』のパターンね」って思っちゃいますけどね。
小沢「あとこの映画がエポック・メイキングな部分は、ひとつも無駄じゃない無駄話が延々と続くところなのよ。それまでの映画だと、マフィアとかギャングは、プライベートのときもマフィアであり、ギャングの会話をしてたじゃない。だけどこの映画は、ギャングのやつらが普段はくだらねえ会話をしてるってところを描いたのが、めちゃくちゃセンスがいいんだよね。そして、そのくだらねえ無駄話が全部センス良くて面白いという」
──あの無駄話が、ギャングの姿をよりリアルに見せてくれます。
小沢「そうそう。不良だってアニメ観るんだもんね、実際は(笑)。そういういろんな発明をしてきた映画だよね」
──ちなみに、この作品以降のタランティーノ作品については、どうですか?
小沢「もちろん、一通り観てきたよ。『イングロリアス・バスターズ』('09)も好きだし、『ジャンゴ 繋がれざる者』('12)も『ヘイトフル・エイト』('15)も観たし。もちろん、『キル・ビル』('03)もね。でも、やっぱり『レザボア・ドッグス』と『パルプ・フィクション』が一番いい気がするんだよね、申し訳ないんだけど」
──そうなんですよね~。
小沢「たとえばロック・バンドのアルバムも、だいたい1枚目とか2枚目がいちばんいいじゃん。それまでの人生で溜まってたものを全部込めてる感じで。だけど3枚目以降は、チヤホヤされ始めてから(笑)、周りの要求に応えたものをつくるから。技術レベルは上がってても、最初の頃のパッションみたいなものが失われることが多いよね」
──タランティーノも、影響を直で受けた世代としては、そういう印象になりがちですよね。
『レザボア・ドッグス』5/11(月)よる11:45
Artwork & Supplementary Materials © 2020 Lions Gate Entertainment. All Rights Reserved.
小沢「だからこそ今、改めて『パルプ・フィクション』を観てほしいと思うんだ。お笑いの単独ライブとか演劇とか、何かを創作して世の中の人をビックリさせたいと思ってる人たちには特に。昔は『パルプ・フィクション』は応用問題だったけど、今はこれが教科書みたいな存在になってると思うから。クールでシャレた会話もたくさん出てくるし、それぞれの役者もいいし」
──そんな作品の中で、小沢さんがシビれた名セリフを今回も選んでもらうわけですが、今回ばかりは、いいセリフが多すぎて選ぶのが難しいんじゃないかと。
小沢「そうなんだよね。小ネタのセリフだったり、カッコいいセリフだったり、選びたいものはいくつもあるのよ。ただ、この映画といえばこのセリフしかないだろっていうのが、ひとつだけあって」
──そのセリフは?
『パルプ・フィクション』© Miramax Films. All rights reserved
小沢「ギャルソン! コーヒーを!」
※編集部注
ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。
──オープニングのシークエンスで、コーヒー・ショップで強盗を働こうとしているパンプキン(ティム・ロス)とハニー・バニー(アマンダ・プラマー)の会話の途中、パンプキンが女性店員を呼び止めて言うひと言であり、オムニバスの最終3話目で、ギャングのヴィンセント(ジョン・トラヴォルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)がコーヒー・ショップで朝食をとっているところに再登場するセリフですね。
小沢「そうそう。オープニングのところで『ギャルソン! コーヒーを!』ってティム・ロスが言ったのに対して、女性店員が『"ギャルソン"は男よ』ってムッとして答えるくだりがあって、ただの小ネタなのかなって思ってると、最後の場面で、ギャングの2人が話してるところに、いきなり『ギャルソン! コーヒーを!』ってセリフがあっちから聞こえてくる。その瞬間に、観客は『あの店だ!』って気づくんだよね」
──初めて観たときに必ず「あっ!」ってなるところですよね。「これからここで強盗騒ぎが起きるんだ! どうなるんだ?」って、めちゃくちゃ盛り上がる。
小沢「このセリフが再び出てきたときに、この映画のすべてのタネ明かしがされるわけじゃん」
──そうですね。3話からなるオムニバスの最終話ですが、時系列通りに並べると、実はこのコーヒー・ショップの話がいちばん最初の話になる。その後にオムニバス1話目のギャングのマーセルス(ヴィング・レイムス)の妻であるミア(ユマ・サーマン)とヴィンセントのデートの話、そして、2話目の八百長試合を依頼されたボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)とマーセルスの話、というのが正しい流れになるんですが。この映画はその時系列をごちゃごちゃに入れ替えた上、それぞれ違う話のように見せておいて、実は全部がつながっているという。このセリフでそのカラクリに気づくわけです。
小沢「最初に出てくるときは始まってすぐだから、意味のあるセリフだとも思わないし、ただ流れていく一行でしかないんだけど、実は何気ないこのセリフが、映画の全てをつなげている紐のような役割になっている。そういう意味で、いちばん重要なセリフだと思うんだよね」
──そうですね。今までそこに気づいてなかったです。
小沢「そのためには、オープニングのときにこのセリフを立たせて、印象づけておく必要があるんだけど、それがすごい上手くできてるの。わざとらしくなるほどには振りすぎず、ちょうどいいぐらいの小ネタ感で、自然に立たせてる。だから、もう一回出てきたときに『あっ! つながってる!』ってなる。あの瞬間が最高に気持ちいいんだよね...って、もう、完全なネタバレをしゃべってるけど、大丈夫?(笑)」
──まあ、公開から四半世紀も経ってますから。最後までネタバレしたところで、誰も怒らないでしょう。
小沢「何度も言うけど、他にもいいセリフはあるのよ。同じ最後の場面で、ジュールスがパンプキンに財布の中の金を全部あげて、『金は、やったんじゃねえ。あるブツを買ったのさ。何を買ったと思う? 貴様の命さ』って言うところとかも、カッコいいじゃん」
──カッコいいですよね。
小沢「そういうカッコいいセリフなんかいっぱいある。カッコいいセリフも書ける脚本家・タランティーノ、面白いセリフも書ける脚本家・タランティーノ、だけど、意味のないセリフに意味を持たすことができるのが、監督・タランティーノのすごいところなのよ」
──いや~、何度も何度も観てる映画なのに、今その説明を聞いて、ちょっと鳥肌立っちゃいました。
小沢「もう、決まったね、今回は」
──ばっちり決まりました。
小沢「じゃあ、あとはみんなでゆっくりお茶しながら、無駄話でもして帰ろっか。マネージャー! コーヒーを!(笑)」
取材・文=八木賢太郎
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小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
「このセリフに心撃ち抜かれちゃいました」の過去記事はこちらから
※WOWOWでは5/11(月)~15(金)にタランティーノ監督作品を特集放送!
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