元ジャーナリストの益田(生田斗真)とかつて「少年A」と呼ばれた元犯罪者の青年、鈴木(瑛太)の出会いを描く映画『友罪』。山本美月はこの物語で、「少年A」の事件を追う雑誌記者の杉本清美を演じている。
「『普通の人でいてくれ』と瀬々敬久監督に言われ、なるべく普通でいるように自分なりに考えながら演じていましたが、"普通"というのが何なのか、まずそれが難しかった。仕事にまっすぐ向き合う記者としての顔、益田さんと過去に付き合っていた女性としての顔、その両方を表現できたらと思っていました」
"普通"がいちばん難しい。多くの演技者が口にする言葉である。「(他のキャラクターが)みんな特徴的なので、なるべくフラットにと意識した」と言い、「見ている方に一番近いのかな」と清美のポジションを語る。確かにディープな作品だけに、清美は観客にとってよりどころになる存在だ。本作は、ジャーナリズムのあり方にも大きな問い掛けをしている。
「彼女としては、取材対象は割り切って『興味のある対象』なのだろうと考えていました。もちろん、プライベートをさらされてしまう人への罪悪感みたいな気持ちもあるでしょうけど、記者としての好奇心が勝ってしまうというか。しゃべっているうちになんだか興味が出てきて楽しくなってしまう、そういうところを表現したかった」
シンプルなキャラクターだ。知りたいことは知りたい。それは私たち大衆の素朴な欲望でもある。そしてこの映画ではさまざまな"罪"が描かれる。その中には加害者家族が背負う贖罪もある。
「私個人としては、人を殺してしまった人間を許して寄り添うようなことはできない気がします。ただ、その家族に対してとなると難しいですよね。この作品のように、息子がやってしまったことを一生かけて償おうとする親もいる。今の私だと、どうしても息子側の立場に立って見てしまうのですが、もう少し年齢を重ねて親側に立つようになると、見え方が変わってくるのかもしれない。これは本当に正解のない作品なのでしょうね」
「"あの花"(『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』)のスタッフが作ったんですよね。好きなんです。それらで脚本を書かれた岡田麿里さんの監督&脚本作『さよならの朝に約束の花をかざろう』も見ました。岡田さんの作品には世界観がありますね。"ここさけ"のときは『少女』(本田翼と共演。原作は湊かなえ)という映画を撮っていたんです。そのせいなのか、普段とは全然違う視点で見ていて、自分でもよく分からないところで泣いていました。一緒に見に行ったスタッフと感想が全然違っていてびっくりしました。サントラも買いましたよ」
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山本は『少女』で女子高校生を演じていた。だからこそのシンクロがあったようだ。
「映画の中でずっといじめられていたせいか、"ここさけ"の仁藤菜月というかわいい女の子のことが少し嫌いになりました(笑)。なんで坂上拓実は(主人公の)成瀬順ではなくて仁藤を選ぶんだろう、成瀬順の方がいい子なのにって。それくらい入り込みました。吉田羊さんが演じた成瀬順のお母さんもすごくリアルでしたね」
映画は、見た当時の自分自身の状況を掘り起こすメディアでもある。
「特にあのときは地方にいて、がっつり役に入り込んでいたんです。(『少女』の)三島有紀子監督はそういう演出をする方でしたから。催眠術をかけるみたいに耳元でぼそぼそ語り掛けてくる。実際、役に入りやすかったですね」
そんな記憶とともに"ここさけ"という映画は山本美月の中で永遠化されているのかもしれない。
取材・文=相田冬二
撮影=坪田彩
[放送情報]
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