2018/07/13 up

それぞれに革新的ビジョンを持った鬼才ぞろい! 『エイリアン』シリーズは"監督"で観る

「エイリアン:コヴェナント」7/14(土)よる10:00ほか

 長きにわたり、一大ユニバース(作品世界)を形成している『エイリアン』シリーズ。WOWOWでは『エイリアン:コヴェナント』初放送に合わせて一挙にシリーズ全作をお届けする。そこで改めて、個々の作品を「監督に注目」して、駆け足で振り返ってみたい。

 まず記念すべき1作目。『エイリアン』(79)の監督はリドリー・スコットだ。今や誰もが知る巨匠であるが、当時はまだ、一部にしかその才能が伝わっていなかった。CF界を活躍の場とし、母国イギリスで初の商業長編映画『デュエリスト/決闘者』(77)を手がけ、第30回カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞したばかり。そして、『エイリアン』に抜擢されると一躍大ブレイク。「密室にヤバいクリーチャーが侵入してくる」というシンプルなプロット、シチュエーションを活かしたサスペンスフルな演出と映像センスで"SFホラー映画"のエポックとなってしまったのだ。

 シガーニー・ウィーヴァー扮する主人公、女性クルーのエレン・リプリーは閉ざされた宇宙船内で最後まで生き残り、変形を繰り返してきた地球外生命=エイリアンの生体(ゼノモーフと呼ばれる)と死闘を繰り広げる。自らストーリーボードを描くヴィジュアリストのリドリー・スコットは、映画の肝であるエイリアンの造型デザイナーに異端の画家H・R・ギーガーの起用を決断! 彼自身、美術大学時代に絵画やグラフィック・デザインを専攻していた"アーティスト"であった。

さて、このSFホラーの金字塔は、続編『エイリアン2』(86)では違った相貌を見せることになる。公開時のキャッチコピーは「This Time It's War.」。すなわち宇宙海兵隊が銃火器を手にし、植民惑星を壊滅させた無数のエイリアンたちに立ち向かうアクション満載のパワフルな戦争活劇に転換。監督・脚本は『ターミネーター』(84)をヒットさせて、イケイケ状態のジェームズ・キャメロン。彼の際立った作家性であるミリタリー趣味と、母性に裏打ちされた強いヒロイン像が作品内へしかと刻まれた。男前な女性狙撃手はキャラが立ち、主人公リプリーは最強の戦士となり、クライマックスにはパワーローダー(運搬用重機のパワードスーツ)に搭乗して操縦、エイリアン・クイーンとの頂上"母性"バトルは今でも語り草だ。SFホラーを俺流の"戦争アクション"に染めあげたジェームズ・キャメロンは、「監督によってスタイルが変わる」という当シリーズの"トーン&マナー"を決定づけた。

detail_180713_photo02.jpg「エイリアン2」© 1986 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

前2作で、新進気鋭のクリエイターの登竜門的色合いが一段と濃くなったが、90年代に突入して作られた『エイリアン3』(92)は、完全な新人監督が選ばれた。デヴィッド・フィンチャー。これが現在、完璧主義として有名な鬼才の長編デビュー作である。早くに映画界を目指して高校卒業後にはI.L.M.(インダストリアル・ライト&マジック)に就職。ディレクターに転身してからはCM畑で頭角を表し、さらに1980年代後半はスティングの「Englishman In New York」、ポーラ・アブドゥルの「Straight Up」「Forever Your Girl」、マドンナの「Vogue」といったMVでも注目され、いきなり本作を手がけることに。リプリーが辿りついた流刑惑星を舞台に、囚人の飼い犬を宿主にした一体のドッグ型エイリアンが4足歩行で暴れまくるのだが、デヴィッド・フィンチャーはそのデザインを再びH・R・ギーガーに依頼、独特の陰鬱な世界観を構築し、緊迫感あふれる展開の中にエイリアンのPOV(一人称視点)映像も盛り込んで、才気の萌芽を見せている。

detail_180713_photo03.jpg「エイリアン3」© 1992 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

続く『エイリアン4』(97)は、いったん完結したシリーズを再生させる試みとなった。前作で体内に寄生され、究極の選択を迫られたリプリー。それから200年後、残された血液のDNAから、軍事利用の研究材料のためクローン人間として復活する。監督には(相棒マルク・キャロと組んだ)ブラックコメディ『デリカテッセン』(91)、SFダークファンタジー『ロスト・チルドレン』(95)で異彩を放っていたジャン=ピエール・ジュネがフランスから招聘された。奇々怪々な異次元空間を創り上げることに長け、本作はシリーズ中、どこかユーモラスだが最もグロテスクな描写が詰まった一本に。恐怖感を煽る初の水中シーンや、クローンのリプリーと新生命体ニューボーンとの残酷かつ悲愁に満ちた対決もジュネ監督らしい。

detail_180713_photo04.jpg「エイリアン4」© 1997 Twentieth Century Fox Film Corporation.

この後に、同名のコミック作品を原案にしたスピンオフ企画、というか番外編『エイリアンVS. プレデター』(04)と『AVP2 エイリアンズVS. プレデター』(07)が作られたが、ついに真打ちが動き出した。全てを仕切り直すかのように1作目の監督、75歳になったリドリー・スコットが『プロメテウス』(12)を発表したのである。『エイリアン』へと繋がっていくエピソード・ゼロ的な前日譚で、こちらは宇宙船プロメテウスに乗った調査チームが"人類の起源"を求め、未知の惑星に旅立つ。1作目でリプリーたちが見た(大量の不気味な卵を積んだ)巨大な遺棄船、そしてコックピットに座っていた(胸部を何者かに破られた痕のある)あの異星人の謎に迫る展開で、エイリアン誕生の秘密を解いていく。と同時に、リドリー・スコットが「歴代SF映画ベスト1」と語る、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(68)のテーマへも接近、それは『プロメテウス』の続編、『エイリアン:コヴェナント』(17)においても深化している。つまりは、「創造主と被創造者」との関係で、両作に登場する(マイケル・ファスベンダーによって演じられた)アンドロイドが大きな鍵を握る。ということは、リドリー・スコットのもう一つの代表作『ブレードランナー』(82)とも関わりを持っていくわけで、"SFホラー映画"から始まったエイリアン・ユニバースは、その基本線を守りつつ、深淵なる思考実験を進めているのである。

detail_180713_photo05.jpg『エイリアンVS. プレデター』© 2004 Twentieth Century Fox Film Corporation.

文=轟夕起夫


[放送情報]

エイリアン2[完全版]
WOWOWシネマ 7/14(土)午後0:30ほか
エイリアン3[完全版]
WOWOWシネマ 7/14(土)午後3:15ほか
エイリアン4[完全版]
WOWOWシネマ 7/14(土)午後5:45ほか
エイリアン:コヴェナント
WOWOWシネマ 7/14(土)よる10:00ほか
エイリアンVS.プレデター[完全版]
WOWOWシネマ 7/15(日)午後0:00ほか
AVP2 エイリアンズVS. プレデター[完全版]
WOWOWシネマ 7/15(日)午後2:00ほか


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