2018/08/23 up

知的でシニカル! 伝統的な批評精神に培われた英国流コメディ

「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」9/20(木)よる11:00ほか

英国男優総選挙2018

 サーカスなどにおいて「滑稽な格好で観客を笑わせる」という役割を担っているピエロ。この"ピエロ"="道化役者"の存在は、古代エジプトまで遡ることができるほど、長い歴史と変遷を持っている。中世のヨーロッパでは、王家のお抱えとなるような<宮廷道化師>が、歌や踊り、奇術などの芸で支配者層の人々を楽しませていたと伝えられている。この<宮廷道化師>の特徴は、絶対的君主であった王に対して、何でも言えるという唯一無二にして特異な存在であったという点。厳しい階級社会の中で、下層の人間は権力を持つ人間に対して何も言えない時代。<宮廷道化師>は、常に戯け、馬鹿を装っているからこそ"笑い"によってのみ、政治や権力に対してからかうことが許された存在だったのだ。

 イギリスで1969年に放送の始まった「空飛ぶモンティ・パイソン」は、シュールな風刺コメディで今なお人気の高いTV番組。<スケッチ>と呼ばれるコントでは、宗教や人種、政治家や芸術家、さらには共産主義者やナチスなど、扱えるものであればどんなものでも笑いのネタにしていた。そんな<スケッチ>の中でも、不敬なまでにネタの対象とされていたのがイギリス王室だった。このタブーとも思える事象を笑いのネタにできるのは、イギリスが階級社会の歴史を持ち、<宮廷道化師>の精神というものが庶民の中に今なお脈々と宿っているからでもある。もちろん歴史の流れの中で、どんなに批判があろうとも王室が存在し続けてきたこととも無縁ではない。

 思い返せばイギリスは、<喜劇王>と呼ばれ、笑いで世界を席巻したチャールズ・チャップリンが誕生した国でもある。イギリス人の持つ独特のユーモア精神は、例えば、ダニー・ボイル監督が演出を担当した2012年の夏季ロンドンオリンピックの開会式でも実践されていた。ジェームズ・ボンドに扮したダニエル・クレイグが、エリザベス女王をエスコート。バッキンガム宮殿からヘリコプターに搭乗し、ボンドと女王がパラシュートで降下する(※実際に降下したのはともにスタントマン)という予想外の演出には、世界中が驚いたことで記憶に新しい。

 映画は王室をからかうが、王室もまたそれを利用するという相互関係があるのだ。そして、「空飛ぶモンティ・パイソン」を制作していた放送局がBBCであったというのも重要なポイント。BBC(英国放送協会)は、日本のNHKにあたるような公共放送であることを考慮すれば、その公平性と自由度の高さをうかがい知ることができるだろう。イギリスでは、政治的権力とお笑いの立場が同等なのである。

 一方、民間放送局ITVで1990年から'95年まで放送され、日本でも人気を博したのが、ローワン・アトキンソン主演のコメディTVシリーズ「Mr.ビーン」。このシリーズでも、王室は常にブラックジョークの対象となっていた。注目したいのは、ローワン・アトキンソンと共に脚本家として参加していた人物である。その一人、リチャード・カーティスは『フォー・ウェディング』(94)で映画の脚本を担当。それまで日本では"英国美青年俳優"という印象の強かったヒュー・グラントに対して、一躍ロマンティック・コメディのイメージを定着させたという功績がある。2人は『ノッティングヒルの恋人』(99)や『ラブ・アクチュアリー』(03)でも組んでいるが、ハリウッド製のロマンティック・コメディとひと味違うのは、悲喜こもごもな人生の機微を感じさせるという作風にある。タイムトラベルを題材にしながら、人生のあり方をも考えさせられる監督作『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(13)は、その好例といえるだろう。

 近年ではエドガー・ライト監督が、ゾンビ映画を考察した『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)で同様の作風を垣間みせている。"ゾンビもの"という<ジャンル映画>に対するパロディとして始まる本作は、恐怖を味わうはずのゾンビ映画で「笑える」という点がポイント。"ゾンビもの"のルールを知っているからこそ理解できるという批評性あふれる展開は、世界中に熱狂的なファンを生んだ。しかし終盤、物語はシリアスな一面を見せはじめ、人生の機微を感じさせるような難易度の高い着地をしてみせていることがうかがえる。その後もエドガー・ライトは、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)で"刑事もの"を、『ベイビー・ドライバー』(17)で"ケイパー(強盗)もの"を変容させていたように、ハリウッドの<ジャンル映画>に対する批評性を持たせた作品を世に送り出し続けている。

 さらに、イギリスのコメディ映画を手掛ける映画人には、ある共通点を見出せる。例えば、ローワン・アトキンソンやリチャード・カーティス、ヒュー・グラントやモンティ・パイソンのメンバーであるマイケル・ペイリンやテリー・ジョーンズは、オックスフォード大学の出身。そして、モンティ・パイソンのグレアム・チャップマンやジョン・クリーズ、エリック・アイドルは、ケンブリッジ大学の出身。みな高学歴という共通点があるのだ。つまり、英国流コメディは単なる"おバカ"な作品ではないのである。教養に裏打ちされた"おバカ"な笑いであるからこそ、世相批判を含有させながら社会的な影響も持っている。そういう姿勢によって"笑い"というものを武器にしながら、権力に屈しない<言論の自由>をも勝ち取ってきたのだ。時代と寄り添いながら権力を笑い飛ばすからこそ、時代が変わっても英国流コメディの魅力は枯れることがないのである。

文=松崎健夫

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[放送情報]

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!
WOWOWシネマ 9/20(木)よる11:00ほか

ベイビー・ドライバー
WOWOWライブ 9/9(日)午後5:30ほか

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