2018/12/26 up

☆3日連続 年末年始の映画特集☆Vol.1 原作コミックとはひと味違った映画『ちはやふる』の"結び"

「ちはやふる-上の句-」1/1(火・祝)午後5:15

 競技かるたに青春を懸ける高校生たちを描き、大ヒットを記録した実写版映画『ちはやふる』三部作は、『ちはやふる-上の句-』『~-下の句-』『~-結び-』が製作され、このたびWOWOWで一挙放送される。原作は「BE・LOVE」(講談社刊)に連載中の末次由紀のコミック。連載が10年以上続いている原作は、いよいよクライマックスに突入しようという展開になってきているが、映画版も映画ならではの終わり方を見せてくれた。今回は原作コミックと映画版、それぞれの魅力に迫っていきたい。

『ちはやふる』を簡単におさらいしておくと、幼なじみの綾瀬千早、真島太一、綿谷新の3人が、競技かるたに魅せられて、高校生になった現在、頂点を目指して戦うという青春熱血ドラマだ。文化部でありながら、体育会系的な競技かるたの世界を世に知らしめたという点でも、原作コミックやアニメ版(2011年から2シーズン放送。2019年4月より第3シーズンが放送予定)、映画版の存在は大きいと言えるだろう。また映画化について原作者の末次は、製作者たちに「原作より面白くしてください」というかなりハードルの高い注文を付けてきた。

『ちはやふる-下の句-』

detail_181226_photo02.jpg©2016映画「ちはやふる」製作委員会 ©末次由紀/講談社

 そんな映画版のキャストに選ばれたのは千早が広瀬すず、太一が野村周平、新が新田真剣佑。コミックの千早は身長が170cmに届きそうな長身で、モデルの姉と同様の美貌の持ち主だが、かるた以外目に入らない、ある意味オタク・キャラで、そこが魅力となっている。オファーを受けた広瀬すずは当初、自身も原作ファンであることから、長身でない自分が引き受けてよいものか悩んだそうだが、内面を近づけることで、見かけの問題点を克服している。実家が金持ちで、その分、監視も厳しい中で生きている太一役には野村周平。原作通りのイケメン・タイプだが、内なる情熱も感じさせ、『~-結び-』では賀来賢人演じる名人・周防久志との関係もたっぷりと描かれる。各キャラクターの人間的な成長を描いた『~-結び-』においても、存在感はシリーズ随一のものと言えるだろう。天賦の才を持つ新役の新田真剣佑は2017年に、それまでの"真剣佑"名義に"新田"を加えた。言うまでもなく、これは本作の新役を意識したもので、原作者である末次由紀の了解も得てのこと。一見、温和だが、かるたの試合になると一変するのは原作と変わらない。

『ちはやふる-結び-』

detail_181226_photo03.jpg©2018 映画「ちはやふる」製作委員会 ©末次由紀/講談社

 現在、原作の単行本は40巻まで進み、連載自体もまだまだ続く気配だ。名人戦とクイーン戦、これにいつ決着がつけられるのか、原作者自身も読めていないのではないだろうか? 映画版は上映時間の兼ね合いもあって、膨大な原作の中から、映画に相応しいエッセンスを抽出してまとめられている。当然、切り捨てられたエピソードも多くあり、熱烈な原作ファンにとっては断腸の思いというのも理解できなくはない。だがテンポよく話が進行し、主要3人のそれぞれの思い、チーム(団体戦)で戦うことの素晴らしさ、松岡茉優演じるクイーンこと若宮詩暢の貫禄など、しっかり描き込んでくれたのは、個人的に評価したい。

 『~-上の句-』で、省かれたように思えた幼少時代のエピソードを、随所で回想形式で挿入するのも映画ならではのニクイ演出だ。またアニメ版がうまく表現していたカラフルな色彩への配慮も印象深く、紅葉や着物の色が鮮やかに再現されている。音楽を手掛けた横山克の透き通るようなメロディが凝縮されたサントラの出来が出色だったことも付け加えるべきだろう。『~-結び-』では前2作以上に臨場感を盛り上げようと、新しい技術も導入されている。出演者の腕に直接着けるGoProカメラと1000分の1秒の高速撮影ができるファントム・カメラだ。新たな視点と鮮明なスローモーション映像が完結編のどの場面で使われているかも、よく見極めてもらいたい。

 原作に話を戻すと、千早はクイーンへの挑戦権を獲得し、太一と新は名人への挑戦権を懸けて雌雄を決している。クイーンの若宮詩暢が、競技かるたをプロの競技にしようと行動し始めている点も面白い。なんと彼女はユーチューバーにまでなって、広報活動に励んでいるのだ。今後の展開に目が離せなくなってきている。

 今回の放送では三部作が一挙放送されるが、続けて観ることで新たな発見もあるはずだ。『~-上の句-』で千早が将来の夢を語るくだりが、きちんと『~-結び-』のラストにつながっているのが分かったり、太一の内面の変化もつかみやすくなっていたり。コミックの映画化が乱造される邦画界だが、本シリーズは奇跡的に、原作と微妙な距離感を保つことで成功を収めた。今回の放送では、その魅力を確認してもらいたい。

文=飯塚克味

[放送情報]

ちはやふる-上の句-
WOWOWシネマ 1/1(火・祝)午後5:15ほか
ちはやふる-下の句-
WOWOWシネマ 1/1(火・祝)よる7:15ほか
ちはやふる-結び-
WOWOWシネマ 1/1(火・祝)よる9:00ほか

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