2018/12/28 up

☆3日連続 年末年始の映画特集☆Vol.3 『マンハント』で再注目! 日中の架け橋的作品『君よ憤怒の河を渉れ』のすごさ

「君よ憤怒の河を渉れ」1/5(土)深夜0:30

 日本映画の中で、もっとも大勢の外国人に影響を与えた作品は何か。『君の名は。』か、宮崎駿か、クロサワか、それともキタノかはたまた小津か......?

 まあ、モノサシを何にするかで結論は変わってこようが、狂信者というほどの熱狂的ファンを大勢生み出したという点では、間違いなく『君よ憤怒の河を渉れ』('76)だろう。

 この映画は文化大革命終結からの開放政策後、初めて中国で公開された外国映画で、動員数たるや8億から10億人と推定される。ちなみに当時の中国人口は9億人。赤ちゃんからジサマバサマまで、中国人全員が1回ずつ観てもまだ余る。当時の中国人は自宅にTVなんてなかったから、映画館で観られた日本映画としては史上最高記録ではないか。とんでもない話である。

 生まれたばかりの鳥は最初に見た顔を親と認識するというが、初めて観た外国映画が本作だったのは、中国人にとっては幸福だった。それくらいこの映画は面白く、出来がいい。

 物語は、高倉健演じる主人公の検事が、いきなり覚えのない容疑で逮捕されてしまう場面から始まる。すぐに濡れ衣は晴れるかと思いきや、周りは嘘八百の証言で彼を追い詰めていく。ここに至り、主人公もコトの重大さを知ることになる。このままでは"見えない力"によって犯人にされてしまう! 恐るべき運命を悟った主人公は、意を決して警察の手から逃げ出し、自ら真相を探るため逃避行に出るのだった。

 一見ありがちな筋書きだが、その先入観は100%裏切られる。まずすごいのが、映画が始まって最初の1秒目からクライマックスとなっている点。オープニングに力を注ぐのはエンタメ作品の王道だがそんなレベルではなく、いきなりサビから始まるんだから度肝を抜かれる。

 主人公に迫る危機の数々が、常軌を逸したアイデアばかりなのもすごい。なぜ真面目な冤罪逃亡サスペンスなのに、熊と闘ったり、大空でスカイ・アクションを繰り広げたり、都内を馬で駆け巡る展開になるのか。"素っ頓狂"の言葉だけでは表現しきれぬトンデモ展開である。

 しかも、それらのごった煮要素が破綻せず、嘲笑の対象にもならず、めちゃくちゃ格好良くまとまっている。このバランス感覚は奇跡的というほかないが、それを実現させるのが高倉健のカリスマというものだ。グレーの細身スーツ姿や、レザージャケットに黒のタートルネックを合わせるシンプルな服飾も惚れ惚れするが、随所で見せる名セリフがまたクール。なかでも国会議事堂を前にしたラスト・シーンのそれは、控えめに言って完璧というほかない。

 全編に流れるテーマ曲の「ダ~ララ~」というスキャットも強烈なインパクトだ。後に高倉健が、共演した田中邦衛と共に訪中した際、乗っていたバスが上海市民に見つかった途端、何千人もの大群衆に囲まれ車が一歩も動けなくなり、全員が「ダ~ララ~」と合唱を始めたと語っている。どれだけ『憤怒』好きなんだ中国人。

『マンハント(2017)』

detail_181228_photo02.jpg©2017 Media Asia Film Production Limited All Rights Reserved.

 こうした未曽有の影響力を放つオリジナルから40年の時を経て公開されたのが『マンハント』('17)。チャン・ハンユー&福山雅治の中日スターがW主演、監督はハリウッドでも活躍するジョン・ウーという豪華布陣のアクション・サスペンスだ。

 もともと高倉健を神と崇めるジョン・ウー監督は、本当は'76年版のリメイクとして作りたかったが権利上の理由でかなわず、西村寿行の原作小説の映画化権を買い取る裏ワザでなんとか本作を作り上げたという。そのため(厳密にはリメイクではないのに)映画版へのリスペクトがあふれているのが見どころだ。先にオリジナルを観てから『マンハント』を鑑賞すれば、ウー監督の"憤怒"愛も手に取るように分かるはず。トレードマークの白ハトの数もかなり多めで、自分の全個性をオリジナルに捧げる覚悟で作ったのだなと感じさせる。

 主演のチャン・ハンユーも、『憤怒』を観て俳優になろうと思ったほどの人物だから気合の入り方が違う。彼の世代の中国映画人には、そういう人が少なくない。

 ストーリーは現代的かつW主演用にアレンジされているが、オリジナルがこうして今も中国文化圏に根強く影響を与え、愛されていると思うと改めて感慨深いものがある。言うならば、映画が架けた日中友好の架け橋といったところか。

文=前田有一

[放送情報]

君よ憤怒の河を渉れ
WOWOWシネマ 1/5(土)深夜0:30
マンハント(2017)
WOWOWシネマ 1/5(土)よる10:30

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