2019/04/25 up

『空飛ぶタイヤ』映画&ドラマ版一挙放送! 池井戸潤の映像化作品はなぜ日本人の心を熱くさせるのか

「連続ドラマW 空飛ぶタイヤ」5/5(日・祝)午後5:45

 ベストセラー作家、池井戸潤が執筆し、2006年に刊行された小説『空飛ぶタイヤ』を実写化した映画版とWOWOW連続ドラマW版が、5月に一挙放送される。池井戸作品といえば、「下町ロケット」や「花咲舞が黙ってない」「陸王」など、ドラマ化されるたびに高い評価を得ており、もはや「池井戸原作ドラマにハズレなし!」と言っても過言ではないほど、映像化との相性が良い作家としても知られている。

 池井戸作品が、かつてないほど注目を集めたのは、なんといっても2013年のドラマ「半沢直樹」だろう。流行語にもなった「倍返しだ!」という決めゼリフと、インパクトのある俳優たちの"顔"のアップで展開される小気味良い演出が、そして、巨大企業を舞台にしながらも、まるで少年漫画のような勧善懲悪によってもたらされるカタルシスが、このドラマにおける最大の特長だ。

 もちろん『半沢直樹』で沸き起こった空前の一大ブーム以前から、池井戸作品は映像化されていた。ドラマ版の「空飛ぶタイヤ」は、いまや大人気シリーズとなっているWOWOW連続ドラマWのシリーズ第3弾として2009年に放送されたもの。実際に起きた"三菱自動車のリコール隠し事件"に着想を得て書かれた小説をベースとしたこのドラマは、放送当時も巨大組織の暗部とそれに立ち向かう人々を描いた、本格的社会派ヒューマンサスペンスだ。本作は視聴者から圧倒的な支持を得たばかりでなく、日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ番組最優秀賞などを受賞した。

 発端となるのは、運送会社のトレーラーが走行中、突然タイヤが脱輪し、歩道を歩いていた母子を直撃したことによる死傷事故だ。運送会社社長の赤松(仲村トオル)は、車両の整備不良を疑われて家族もろともバッシングを受ける。だが、赤松は社員の適切な整備を信じ、事故の再調査を訴える。一方、トレーラーの製造元であるホープ自動車のカスタマー戦略課長を務める沢田(田辺誠一)は、赤松からの訴えをきっかけに、社内のリコール隠しの実態をつかみ、常務の狩野(國村隼)らによる悪質な不正を暴くために、仲間と内部告発を企てる。そこに銀行マンや週刊誌記者らの思惑が絡み、事態は真相解明へと進んでいく。

 ドラマ版では、主演の仲村トオルをはじめ、田辺誠一や萩原聖人に國村隼、そして今は亡き大杉漣といったそうそうたる役者陣が名を連ねており、初放送から9年を経た現在見直してみても、まったく古びるところがない。トータル5時間を超える全5話の構成で、事件の真相解明をベースにしながら、長年明るみにされてこなかった巨大企業の卑劣な隠蔽体質と、自己保身に走ってしまう人間の弱さをじっくりとあぶり出していく。

detail_190425_photo02.jpg「連続ドラマW 空飛ぶタイヤ」

 片や、2018年に劇場公開された映画版『空飛ぶタイヤ』では、『超高速!参勤交代』('14)などで知られる本木克英監督のもと、長瀬智也をはじめ、ディーン・フジオカや高橋一生といった人気俳優から、ベテランの岸部一徳、笹野高史らが集結。約2時間という枠組みに収めるに当たり、キャラクターそれぞれの個性が際立ったことで、ドラマ版と比べると巨大企業の不正に立ち向かう勇ましきヒーローの物語、という色合いが濃くなっている。エンディングに流れるサザンオールスターズの『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』も、この映画の世界観をより一層盛り立てる役割を果たしているといえるだろう。

detail_190425_photo03.jpg『空飛ぶタイヤ』5/4(土・祝)よる9:00他
©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

 池井戸作品が映像化に向いているのは、社会の片隅で生きる弱き者たちが、互いに力を合わせて強者たちに立ち向かい、窮地に見舞われながらも最終的には"正義は勝つ"とばかりに、見事大逆転を遂げる痛快さに、多くのサラリーマンやその家族たちが共感を覚えるからだ。つまり、日常生活でためこんだ鬱憤を、ドラマや映画の中で登場人物たちに代わりに晴らしてもらうことで、自分が抱える問題も少しは軽くなるような気になれるのだ。

detail_190425_photo04.jpg©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

 もちろん、それぞれの作品によって細かい設定や扱うテーマが変わってはくるものの、誰もが"自分ごと"として感じられる共感性の高さこそが、日本人が池井戸作品に夢中になってしまう大きな理由の一つに違いない。裏を返せば、いかに日ごろわれわれは自らの心の声を押し殺し、流されるままに生きているのか、というジレンマを突き付けられることにもなりかねないのだが、そこはあくまでフィクションとして押し切ってしまえるのが、エンタメ作品ならではの良さといえるはずだ。

 今回の一挙放送を機に、ぜひドラマ版と映画版の『空飛ぶタイヤ』を続けて観てみることをオススメしたい。いずれも未見という人なら、まずは映画版で全体像をつかんでから、ドラマ版でじっくり掘り下げていくのもいいだろう。もちろん、合わせて原作を読み返すことで、映像化に当たって何が省略され、何が強調されているのかを確かめながら、俳優陣の演技の違いを見比べてみるのも面白い。そして最後に、たとえ何度リピートしても、その都度新鮮な気持ちで楽しめるのも、池井戸作品の魅力であることを付け加えておきたい。

  • 文=渡邊玲子
    インタビュアー・ライター。「DVD&動画配信でーた」「cinefil BOOK」「マイナビニュース」などでインタビュー記事やレビューを執筆中。国内外の映画監督や役者が発する言葉に必死で耳を傾ける日々。

[放送情報]

『空飛ぶタイヤ』
WOWOWシネマ 5/4(土・祝)よる9:00
WOWOWプライム 5/5(日・祝)午後3:30
WOWOWプライム 5/9(木)よる7:45
WOWOWシネマ 5/12(日)よる6:45
WOWOWシネマ 6/17(月)よる9:00

連続ドラマW 空飛ぶタイヤ
WOWOWプライム 5/5(日・祝)午後5:45(5話連続放送)

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