2019/09/01 up

9月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

「1987、ある闘いの真実」9/4(水)よる9:00

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

 今月は、己自身と向き合うキッカケを与えてくれる3本を紹介します。

文=ミヤザキタケル


『1987、ある闘いの真実』('17)

 1987年に起きた学生運動家の拷問致死事件から6月民主抗争へ至る韓国の民主化闘争を綴った実話ベースの物語。キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ソル・ギョングら韓国の実力派俳優が集結した群像劇で、政府の不正や数多の理不尽にさらされる遺族や検事、記者、学生たちの姿を通し、今この時代を生きる者にこそ必要な勇気の姿勢を描いた作品です。

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detail_190901_photo02.jpg『1987、ある闘いの真実』
©2017 CJ E&M CORPORATION, WOOJEUNG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 他国の歴史ゆえに、この悲惨で痛ましい事件を認識していない人もいるだろう。1986年生まれの僕は、恥ずかしながら知らなかった。学生時代に習ったのかもしれないが、とうの昔に忘れていた。飛行機でほんの数時間もあれば訪れることのできる隣国の歴史。他人事だと割り切るのはたやすいが、この忌むべき出来事を、懸命に戦った人々の勇気を、知っておいて損はないはずだ。

 僕たちもかつての時代を生きた人たちも皆同じ人間。理不尽な状況を強いられる側にも強いる側にも立ててしまう。今を生きる僕たちの方が優れた人類だなんてことはまず絶対にあり得ない。違いがあるとすれば、僕たちの方がより多くを糧にできるということ。善き歴史も悪しき歴史もすべて引っくるめて今を生き、模範解答を手にしている状態だと言ってもいい。言い換えれば、模範解答を手にしている以上、過去と同じミスは許されない。時代が進み、正しく歴史を語り継げる者が潰えれば、やがてまた同じ過ちを繰り返す。そんなことがあってはならないから、戒めとなり得る本作は価値がある。理不尽に抗う人間を、時に理不尽に屈してしまう人間を、そんな人間の醜さも美しさをも描いているこの作品は、"今"と向き合うためのキッカケを僕たちに与えてくれる。


『愛しのアイリーン』('18)

 『宮本から君へ』などで知られる新井英樹のコミックの初の実写映画化で、『ヒメアノ~ル』('15)の吉田恵輔がメガホンを取っている。年老いた母ツル(木野花)と認知症の父、源造(品川徹)と暮らす42歳・独身の岩男(安田顕)が、フィリピンのお見合いツアーで出会ったアイリーン(ナッツ・シトイ)と結婚したことで変化していく家族の関係性を通し、一筋縄ではいかない岩男とアイリーン、ツルと岩男の愛のあり方を描いています。

detail_190901_photo03.jpg『愛しのアイリーン』WOWOWシネマ 9/22(日)よる10:00他
©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

 あなたは愛を所持しているだろうか。パートナーとの関係性において、愛は存在しているだろうか。僕は恋することならいくらでもあるけれど、愛にたどり着けた試しがない。正確には、家族が注いでくれる無償の愛しか触れたことがない。それも、家族と離れて暮らすようになったからこそ感じ取れるようになったもの。岩男のようにずっと実家暮らしだったら、その価値を曲解したり見誤ることもあっただろう。愛を誓って結婚しても、別れる人たちがたくさんいる。消えてしまったのなら、端からそれは愛ではなく恋でしかなかったということ。一時の感情の高ぶりや性欲を愛だと錯覚していただけ。そもそも愛を確信して付き合ったり結婚するなんてこと自体、無理な話なのかもしれない。

 それが愛であるか否かは、時間をかけて共に生きていかなければ確信できない。一発で到達できる人もいれば、何度も間違えないと到達できない人もいる。でも間違えることを恐れて足踏みしていたら、到達できない。世間の目もあるが、最終的に愛にたどり着けるのであれば、始まりは何だって良いのだと思う。日常において岩男らを目にしたらクレイジーにしか思えないけど、映画だからこそ彼らの心にだって寄り添える。そして、自身の愛がいかに不鮮明なものであったのかに気付かされる。ズタボロになりながらも一つの愛のあり方を示した愛おしい作品です。

detail_190901_photo04.jpg『愛しのアイリーン』
©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ


『パパはわるものチャンピオン』('18)

 新日本プロレスのレスラー、棚橋弘至の主演作。作・板橋雅弘、絵・吉田尚令による人気絵本が原作で、ヒーローでいたいけど、悪役を強いられるプロレスラーの父親を棚橋、そんな父親のことを恥じる息子を寺田心、2人を見守るレスラーの妻を木村佳乃が演じる。厳しい現実にもがき苦しみながらも前を向いていく親子の姿を通し、表面的な部分だけでは推し量ることのできない人の心の強さを描写した人間ドラマです。

detail_190901_photo05.jpg『パパはわるものチャンピオン』9/28(土)よる9:45他
©2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会

 一切プロレスに興味を持たない人にとっては、気に留めることもなく通り過ぎていく作品なのかもしれないが、怪我が原因でエースから格下のマスクマンに成り下がった男とその息子の姿を捉えた家族の話であり、思い描いた夢と思い通りにならない現実の狭間でどう生きていくのかを描いた話でもある。つまり、誰にだって当てはまる話なのだ。

 良くも悪くも社会のことわりに染まり、不純で言い訳や折り合いばかりつけている大人。良くも悪くも社会のことわりを無視し、純粋で傲慢でありのままな子ども。そんな作中の親子の対比から、今の自分とかつての自分とのギャップを垣間見る。どこで間違えたのか、今からでも引き返せるのか、最早手遅れなのか、己自身を見つめ直す時間になると思う。現状が自分の本意でない人なんて世の中にたくさんいる。かと言って、今の自分を選んだのは、他の誰でもない自分自身。これから歩む道がどうなるかは、今この瞬間をどう生きていくかで決まっていく。たとえ何かに負けたとしても、人生において負けたわけじゃない。心持ち次第で状況はいかようにも変わっていく。悪役マスクマンとして戦う父の姿が、そんな父の葛藤や決意を受け入れていく息子の姿が、本当に大切なことは何なのかを教えてくれると思います。

detail_190901_photo06.jpg『パパはわるものチャンピオン』
©2018「パパはわるものチャンピオン」製作委員会

 国・愛・己と向き合い、今の自分を見つめ直すキッカケを与えてくれる3本の作品とともに今月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。


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[放送情報]

1987、ある闘いの真実
WOWOWシネマ 9/4(水)よる9:00

愛しのアイリーン
WOWOWシネマ 9/22(日)よる10:00
WOWOWプライム 9/25(水)深夜1:00
WOWOWシネマ 10/5(土)深夜2:30

パパはわるものチャンピオン
WOWOWシネマ 9/28(土)よる9:45
WOWOWシネマ 10/8(火)午後4:35

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