2019/12/24 up

『翔んで埼玉』に見る関東という名の秘境、あるいは本気の茶番劇

「翔んで埼玉」12/28(土)よる8:00他

文=横森文

 2019年2月の公開以来ロングラン・ヒットを記録し、興収37億円超というバカ当たりを見せた『翔んで埼玉』。関東圏において、東京があまりにも耀くがゆえに隣接した県は常に比較されてきた。そんな中で育まれた自分の出身県などに対する熱い思いは『秘密のケンミンSHOW』など今やバラエティなどでも定番のネタになりつつある。その郷土愛を、本気でファンタジー(=現代の埼玉県民がラジオで聴く都市伝説)として成立させたのが本作なのだ。

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 例えば最初の舞台となる東京の白鵬堂学院は、外観はまるでヨーロッパの歴史的建造物で、内観もロココな雰囲気。おまけに登場人物たちも宝塚的クッキリ濃いめのメイクで迫る。生徒たちの衣裳もドレッシーだ。しかし、同じ高校内であっても埼玉県出身で現在は東京に住む生徒たちが通うZ組の教室は、完全なる掘っ立て小屋。しかもZ組の生徒がはいているのはもんぺだ。そこからも想像できるように、東京は摩天楼&ヨーロッパの街のイメージなのに、埼玉や千葉になると、時代が違うのか!? と首を傾げたくなるほど文明とは程遠い暮らし、それこそ江戸時代のような生活を送っている。なにしろ医者を呼べとなった時に、医者はいなくて祈祷師はいるという世界なのだから。

 県知事が白いギターで歌う神奈川県はまだしも、茨城県は「粘っこく伸びる腐った大豆を好む」人々が暮らす地域とされ、さらにヒドいのが群馬県。もはや翼竜が飛んでいて、文明の片鱗すらない未開の地とされているのだ。ほとんど登場しないが、栃木県とかはどうなっていたのか。気になる。
 東京以外へのディスりも強烈だ。「そこらへんの草でも食わせておけ! 埼玉県人ならそれで治る!」「あぁいやだ! 埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」など、ディスり名言の山。埼玉県民を捕まえるための"さいたまホイホイ"なんて罠まで登場する。

 そしてすごいのは、こんな無茶苦茶な世界を大真面目に役者たちが演じ切っているところだ。なかでも強烈なのは主人公、麻実麗に扮したGACKT。容姿端麗で成績優秀でスポーツも万能、武道にも長けたパーフェクト男子を完璧な耽美さで演じのける。そんなGACKTは埼玉県民をあぶり出すための踏み絵として差し出された、シラコバト(埼玉の"県民の鳥")のイラスト付きの草加せんべいを踏めずに苦悩するのだ。こんな面白いことはないではないか。

detail_191224_photo02.jpg©2019 映画「翔んで埼玉」製作委員会

 GACKTの役どころは、埼玉を解放するために東京都民として潜り込んだ"隠れ埼玉県人"。宝塚版の『ベルサイユのばら』のような出で立ちで、背中にバラを背負ってそうなキラキラ具合がたまらない。そんな麗と妖艶なキスも見せちゃう"千葉解放戦線"のリーダー、阿久津翔役の伊勢谷友介や、"伝説の埼玉県人"埼玉デューク役の京本政樹など、見目麗しき男性たちがそれぞれの魅力を発揮し、照れなく本気でこの世界に挑んでいるのが素晴らしい。さらにW主演である二階堂ふみが東京都知事の息子で、麗に恋心を抱く純情ボーイズラブ少年、壇ノ浦百美を体当たりで演じている。

detail_191224_photo03.jpg©2019 映画「翔んで埼玉」製作委員会

 本当に楽しいおバカ映画ではあるが、それを生かすのも殺すのも役者たちの演技。大人の本気の悪ふざけ、本気の茶番劇をここまで盛り立てた演技は、ガチで楽しい。その競演(狂宴?)だけでも見る価値ありだ。


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  • 文=横森文
    映画ライターの傍ら演劇集団トツゲキ倶楽部で主宰、演出、脚本を手掛ける。また、役者のためのワークショップも毎月開催(詳細は「トツゲキ倶楽部」で検索を)。


[放送情報]

翔んで埼玉
WOWOWシネマ 12/28(土)よる8:00
WOWOWプライム 12/29(日)午後5:00
WOWOWシネマ 1/5(日)午後0:00
WOWOWプライム 1/14(火)よる8:00
WOWOWプライム 1/19(日)午後3:45


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