2020/07/01 up

7月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

『よこがお』7/26(日)よる9:00他

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

 今月は、サスペンス、コメディ、青春とタイプの異なる3本を紹介します。

文=ミヤザキタケル


『よこがお』('19)

『淵に立つ』('16)など、海外映画祭での受賞歴をもつ深田晃司監督が、同作でもコンビを組んだ筒井真理子を主演に迎えたヒューマン・サスペンス。ある失踪事件が原因で加害者同然の扱いを受け、それまでの日常が崩壊していく主人公、市子の姿を通し、目に見えぬ他者とのつながり、その揺らぎを描いた作品です。

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 家族、恋人、友人、誰にだってひとりくらいは信頼できる人がいると思う。だが、あなたと同等の想いを相手も抱いていると断言できるだろうか。そう、信頼とは目に見えない。人の気持ちは形を持たず、些細なことで揺れ動く。でも、本作を観たのなら考えずにはいられない。その信頼関係がひっくり返ってしまう可能性を。場合によっては、僕たちにも起こり得る出来事だと。

 信用しているからこそ話したこと。信用を得たいがために話したこと。市子のように自身のパーソナルな部分を他人に明かす時、そこには何かしらの理由が絶対にある。良好な関係であるうちは良いが、不意に関係がこじれれば、相手にもらしたすべてがまるで人質のようになってしまう。切り取り改ざんすれば、真実はいか様にもゆがめられてしまう。そんな状態に陥るのなら、そこまでの関係しか築けていなかったということ。何があろうと揺らがぬつながりなら、それこそが真の"信頼"に値する。つまりは、一度壁に直面しなければ、信頼の有無は見極められない。

detail_200701_photo02.jpg『よこがお』
©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

 リスクばかりにとらわれれば、はなから誰も信用できない。かと言って、リスクを取ってそれがあだとなるのも恐ろしい。ある意味綱渡りのような絶妙なバランスを保ちながら僕たちは日々を生きている。足踏みしていたってどうにもならない。裏切られる結果になろうと、信じようとしなければ相手の心には触れられない。確かな信頼関係など築けない。観れば打ちのめされるのは必至ですが、他者とのつながりを、自身を見つめ直すキッカケを与えてくれる作品になると思います。

detail_200701_photo03.jpg『よこがお』
©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS


『記憶にございません!』('19)

 三谷幸喜監督の長編映画第8作。史上最低の支持率をたたき出した総理大臣、黒田啓介(中井貴一)が記憶を失くしたことから巻き起こるドタバタ・コメディ。秘書の助けを得て何とか公務をこなしていく中、真摯に周囲の人々や国民と向き合っていく黒田の姿を通し、今ある現実を打ち破るヒントを指し示す。

 誰もが何かしらの夢や希望や志を抱く。それらを実現すべく、己が人生を歩んでいく。かつて抱いた想いは今も健在だろうか。成し遂げることができただろうか。それとも、手放してしまっただろうか。もちろん、諦めることは決して悪いことではない。道の途中で別の何かに巡り会うこともある。高望みを捨て、身の丈に合った生き方を選んだ方が幸せな場合もある。人生のあり方は人それぞれ。ただ、思い描いた環境に身を置くことができていても、かつての想いに目をつぶり、目先の安寧にとらわれているということはないだろうか。むしろ、そんな人の方が世の中多いのではないだろうか。本作で目にするのは記憶喪失の総理大臣の姿であるけれど、その実、腐敗した世の中を、各々が立ち向かっていかなければならない問題を描いていたように思う。

 何かに本気で取り組めば、理想と現実のギャップに辟易することがある。そんな現実を変えようと息巻く人もいれば、虎視眈々と機会をうかがう人もいる。しかし、守らなければならないものが増えていけば、理想より現実を優先せざるを得ない状況にもなっていく。諦め、割り切り、妥協するのが当たり前になれば、腐敗した歯車の一端を担うようになっていく。黒田同様、一度記憶を失くすくらいのことが起きなければ、あらゆる執着を手放せない。かつての自分は取り戻せない。

detail_200701_photo04.jpg『記憶にございません!』7/18(土)よる8:00他
©2019フジテレビ 東宝

 人によっては程良く笑えるコメディで終わるかもしれないが、理不尽にあらがいながらも勝利の術を見出せずにいる者ならば、己が心を殺した末の今を生きる者ならば、突き刺さるものがきっとある。記憶喪失以外でどのように道を見いだすのか、観終えてもなお考え続けていかなくてはならないのだから。

detail_200701_photo05.jpg『記憶にございません!』
©2019フジテレビ 東宝


『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』('17)

 話題作への出演が続くティモシー・シャラメが、『君の名前で僕を呼んで』('17)でブレイクする以前に撮影した青春映画。父を亡くしふさぎ込んでいた、高校を卒業したばかりの主人公ダニエル(ティモシー・シャラメ)が、町一番の不良と友情を築き、その美しい妹に恋をするひと夏の時間を通し、子どもから大人へと変貌していく少年の心模様を映し出す。

 学生時代において一目置かれていた人物が、大人になって必ずしも大物になるとは限らない。狭いテリトリー内であったからこそ注目され、一番でいられたということがあると思う。慣れ親しんだテリトリーの外側へ一歩足を踏み出せば、無数の猛者が存在する。その事実を目の当たりにした上で、自分に合った生き方を見つけていくことが、大人になるということなのかもしれない。

 中には厳しい環境に身を置き、高みを目指して日々挑戦を続けていく者もいる。努力の果てに実を結ぶ者もいる。だが、ダニエルのように未知の世界でのし上がろうとする者もいる。妥協や後悔の念が一生付きまとうかもしれないが、限られたテリトリー内で、日々前を向いて生きていけるのであれば、それはそれで幸せなこと。どのように生きていくのかを今まさに決めあぐねている本作の若者たちの葛藤は、かつての自分を、かつての選択を思い起こさせるに違いない。

detail_200701_photo06.jpg『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』7/26(日)よる11:15他
©2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.

 10代の頃に抱いていた羨望、願望、欲望の類い。それらの想いとどう向き合い、どう決着をつけてきたのか。その上で、どのように今の自分が形成されたのか。ダニエルがたどる道筋には、人生における多くのことが詰まっている。

 自身の人間関係、未来への姿勢、歩んできた道程を振り返らせてくれる3作品とともに、7月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

detail_200701_photo07.jpg『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』
©2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.


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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。


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[放送情報]

よこがお
WOWOWシネマ 7/26(日)よる9:00
WOWOWプライム 7/31(金)深夜1:45
WOWOWシネマ 8/6(木)午後1:00

記憶にございません!
WOWOWシネマ 7/18(土)よる8:00
WOWOWプライム 7/19(日)午前10:15
WOWOWプライム 7/21(火)よる7:15
WOWOWシネマ 7/26(日)よる6:50
WOWOWプライム 8/8(土)午後0:45

HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ
WOWOWシネマ 7/26(日)よる11:15
WOWOWシネマ 8/3(月)午後1:30

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