「イニシエーション・ラブ」3/9(金)よる7:00
© 乾くるみ/「イニシエーション・ラブ」製作委員会
バブルと呼ばれていたのは1986年12月から1991年2月までの時期と言われる。この時期のことを改めて思い出すと「おかしい」としか言いようがない。企業も渋ることなく給金を出していたのもあり、残業をバンバンして働くことも当たり前。筆者も編集部に泊まりこむなんてしょっちゅうだった。そういったモーレツ仕事に対する反動も大きかったのか、驚くほどお金をバカバカ使っていた。今じゃ考えられないけれど、何度校了明けに編集長に"回らない寿司屋"に連れていってもらえたか。
バブル期が舞台の若者たちの恋愛話を描く『イニシエーション・ラブ』など、まさにバブル期の象徴のようなストーリーが展開する。特にこの映画における象徴的なシーンはクリスマス・イブの過ごし方。前田敦子演じるマユは、彼氏の鈴木(松田翔太)にロマンティックにイブを過ごしたいとねだるが、当時はマジで若いカップルならばイブはイタメシ(イタリア料理店)やフランス料理店でワインでも傾けながら食事し、その後ホテルで過ごすのが当然だった。そのホテルをゲットするために半年も前から予約をしていたのだ。誰も彼もがイブはいかにロマンティックに過ごすかに命をかけており、それができない一人者などを励ます(笑い飛ばす?)ために『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』が(1990年から)スタートしたのだから。ちなみにイブとは限らないが、大学生がサークルなどでスイートルームを借り切り、大騒ぎすることもしばしばあった。
マユが海に行くのに食い込みの激しいハイレグ水着を購入するが、これも当時は当たり前の話。女性が性に開放的になり始めた時代でもあり、女性誌でセックス特集がやたらと組まれるようになった。
とにかくバブル期は金だけは山のようにあるし、まだセクハラ&パワハラの言葉もなく、会社で盛大な飲み会が行われることがよくあった。『イニシエーション・ラブ』でも上司が「俺の酒が飲めねぇのか?」と飲みを強要するシーンがあるが、これも珍しい光景ではなかった。
タイムマシンはドラム式』でも、そんな時代ならではの光景がてんこ盛り。
一番印象深いのは男たちが一万円札をヒラヒラさせながらタクシー待ちしている光景。当時は金曜日・土曜日などは夜遊びしている人が多すぎて、六本木や渋谷では夜中2時〜3時まで本当にタクシーが停まらず、一万円を手にタクシーを止めようとするやからが多数出没。またタクシー側も乗る人をチョイスする運転手が多かった。ボディコン・ファッションでキメてディスコで乱痴気騒ぎを起こすのも当たり前だった。特に六本木界隈では多くのディスコが立ち並び、イケてないファッションをしていると追い返されるなんてことも。"ジュリ扇"と呼ばれた羽根つき扇を振りながらお立ち台で踊りまくる「ジュリアナ東京」というディスコは、バブルの象徴でもあるし、その終結の象徴でもあったと思う。女性が男性を、車でどこでも連れていってくれる「アッシー君」、プレゼントをいろいろくれる「ミツグ君」と呼んで、用事別に分けてつきあうことが話題になっていた。
確かにお金はあったけれども、その半面、他人を敬うとか、自分以外の人に目を向けるといった行為が極端に失われたのもバブルという時代だったように思う。『バブルへGO!!』はそんなバブル時代に現代娘が行くことでカルチャーギャップをとっかかりにしつつ、簡単にお金が稼げる恐ろしさと人格崩壊を笑いのなかで見せたし、『イニシエーション・ラブ』の劇中では、登場人物が二股も当たり前のように横行したドラマを平然と眺めていた。この2本の映画を観てあなたはどう思うだろう? お金がもたらす狂気の時代をじっくり堪能してほしい。
文=横森文
「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」3/10(土)午前9:30
©フジテレビジョン/電通/東宝/小学館
[放送情報]
『イニシエーション・ラブ』
WOWOWシネマ 3/9(金)よる7:00
『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』
WOWOWシネマ 3/10(土)午前9:30 ほか
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