「夜は短し歩けよ乙女」4/8(日)午前9:00
アニメや洋画の吹き替えで良くも悪くも話題になるのが、声のキャスティング。ことに本業が声優ではないタレントやお笑い芸人の起用は、何かと物議を醸しがちです。ですがその一方で、声優ではないキャストならではの魅力を武器にしているアニメ監督も存在しています。湯浅政明です。この湯浅監督という人は、勢いのある描線や融通無碍な色使いで、独特の世界観を確立しているアニメ作家。それだけに、ボイス・キャストの選定も型破りで、恐らくは宮崎駿監督と並んで、最も意識的に「声優以外の声」を用いる監督と言えるでしょう。
©2004 MIND GAME Project
その最大の理由は、今田の声に芸人ならではのトボケた味があること。この物語はちょっと不思議なファンタジーですから、主人公の演技が真に迫っていればいるほど、「鯨の腹の中に、じーさんがいるのに、そこはツッコまないの!?」と、かえって気になってしまうでしょう。その点、聞くだけで頬の緩む今田の声と芝居なら、「んなアホな!」と笑って流して、すんなり入り込めるという寸法。ボイス・キャストの価値は「上手さだけで測れるわけじゃない」という好例です。
©2017 ルー製作委員会
この作品では、主人公カイ役の声を務めた下田翔大に要注目。声の出演時にはカイと同じ14歳だったという子役タレントで、それだけに思春期ならではの不安定さが、そのまま声に宿っているかのようです。対するルー役は、『君の名は。』('16)でヒロインの妹役で声優経験もある、子役タレントの谷花音。13歳のみずみずしい声で、純真無垢なルーを好演しています。いずれも大人の女性声優が演じたのでは決して表現できない、「本物の声」の力を頼んだキャスティングと言えるでしょう。それだけに、クライマックスでカイの「声」が果たす役割と、そこに込められた気持ちの爆発には、胸を打たれること請け合いです。
またこの作品には、カイの祖父役で柄本明、町の若者役で漫才コンビ・千鳥の大悟とノブも出演。さらに頭がホオジロザメの人魚・ルーのパパ役は、なんとシドニーオリンピック柔道銀メダリストの篠原信一です! 唸り声のような台詞しか発しないのですが、それでも人の(?)よさや器の大きさを感じさせるのですから、こちらも演技力以前に「お人柄」の成せる技なのかもしれません。
©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会
この作品では、とにかく主人公の大学生の声を演じた星野源の演技に驚かされることでしょう。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』('16)の津崎平匡役でも有名な星野だけに、小理屈こねまわすばかりの序盤のヘタレっぷりから、騒動に巻き込まれる中盤の慌てぶり、クライマックスのちょっとだけカッコいいところまで、脇を固める実力派声優にもまったくひけを取っていません。適度に力の抜けたその声は、すっとんきょうで温かい森見&湯浅ワールドを、いっそう愛おしいものにしています。
また星野ほど目立たないものの、パンツ総番長なる人物の声を担当しているお笑いトリオ・ロバートの秋山竜次も実にお見事! ドラマ『黒い十人の秋山』('17)でひとり10役をこなした経歴はダテではなく、お笑い芸人だとは気付かないほど自然な演技を披露しています。「声優じゃなくても演技が上手ければOK!」を地で行くキャスティングの妙を、ぜひ確かめてみてください。
文=岡島正晃
特集:天才アニメーション作家 湯浅政明
ダイナミックにしてエキセントリック、アニメでなければ表現できない世界を描く天才アニメーション作家・湯浅政明を特集。「夜明け告げるルーのうた」など3本を放送。
[放送情報]
『夜は短し歩けよ乙女』
WOWOWプライム 4/8(日)午前9:00 ほか
『マインド・ゲーム』
WOWOWシネマ 4/17(火)午前11:15
『夜明け告げるルーのうた』
WOWOWシネマ 4/19(木)午前11:15
最新記事
-
2020/07/24 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第17回『あの日のオルガン』
-
2020/07/21 up
メガヒット劇場
私たちがホアキン・フェニックス版『ジョーカー』に共鳴する理由、あるいは"プロト・ジョーカー"説
-
2020/07/17 up
ミヤザキタケルの『シネマ・マリアージュ』
第17回 ありのままの自分であるために。時代を超えて描かれる人間の孤独
-
2020/07/14 up
その他
日本映画界の頂点に立った、韓国人女優シム・ウンギョンとは
-
2020/07/10 up
スピードワゴン小沢一敬の『このセリフに心撃ち抜かれちゃいました』
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第18回の名セリフは「謝るなんてな、ほんのちょっとの辛抱だよ」
-
2020/07/08 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第16回『記憶にございません!』