2018/04/04 up

『愚行録』の石川慶監督が「自分が映画化したかった」作品とは?

2017年の『愚行録』で鮮烈な長編映画デビューを飾った石川慶監督にとって、3月18日からスタートした、妻夫木聡主演の『連続ドラマW イノセント・デイズ』は初の連続ドラマとなる。『愚行録』でも主演を務めた妻夫木の、たっての希望で実現したものだ。

 「『イノセント・デイズ』の原作者である早見和真さんは、妻夫木さんが主演した『ぼくたちの家族』も書かれていて、お2人はそれ以来のお付き合い。『イノセント・デイズ』はさらに、妻夫木さんが『早見さんの小説の中で一番好き。いつかドラマでじっくり演じたいと思っていた』という作品。それほど思い入れのある企画で僕の名前を挙げてもらったのは、本当に光栄だしありがたいことです。ドラマが初めての僕に対し『石川さんがやりやすいようにやってください。できる限りバックアップします』と言ってくれたことも心強かったし、実際にいろいろ助けてもいただきました。撮影に入る前に妻夫木さんと確認したのは、いわゆる通常のドラマの固定概念に縛られないこと。例えば解決しないものは無理に解決しなくてもいいし、あるいはすべてつじつまを合わせてクリアに提示しなくてもいい。エンターテインメントとして面白いのは当然として、見終わった後にすぐに忘れてしまうものではなく、視聴者の心を引っ掻くような作品にしたかった。それを受けて僕も、映画とドラマの違いをあまり意識することなく、自由に撮ることができました」

 監督、主演俳優として2作目のタッグとなった妻夫木の魅力を、石川監督は「他の役者とは明らかに違う空気感」と表現する。

 「妻夫木さんは芝居がうまいとか頭がいい、勘がいいとかのレベルを超えて、空気を作れる稀有な役者です。自分を前面に押し出すのではなく、相手の芝居をちゃんと受けて感情を作っていく。だから共演している他の役者さんの芝居も一緒に引き上げてくれる。それは撮影現場でも同様で、妻夫木さんがいるだけでその場の雰囲気が変わる。作品に真摯に向き合う姿勢と存在感は、今回も際立っていました」

 竹内結子演じる田中幸乃が、法廷で死刑判決を受けるシーンで幕を開ける『イノセント・デイズ』。彼女の幼馴染で無実を信じる男の葛藤をメインに、物語は現在と過去を行き来し、多くの謎をはらみながら進行していく。

 「見どころは俳優陣の演技だと自信を持って言い切れます。これだけ多彩な役者が出ていると、正直、何かしらのほころびが出るものですが(笑)、この作品は誰をとっても文句なしにすばらしい。反面、彼らすべてを立たせようとすると尺が長くなってしまい、編集で切るのも大いに悩みました。もう一点、田中幸乃という一人の女性がどんな運命をたどるのかも注目してください。もちろん現場では計算の上での演出でしたが、編集で改めて発見することも多々あったんです。彼女が過酷な人生の中でいかに変貌し、どんな結末を迎えるのか、自分も視聴者目線に立ちながらの編集作業でした」

 劇場でホラーを見ない以外、普段はノンジャンルで映画を楽しんでいるという石川監督。WOWOWの放送ラインナップからは、注目作品としてマーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』を挙げた。

 「遠藤周作さんの原作は、チャンスがあれば自分で挑戦したいと思っていました。それだけにちょっと残念な思いを抱きながらの鑑賞でしたが、冒頭の2、3分で『完全に参りました』状態(笑)。この映画はかなり前から企画が動いていたのに、大巨匠のスコセッシですら映画化への道のりは険しかった。そういう意味では『映画ってそんなに簡単に作れるものじゃないんだ』と、逆に勇気をもらえたような気がします」

detail_180404_photo02.jpg©2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

 『愚行録』『イノセント・デイズ』とミステリー色が強い作品が続いた石川監督だが、本人の創作意欲は別の分野にも向かっているようだ。

 「作家ではとりわけ安部公房さんが大好きなので、将来的にはそういった映画も撮れたらと思っています。あとは邦画ではなかなか成立が難しいSF。最近ではドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』が出色でしたが、テッド・チャンの原作短編は僕もいつの日か映画化したいと密かに思い描いていたもの(笑)。音楽を担当した(故)ヨハン・ヨハンソンも好きで、実をいえば『イノセント・デイズ』では窪田ミナさんに彼のような曲をリクエストしたんですよ」

取材・文=佐々木優
撮影=神保達也

『イノセント・デイズ』妻夫木聡インタビュー

「回を増すごとに新しい事実とか思惑が広がり、育っていくドラマです」

――『イノセント・デイズ』の原作を読まれて、妻夫木さんご自身が出演したい、映像化したいと思ったきっかけは何だったんですか?
「原作者の早見さんとは『ぼくたちの家族』という映画以来仲良くさせていただいていますが、早見さんが書く小説は毎回テイストが違っていて、その中でも『イノセント・デイズ』というのは幸せの尺度というか、生きていることだけが全てではないという、当たり前に思っていることを根底から覆してくれるような本でしたので、そういうところがすごく胸に刺さりまして...。この作品に携わるなら映画でなくドラマでしっかりと時間を描いていけたらいいなと考え、映像化したいなと思いました」

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――石川監督の演出方法などで感じるところは?
「石川監督の信じられるところというのは、石川監督の中ではっきりと答えがあることですね。ちょっと違うだけでNGになってしまうし、段取りやテストも長い方ではありますが、それくらいすごく物事の一つ一つを繊細に見ています。表現しづらいのですが、ドラマや映画の制作は温度が高い方が多いと思いますが、石川監督は、温度が比較的低い方なんです。その中にポッと炎がつく瞬間があり、演じていてもそうだし、見たときにドキッとさせられるものがあり、繊細に人間の感情の起伏を捉えてるんでしょうね」

――この作品の見どころをお願いします。
「現代のドラマは1話完結のものが多くなっていますが、やはり次も見たくなるドラマが作りたいと、今回このドラマに携わらせていただいています。どんどん視点が変わっていくことによって、登場人物の発する匂いやトーンが変わっていくと思います。それが見どころです。人間の価値観や考え方を覆せるんじゃないかなと思います。回を増すごとに新しい事実とか思惑が広がっていきますので、育っていくドラマだと。そういう中、どういうラストを迎えるのか僕にもわからないですが、そこから生まれるものがあると思うので、最後まで楽しみにしていてもらいたいです。あと、舞台が横浜ということで、僕自身、横浜出身なので、嬉しいですしそういう匂いは出せているのかなと思います」


[放送情報]

「連続ドラマW イノセント・デイズ」
WOWOWプライム 毎週日曜 よる10:00(全6回)

「沈黙―サイレンス―(2016)」
WOWOWライブ 字幕版 3/31(土)よる8:00ほか

「メッセージ(2016)」
WOWOWシネマ 字幕版 3/30(金)午前10:15ほか

「メッセージ(2016)」
WOWOWライブ 吹替版 4/7(土)よる11:00ほか

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