英国俳優たちの世界的活躍は今に始まったことではないが、彼らの多くに共通している魅力は、舞台などで鍛え上げられた多彩な演技力や、アメリカ俳優とはどこか一味違う屈折感や、そこはかとないノーブル(高貴)な雰囲気。そしてもう一つ意外な共通点がある。それは探偵や刑事、スパイに扮した代表作を持っていることだ。
世界的に有名な探偵キャラといえば、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロ。彼らはともに英国の作家が作り上げた探偵で(厳密にいえばポワロはベルギー人でイギリスには移住したという設定)、その映画化作品では当然のごとく英国俳優が躍動してきた。シャーロック・ホームズ役はこれまで多数の俳優が演じてきたが、近年、何といっても印象深いのは、TVシリーズ『SHERLOCK/シャーロック』のベネディクト・カンバーバッチだ。世間から浮いたクセ者的なキャラが、カンバーバッチ本人の個性と絶妙にマッチ。彼の人気を決定づける役となった。さらに相棒ワトソンを演じたマーティン・フリーマンに、この作品で虜になった人も多い。
映画『シャーロック・ホームズ』ではホームズ役をアメリカ人のロバート・ダウニー・ジュニアが演じ、ワトソン役は英国出身のジュード・ロウが妙演している一方で、エルキュール・ポワロ役にはアルバート・フィニー、ピーター・ユスティノフ、ケネス・ブラナーといった歴代の英国の名優たちがチャレンジ。TVシリーズ『名探偵ポワロ』のデヴィッド・スーシェは24年にもわたって演じ続け、生涯の当たり役にもなっている。基本的に原作でポワロが活躍するのは中年期以降なので若手俳優が起用されることはないが、どこか屈折も抱え、シニカルな視点も持ち味のこの探偵は、英国の機知を熟知した俳優にうってつけなのである。
探偵と同じ"捜査"が仕事ながら、ひそかな諜報活動や肉体能力も要求される"スパイ"という役では、何と言っても『007』の伝統がある。これまで主人公のジェームズ・ボンドを演じてきたショーン・コネリーをはじめとする俳優6人のうち5人が、アイルランドとスコットランドも含めた「英国圏」出身者だ。現在のボンドを演じるダニエル・クレイグも、この役がなければここまで世界的にブレイクしなかったかもしれない。『007』ではQ役のベン・ウィショーのように、ボンドのサポート役で個性を発揮する英国俳優にも注目が集まる。
スパイ役がスターへの登竜門になった俳優といえば、『キングスマン』のタロン・エガートンが最近の好例。諜報機関の新人エグジーとして苦闘する姿が、俳優としてのブレイク&成長と重なった。同作は、コリン・ファースやマーク・ストロングらベテラン陣の再ブレイクにもなったうえに、かつて映画『国際諜報局』でハリー・パーマーという"サラリーマン"スパイ役でスター街道が開けたマイケル・ケインも出演し、英国スパイ映画の集大成の趣も感じさせる。
前述のベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングに加え、ゲイリー・オールドマン、トム・ハーディらが共演した『裏切りのサーカス』のようなシリアス系スパイものも数多く、探偵&スパイ映画と、確かな演技力を身につけた英国俳優の相性は非常に良好だ。トム・ハーディの知名度を一気に高めたのは『インセプション』での産業スパイ役だった。
ゲイリー・オールドマンは『レオン』の悪徳刑事役でスターの座を確立した。刑事役で言うと、英国俳優イドリス・エルバがTVシリーズ『刑事ジョン・ルーサー』で演じるロンドン警察の警部役が大評判。その流れを継いで次なる特大ブレイクを狙うのが、『刑事モース~オックスフォードの事件簿~』のショーン・エヴァンスだ。彼がその若き日を演じる本作は、英国では「好きな探偵」の投票で第1位になるなど、シャーロック・ホームズと並ぶ人気を誇っている。原作では中年の警部として描かれ、過去にTVドラマ化されているが、エヴァンスが扮するのはモースの新米刑事時代。犯罪の捜査では類いまれな才能を発揮するが、私生活では人付き合いが苦手であるなど、そのギャップに"萌え"させるのは、ホームズや『007』のQらと通じるものがある。英国探偵&スパイの魅力が存分に詰まったモース役で、ショーン・エヴァンスがどこまで人気を伸ばすのか。その動向に注目したい。
文=斉藤博昭
◆ベネディクトも入賞の英国男優総選挙
SCREEN×シネフィルWOWOW主催の、英国男優人気ナンバーワンを決める〈英国男優総選挙2017〉では、コリン・ファースに続いてベネディクトが昨年度の2位を受賞。「こころに響く声」「眼力・眼差し」「表情・表現力」など、5部門中4部門で上位入賞し、その魅力が改めて明らかになった。
今年開催となる〈英国男優総選挙2018〉では、現在投票を受け付け中。締切の9月24日までに応募すると、抽選で豪華商品がプレゼント! ブリティッシュヒルズ宿泊券が2組4名に当たるほか、Amazonギフト券 3000円分が20名に、「刑事モース~オックスフォード事件簿~」オリジナルクオカード 500円分が50名にそれぞれ贈られる。また、〈英国男優総選挙2018〉の結果発表号となるSCREEN12月号が5名にプレゼントされる予定。
こちらの特設ページから、お気に入りの英国男優にぜひ熱い一票を!
最新記事
-
2020/07/24 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第17回『あの日のオルガン』
-
2020/07/21 up
メガヒット劇場
私たちがホアキン・フェニックス版『ジョーカー』に共鳴する理由、あるいは"プロト・ジョーカー"説
-
2020/07/17 up
ミヤザキタケルの『シネマ・マリアージュ』
第17回 ありのままの自分であるために。時代を超えて描かれる人間の孤独
-
2020/07/14 up
その他
日本映画界の頂点に立った、韓国人女優シム・ウンギョンとは
-
2020/07/10 up
スピードワゴン小沢一敬の『このセリフに心撃ち抜かれちゃいました』
スピードワゴン小沢一敬が「最高にシビれる映画の名セリフ」を紹介! 第18回の名セリフは「謝るなんてな、ほんのちょっとの辛抱だよ」
-
2020/07/08 up
山崎ナオコーラの『映画マニアは、あきらめました!』
第16回『記憶にございません!』