「新感染 ファイナル・エクスプレス」8/19(日)よる9:00ほか
2016年に韓国で大ヒットし、スピードとスリルと感動を兼ね備えたゾンビ映画として世界中を震撼させた『新感染 ファイナル・エクスプレス』がWOWOWで放送される。ひと昔前までゾンビ映画は、ホラーファンが大好きなカルトなジャンルとされていた。しかし『新感染~』は"カルト"という言葉が似合わない王道のアクション・エンターテインメント。今やハリウッドでも日本でも、老若男女を楽しませる全方位型のゾンビ映画が次々と誕生しているのである。
ゾンビ映画における"ゾンビ"を定義するのは簡単ではないが、何かしらの理由でよみがえった死者が"ゾンビ"であり、ゾンビに襲われた人間もウイルスに感染したかのようにゾンビ化する――という基本はほぼ全ての映画に当てはまる。ゾンビ映画界のゴッドファーザーと呼ぶべきジョージ・A・ロメロ監督が1968年に発表した『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』を起源として、細かいルールが改訂されながらも脈々と続いてきたジャンルなのだ。
そのロメロ監督が眉をしかめたのが、今では主流となっている"走るゾンビ"の台頭。ゾンビ的な存在が走る映画は80年代から存在したのだが、大きな転換点となったのはダニー・ボイル監督の『28日後...』('02)。この映画は人間を凶暴化させるウイルスの恐怖を描いているので、厳密にはゾンビ=よみがえった死者とは違うが、外見的にはどう見てもゾンビ化した人たちが全力疾走で走ってくることで、ジャンルにスピード感という新要素をもたらしたのだ。
そしてロメロのゾンビ映画第2作『ゾンビ』('78)をリメイクした『ドーン・オブ・ザ・デッド』('04)では、紛うことなきゾンビたちがガシガシ走るようになった。ロメロ御大は「死んでるんだから走るなんておかしい」と不満を述べていたが、実はロメロ監督の『ゾンビ』にも、一瞬だが走る子どもゾンビが登場している。そのことを指摘すると「本当だ! あいつらは若いからな!」と楽しそうに笑っていたので、さほど深刻な不満ではなかったのかも知れないが。
2013年にはブラッド・ピットのプロデュース兼主演によるゾンビ映画史上最大の超大作『ワールド・ウォーZ』が登場。ゾンビの大群がアリの群れのように行動し、ゾンビにゾンビが折り重なって巨大な壁をも登ってしまうスペクタクル映像が強烈だ。集団として折り重なるゾンビのイメージは『新感染~』にも受け継がれている。そして同じ年には『ロミオとジュリエット』をベースに、イケメンゾンビ青年と美少女のラブストーリーというデートにもピッタリの異色作『ウォーム・ボディーズ』も公開されている。
ゾンビ映画のメジャー化は日本でも促進されており、『アイアムアヒーロー』('15)はカー・チェイスから銃撃戦までハイテンションなアクション・シーンがテンコ盛りのパニック映画として人気を博した。そしていまちまたで話題沸騰中なのが、製作費わずか300万円という超低予算作品ながら、2018年映画界の大事件と呼ぶべき『カメラを止めるな!』。長編映画は初めての新人監督とほぼ無名のキャスト、そしてわずかな公開館数で始まったにもかかわらず、口コミが口コミを呼んで満席に次ぐ満席となり、なんと全国100スクリーン以上に公開が拡大されたのだ。
『カメラを止めるな!』に関してはゾンビ映画のエッセンスを持った爆笑コメディという以上の説明はネタバレになってしまうので、世間の大盛り上がりに乗り遅れる前に映画館に駆け付けるべし!とだけ言っておきたい。
文=村山章
[放送情報]
新感染 ファイナル・エクスプレス
WOWOWシネマ 8/19(日)よる9:00ほか
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