「グレイテスト・ショーマン」11/17(土)よる8:00ほか
総合芸術といわれる映画において音楽の果たす役割は大きい。音楽を最も有効に使っている映画はミュージカルともいえるだろう。近年のミュージカル映画には一つの傾向がある。かつてはミュージカル俳優以外、例えば『マイ・フェア・レディ』('64)のオードリー・ヘップバーンや『シェルブールの雨傘』('63)のカトリーヌ・ドヌーヴらの歌は歌手が吹き替えるケースが多かったが、近年は俳優自身が歌うことが多くなっている。そんな"歌えるスターたちで魅せる"ミュージカルを楽しもう。
アクション俳優のイメージが強いが、『レ・ミゼラブル』('12)で美声を披露しファンを驚かせたのがヒュー・ジャックマン。しかも耳に超小型のイヤホンを装着し、現場で実際に歌いながら演技していたというから驚きだ。彼が歌ばかりか、華麗なダンスまで見せるのが『グレイテスト・ショーマン』('17)。ヒューが演じるのは19世紀に実在した興行師P・T・バーナム。何をやってもうまくいかないバーナムは娘の一言をヒントに、ヒゲの生えた巨体の女性や大男に小人など、社会の陰でひっそりと生きてきた人々を集めてショーを始める。世間からは非難されながらも大成功を収めるが...。
冒頭のサーカスのようなミュージカル・シーンから映画の世界に引き込まれていくこと間違いなしで、社会的弱者である団員たちが「これが私たち」と自信を込めて歌う「This is Me」は感動的。楽曲は、新しいミュージカルの形を見せてくれたアカデミー賞受賞作『ラ・ラ・ランド』のベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのコンビなので、見終わった後についつい口ずさんでしまうかも。
ところで見事な歌とダンスを見せるヒュー・ジャックマンだが、実は映画俳優として有名になる前から『サンセット大通り』などのミュージカル舞台に出演しており、2004年には『ザ・ボーイ・フロム・オズ』で演劇界最高の賞であるトニー賞ミュージカル主演男優賞を受賞しているほど! しかも『グレイテスト・ショーマン』の撮影が行なわれたのは、ヒューが鼻にできた皮膚がんの切除手術で80針を縫った直後だった。激しい動きをすると傷口が開いて、最悪の場合は命に関わる状態にもかかわらず、俳優魂で演じ切ったのだという。そのことを知って観ると、さらにヒューのスゴさが分かるかもしれません。彼もまたグレイテスト・ショーマン!
© Warner Bros. Entertainment Inc.
同じショー・ビジネスでもロックの世界を舞台にしたミュージカルが『ロック・オブ・エイジズ』('12)。2006年から上演され、2009年にはブロードウェイに進出するほど大人気となったロック・ミュージカルの映画化。ロック・スターに憧れる青年と歌手を目指す女の子の夢と挫折を80年代のロックの名曲に乗せて、時にコミカルに見せる。本作で落ちぶれていくロック・スターを演じているのがあのトム・クルーズ。どんな役でも徹底的に取り組むことで知られるトムだけに、撮影前の5週間、毎日5時間もの歌の特訓をして4オクターヴ出せるようになり、弾いたこともなかったギターも習得し、完璧なロック・スターを演じてみせた。その本物ぶりは映画でご確認を! 元スキッド・ロウのセバスチャン・バック、エクストリームのヌーノ・ベッテンコート、REOスピードワゴンのケヴィン・クローニン、アイドル歌手デビー・ギブソンがカメオ出演していたり、いろんなシーンが80年代ロックのミュージック・ビデオのパロディやオマージュになっていたりするので、ロック・ファンなら探してみるのも楽しいかも!?
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さらにもう1本、ショー・ビジネスを舞台にしたミュージカル『プロデューサーズ』('05)がある。かつてはブロードウェイで大ヒット作を連発したプロデューサーだったが、今ではすっかり過去の人となったマックスは、会計士レオと史上最低のミュージカルをわざと失敗させて、出資金をだまし取ろうと企む。この作品は元々『ブレージングサドル』('74)や『ヤング・フランケンシュタイン』('74)などのコメディで知られるメル・ブルックスが1968年に撮った非ミュージカルだったが、2002年にブロードウェイ・ミュージカルとして大ヒットした作品を、舞台と同じ演出家と主要キャストで映画化したもの。本作では『キル・ビル』('03)などで知られるユマ・サーマンが、売り込みに来るちょっとおバカな女優志望のスウェーデン女性を演じていて、ユマも特訓を受けてキュートな歌声を聴かせる。ここで気になるのが史上最低のミュージカルとはどんなミュージカルなのか? それはナチ崇拝者が書いた『春の日のヒトラー』というミュージカルで、ナチを賛美することで失敗を見込んだのに、ゲイがヒトラーを演じたためにナチ風刺のミュージカルと勘違いされ大ヒットに! さあ、2人のプロデューサーはどうする!?
映画ファンの中にはロバートのようにミュージカルが苦手という方がいる。いわく「突然、歌い出すのが気持ち悪い」とか「死にそうな状況でハモってしまうなんてあり得ない」とか。ごもっともである。恋人と話していて突然歌い出されたら、きっと別れを考えるに違いない。そこでこう考えてみてはいかがだろうか。ミュージカルにおける歌とは普通の映画にあるモノローグ、つまり"心の声"や"心象表現"なのだと。そう考えれば歌も自然に聴こえてきて、ミュージカルって本当は楽しい映画なのだと分かるかも。この3本はそんな気にさせてくれるはず。
文=竹之内円
[放送情報]
ロック・オブ・エイジズ
WOWOWシネマ 11/17(土)午前11:30
プロデューサーズ(2005)
WOWOWシネマ 11/17(土)午後3:25
グレイテスト・ショーマン
WOWOWシネマ 11/17(土)よる8:00ほか
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