2019/07/01 up

7月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」7/28(日) よる9:00他

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

文=ミヤザキタケル


『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』('17)

 今月は実話、漫画、小説、それぞれ作品のベースが異なる3本を紹介します。

 まずは、アジア各国でヒットし話題となったタイ映画。中国で実際に起きた集団不正入試事件をモチーフに、天才的な頭脳を持つ女子高校生と、その仲間たちが世界規模の統一入試で行なう大胆で奇抜なカンニング作戦を通し、多くの過ちを糧に変えて生きていく人間の姿を描いた作品です。

detail_190701_photo02.jpg『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
©GDH 559 CO., LTD. All Rights Reserved.

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 良い大学に入って、良い職業に就く。それはとても大事なことだし堅実な道。かといって、すべての人がその道を選ぶわけじゃない。人それぞれに選択肢があって、幸せの定義も当然異なる。が、それはある程度裕福な日本だからこそ言えること。時折ニュースなどで見掛けると思うが、アジア圏の受験戦争は熾烈を極める。良い大学を出たかどうかで、その後の人生が大きく変わる。実話ベースの本作の下地には、競争社会で生きていかなければならない者たちのシビアな現実がある。誰だって正しくありたい。でも、正しさだけでは到底太刀打ちできないこともある。世の中はいつだって不公平で理不尽なことばかり。いっそ正しさなんて手放してしまった方がラクなのかもしれない。だが、一度手放したが最後、そうカンタンには戻ってこなくなる。

 持って生まれたモノも育ってきた環境も違うのだから他人と優劣が生じるのは仕方がない。秀でた何かを持つ者にはアドバンテージがあるため、持たざる者がスタートダッシュで出遅れるのも必然。人一倍努力しなければ、持つ者たちと対等のステージにはまず立てない。ただ、はい上がろうとする者には、必ずチャンスが降り注ぐ。きれい事かもしれないが、道が断たれてもリスク承知で別ルートを模索し、間違えて、気が付いて、次第に心の在り方を研ぎ澄ましていく主人公の女子高校生の姿がその可能性を示してくれる。やり直しはきかないし、取り返しのつかないこともあるけれど、本当に大事なことが垣間見えてくる。本来あしき行為であるはずのカンニングが、スタイリッシュかつ道を切り開くための行為として描かれる面白さ、実話ベースであるという重みが、あなたの心を作品世界へと引きずり込みます。


『響-HIBIKI-』('18)

 続いて紹介するのは、現在も連載中の柳本光晴の漫画「響 ~小説家になる方法~」の実写化作品。類まれなる小説の才能と融通の利かない性格を併せ持つ女子高校生、鮎喰響(平手友梨奈)の姿を通し、大人になればなるほどに手放してしまいがちな"強さ"を描いた作品です。

detail_190701_photo03.jpg『響-HIBIKI-』7/20(土)よる10:00他
©2018 映画「響-HIBIKI-」製作委員会 ©柳本光晴/小学館

 誰もが皆、かつてはとがっていた。親に叱られ、学校や社会に身を置くことで、物事の分別がつくようになり、次第に削られ丸みを帯びていく。読む必要のない空気を読み、楽しくもないのに笑い、しょうもないモラルを重んじ、己の心を殺した方が物事が円滑に進むことを知っていく。その結果、何が本当に大切なのかを見誤るようになる。でも、響は違う。群れない、こびない、折れない、曲げない、躊躇しない。彼女は決して損得勘定では動かない。空気は読まず、他人のせいにせず、果たすべき責任を果たし、いついかなる時も白黒ハッキリつけたがる。誰もがそうありたかったはずなのに、いつの間にか手放してしまったモノを彼女は持ち続けている。常に全身全霊で目の前のことに向き合い、後悔なんてしちゃいない。そんな彼女の真っすぐさに心を奪われてしまうことだろう。

 過激に思える響の行動には、嘘も悪意もない。鋭くとがった言葉の刃は人の心を切り裂きもするが、心にまとわり付く腫瘍だけをきれいに取り除くこともできる。多くを切り捨てながらも殺すことなく活かしていく響の絶対的な強さは、決して独り善がりなモノなどではない。どうあがいても彼女のようにはなれないが、自分に欠けているモノが何なのか、何を取り除き何を取り戻せばより良き方向へと進めるのかが、わずかばかりだが見えてくる。ただのアイドル映画ではありません。むしろ、夢や自分自身との向き合い方をシビアに描いた激アツな作品です。

detail_190701_photo04.jpg『響-HIBIKI-』
©2018 映画「響-HIBIKI-」製作委員会 ©柳本光晴/小学館


『僕のワンダフル・ライフ』('17)

 最後に紹介するのは、W・ブルース・キャメロンのベストセラー小説「野良犬トビーの愛すべき転生」の映画化作品。生まれ変わりを繰り返す犬がかつての主人との再会を願う姿を通し、人間と犬の関係性、動物が人間に与えてくれるモノを描いた作品です。

 動物を飼った経験がある者ならば、きっと引き込まれてしまうはず。人間のような思考をして、命を繰り返す犬ベイリー。実際に彼らが何を考えて生きているかなんて誰にも分からないけれど、劇中のように僕たちのことを想っていてくれたのなら、飼い主と再会すべく命を繰り返していたのなら、本当に素敵なことだなと。また、劇中における命の法則が本当にあったとして、彼らに想ってもらえるだけの関係性を築けていたかどうかを問われることにもなると思う。

detail_190701_photo05.jpg『僕のワンダフル・ライフ』7/26(金)よる9:00他
© 2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

 動物に対して抱く想い。それは人間に対して抱く想いと何ら変わらない。命の重みは人間も動物も皆対等。であるにもかかわらず、僕たちはつい忘れてしまう。保健所にいる動物の価値は低く、ペットショップにいる動物に対してはより高い価値を見いだしがち。血統、種類、ルックスで判断し、命の重みはなかなか勘定には入らない。そりゃきれいでかわいい方が良いに決まっているが、それが殺処分されるか否かを決める理由になってしまうのはおかしい。人間だって家柄、職業、ルックスで判断されがちだが、さすがにそれで殺されたりはしない。が、僕たちは彼らにそれを平然と強いている。か弱き動物は、人間が定めたルールの中でしか生きられない。だから、ひとりひとりが自覚や責任を持つことでしか動物たちは救われない。ファンタジーの度合いが強いフィクションで、大いに泣ける感動作でありながら、彼らと向き合うために必要不可欠な戒めを突き付けてくれる作品でもあると思います。

detail_190701_photo06.jpg『僕のワンダフル・ライフ』
© 2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

 一見、ライトに見えて、実は深いテーマを内包する3作品と共に、今月も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。


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[放送情報]

バッド・ジーニアス 危険な天才たち
WOWOWシネマ 7/28(日)よる9:00
WOWOWプライム 7/31(水)よる6:00
WOWOWシネマ 8/8(木)午後3:45

響-HIBIKI-
WOWOWシネマ 7/20(土)よる10:00
WOWOWプライム 7/22(月)よる8:00
WOWOWシネマ 7/29(月)午後4:45
WOWOWシネマ 8/18(日)午前6:10

僕のワンダフル・ライフ
WOWOWシネマ 7/26(金)よる9:00
WOWOWプライム 7/31(水)よる8:15
WOWOWシネマ 8/5(木)午後3:00
WOWOWシネマ 8/11(水)午前6:15

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