「バスキア」9/10(火)よる7:00他
文=前田有一
芸術の秋、2019年も各地で魅惑的な美術展が開催・予定されている。2018年のフェルメールに続き、ゴッホ、クリムトそしてエゴン・シーレとそうそうたる名画が日本にやって来る。
こうした芸術作品は、ただ観るだけでもいいものだが、予備・周辺知識があればより深く味わえる。たとえば画家の伝記物などアート映画は、それ自体も面白い上に、個展の予習にもぴったりではなかろうか。
◆彗星のごとく現れたアーティスト
ジャン=ミシェル・バスキア
この秋最も話題を呼びそうなのが、日本初の大規模展が行われるジャン=ミシェル・バスキアだ。1980年代のニューヨークにさっそうと現れ、白人優位だった当時のアート・シーンに、有色人種(プエルトリコとハイチにルーツをもつ)として新たな地平を切り開いた。
『バスキア、10代最後のとき』
©2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved. LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan
街中の壁にスプレー・ペインティングでカラフルな絵を描き、独特の詩を添えた。そんな彼のアート、グラフィティは誰もが目にしたことがあると思うが、そこに込めた思いを知るには伝記作品『バスキア』('96)から観るのが良いと思う。
ジェフリー・ライト演じるバスキアはじめ、アンディ・ウォーホル役のデヴィッド・ボウイ、デニス・ホッパー、ゲーリー・オールドマン、クリストファー・ウォーケンなどなど、伝記物としては異例なほどに芸達者なスターが揃っており見応えがある。
『バスキア』
©2006 PONY CANYON INC.
ホームレス生活だったバスキアが、いかにアート・シーンに食い込み、栄光を手にし、そして27歳で薬物中毒死したのか。
ジュリアン・シュナーベル監督は本作の冒頭で、生涯貧困画家だったファン・ゴッホを、バスキアの生涯を運命づけた存在として示唆している。つまり、ゴッホを見出せなかったトラウマから、美術界がバスキアの運命に過剰に介入しすぎたこと、それこそが彼の悲劇につながったのではと解釈している。分かりやすいし、107分でバスキアの人生を俯瞰するにはとてもいい映画だ。
『バスキア』
©2006 PONY CANYON INC.
この後にドキュメンタリー『バスキア、10代最後のとき』('17)を観れば、多数のインタビュイーが矢継ぎ早に語る当時の裏話を、すんなり理解できるはずだ。アンディ・ウォーホルを街中で見かけて強引にポストカードを売りつけ、アート界に足がかりをつくった『バスキア』の名場面も、実話エピソードとして語られている。
『バスキア、10代最後のとき』
©2017 Hells Kitten Productions, LLC. All rights reserved. LICENSED by The Match Factory 2018 ALL RIGHTS RESERVED Licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan.
◆最も名の知れた画家のひとり
フィンセント・ファン・ゴッホ
ゴッホは19世紀後半に活躍したオランダの画家で、絵の具を塗り重ねた荒々しいタッチで日本でも人気が高い。圧倒的な作品の魅力に加え、謎めいた人生も興味の的となったから、彼をテーマとする映画は数多い。
古いものでは『炎の人ゴッホ』('56)。伝記小説を基にその生涯を描いた劇映画で、カーク・ダグラスが演じた情熱的かつ悲劇的なゴッホはその後のゴッホ像の基になったといわれている。
最近では、死の真相に迫るミステリー『ゴッホ 最期の手紙』('17)が、全編油絵によるアニメーションの唯一無二な芸術性で大きな話題となった。
今後の作品としては、先述した『バスキア』でゴッホとバスキアを対比させたジュリアン・シュナーベル監督による『永遠の門 ゴッホの見た未来』(19年11月8日公開)。収集者の視点でゴッホをとらえたドキュメンタリー『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』(10月25日公開)などが予定されている。
◆鮮やかな青色で人々の心を魅了する
ヨハネス・フェルメール
ゴッホの時代から遡ること約200年。同じオランダの画家で、現存する作品はわずか40点足らずながら、勝るとも劣らぬ人気を誇るのがフェルメールだ。
柔らかな光の表現と写実的な作風は現代人にとっても馴染みやすい。カメラの原型とされる光学装置で映し出した実景をトレースする製作法は、背景写真をパソコンで加工して仕上げる新海誠アニメにも通ずる先進性といえるかもしれない。
『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』9/8(日)よる10:00他
©2017 TULIP FEVER FILMS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
"フェルメール・ブルー"と呼ばれる独特の青色も特徴で、それは映画の中でも丁寧に再現されている。代表作の制作秘話『真珠の耳飾りの少女』('03)では、青いターバンを巻いた有名な絵画のヒロインを、まだ当時10代だったスカーレット・ヨハンソンが見事な再現度で好演。一躍その名を広めた。映画自体もフェルメール・タッチの映像美でうっとりさせられる。
もうひとつ、『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』('17)も外せない。フェルメールの絵から着想を得た小説を原作とする映画作品で、これも随所にフェルメール・ブルーをあしらい、この画家の世界観を映像に落とし込んだアート映画だ。大勢の子持ちだったフェルメール自身の人生を思わせる設定など、マニアにとっても見どころは多い。
『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』
©2017 TULIP FEVER FILMS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
豪商の跡継ぎを産むことを強いられたストレスで、若き画家と許されぬ恋に落ちる主人公の人妻を、アリシア・ヴィカンダーが演じる。スカヨハに引けを取らぬほど、まさにフェルメールの絵画の中にいても全く違和感のない、清楚ながら芯のありそうな魅力的な女性を表現している。
『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』
©2017 TULIP FEVER FILMS LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
◆装飾性豊かな世紀末芸術の代表格
グスタフ・クリムトとエゴン・シーレ
1890年以降の世紀末芸術を代表するアーティストであるクリムト、そしてエゴン・シーレにも関連映画がある。
『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』('18)は、2人の思想的背景から当時の社会情勢まで絡めて解説するドキュメンタリー。
伝記ドラマならジョン・マルコヴィッチ主演の『クリムト』('06)。女性モデルたちとの関係を中心に描いた『エゴン・シーレ 死と乙女』('16)が有名だ。
本当に良い絵を観た後は、世界までもが美しく見える。ここで紹介した映画たちが、その鑑賞の助けとなればと思う。
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文=前田有一
映画批評家 浅草出身。「日刊ゲンダイ」等マスメディアや、9200万ヒットWEB『前田有一の超映画批評』にて「批評エンタテイメント」を展開。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)
[放送情報]
バスキア
WOWOWシネマ 9/10(火)よる7:00
WOWOWシネマ 10/1(火)午前10:45
バスキア、10代最後のとき
WOWOWシネマ 9/9(月)よる7:15
WOWOWシネマ 10/11(金)午前8:15
チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛
WOWOWシネマ 9/8(日)よる10:00
WOWOWプライム 9/11(水)深夜1:00
WOWOWシネマ 9/18(水)深夜1:20
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