2019/09/27 up

第7回『若おかみは小学生!』

「若おかみは小学生!」10/4(金)よる9:00他

 山崎ナオコーラが映画をテーマに等身大でつづるエッセイ。第7回は、交通事故で両親を亡くし、温泉旅館を営む祖母のもとで暮らし始めた小学生の少女の奮闘と成長を綴る『若おかみは小学生!』を観る。

文=山崎ナオコーラ

 まさに、「子どもも大人も楽しめる」という映画だった。
『若おかみは小学生!』は、青い鳥文庫のシリーズの小学生向けノベルがアニメ映画化された作品だ。
 タイトルだけは知っている、という人が結構いるのではないかと思う。
 私も、書店で展開されているのをよく見かけていて、「へえ、最近はこういう本が子どもに人気なんだなあ」とぼんやり思っていた。とはいえ、自分はいい年をした大人だし、自分の子どもは3歳と0歳でまだ対象年齢ではないので、自分に関係する本とは思えず、いつも素通りしてしまっていた。

山崎ナオコーラさんの他のエッセイはこちら>

 それなのに、どうして今回この映画を観たのか?
 きっかけは、夫が「これ、観た方がいいんじゃないかな」と言ったからだ。どうやら、夫の知り合いの男性が「泣いた」らしい。私もその人に会ったことがあり、渋い雰囲気の「いい年の大人」の方だったから、子ども向けアニメ映画を観て「泣いた」というのが意外というか、面白く思えて、「じゃあ、私も観てみたい」となった。

 そうして、夫と3歳児と0歳児と共に映画を観始めた。
 私はファンタジックでユーモラスな作品を想像して鑑賞に臨んでいたので、のっけからシリアスなシーンになって、「あ」と思わず叫んだ。「死が描かれるんだ」「意外だね」と言い合って夫と顔を見合わせた。

 子ども向けの作品で、悲し過ぎるものは描かれないと思っていた。しかし、『若おかみは小学生!』は喪失感が日常の中にずっとあるのだ。ただ、その描き方は絶妙で、子どもに衝撃を与えるようなものではない。決して残酷ではなく、かと言って、死を軽く扱うのでもない。ただ、「小学生にも、こういうことは起きる。起きたことを受け入れて、生きていくのだ」ということが自然な形で描かれている。考えてみれば、身近な人が突然いなくなる、いなくなった人と向き合う、ということは、大人も子どももみんなが経験することなのだ。だから、隠さず、配慮して描けば、誰もが感動する映画になるわけだ。

 子どもを信頼して映画を作っているのだな、と私は思った。多くの子どもが喪失感を持っている、と、子どもたちは繊細な感情を読み取れる、と信じて、脚本を深く練り、キャラクターの表情を淡く丁寧に描く。
 たぶん、子どもは、サービスしてもらうことよりも、信頼してもらうことを喜ぶ。だから、観る人をバカにせず、感性を尊重して作品を作ることが一番重要なことになる。

detail_190927_photo02.jpg©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 おそらく、多くの子どもが『若おかみは小学生!』を観て感動するに違いない。

 そうして、私も泣いてしまった。

 なんで泣いたのだろう。なんというか、アニメのパワーだと思う。脚本の構成、キャラクターの動き方、絵の色、いろいろなものが合わさって、ぐっとくるシーンが生まれる。

 とくに、脚本が良い。小説はPART20まで出ていて、さらに特別編なども書かれているらしいし、子ども向けということもあり要素が豊富に違いなく、映画向けに短縮して構成し直すのは大変だっただろう。ストーリーとしては、『若おかみは小学生!』というタイトル通り、小学六年生の女の子である主人公のおっこが、祖母の経営する「春の屋旅館」という旅館に住むことになり、みんなに助けられながら若おかみとして成長していく......、というものだ。予想通りの話ではあるのだが、喪失感を受け入れていくところ、周囲の人たちとの関係の築き方、成長の過程......、といったものが、根拠のある表情や動きで描かれ、きちんと物語に乗って進んでいくので、観ているとラストに向かって気持ちが盛り上がる。

detail_190927_photo03.jpg©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 あと、ライバルの「ピンふり」という女の子のキャラクターがすごく良かった。好きにならずはいられない。登場したシーンから、あからさまなライバルキャラクターなので笑ってしまった。春の屋旅館よりずっと大きい秋好旅館の後継ぎで、いつもピンクのふりふりのドレスを着ていて、偉人の名言を引用しながら喋るという、いかにもなキャラクターだ。「でも、たぶん、最後には仲良くなるんだろうね」と予想すると、実際、その通りに進んでいくわけだが、登場する度に魅力が増し、物語を彩っていた。こういうライバルキャラクターは、私の子どもの頃の少女マンガや少女小説にも「お決まり」という形で登場していたものだが、今回、この映画を観て、しみじみ「いい関係だなあ」と感じた。

 私は、家族でこの映画を観たのだが、0歳児は生まれて10日の新生児で終始眠っており、3歳児も最初は面白がっていたが途中で眠ってしまい、もう少し大きくなってからの方が理解が進みそうだった。でも、おそらく、小学生以上ならみんな面白く観るだろう。70代、80代の人でも面白く感じるかもしれない。

 子ども向けのアニメを観る、ということに最初は気恥ずかしさがあったのだが、観終わってから、侮ってはいけないな、と反省した。これから、子ども向けの映画はもちろん、子ども向けの小説やアニメにももっと触れていきたい、と思った。

「映画マニアは、あきらめました!」の過去記事はこちらから
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  • 山崎ナオコーラ
    作家。
    著書に、小説「趣味で腹いっぱい」、エッセイ「文豪お墓まいり記」「ブスの自信の持ち方」など。
    目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。


[放送情報]

若おかみは小学生!
WOWOWシネマ 10/4(金)よる9:00
WOWOWシネマ 10/10(木)午前7:00
WOWOWシネマ 10/15(火)午後3:00


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