2019/10/15 up

映画初主演作『恋のしずく』に見る、女優・川栄李奈の輝き

「恋のしずく」10/24(木)よる7:00他

文=くれい響

 AKB48の"不動のセンター"前田敦子が映画界で活躍する一方、バラエティ番組で"センターバカ"と命名された川栄李奈が、ここまで女優の才能を開花させることを誰が想像できただろうか? WOWOWで初放送される彼女の初主演映画『恋のしずく』へと至る、"女優・川栄李奈"の魅力を改めて考察してみたい。

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 2010年にAKB48の研究生オーディションに合格し、後に正規メンバーに昇格。次世代センター候補のひとりではあったものの、そこまで濃いキャラではなかった川栄が、一躍注目を浴びたのが2013年に放送されたバラエティ番組「めちゃ×2イケてるッ!」の学力テスト企画だ。参加メンバー15人中、最下位となり、"BKA(バカ)48"のセンター="センターバカ"の称号が与えられ、その事実を受け入れられず「ウソだろうが‼」と叫ぶ川栄。瞬時に飛び出した逆ギレにも近い独特な言い回しは、彼女の女優人生を切り開いた一言だったのかもしれない。

 その翌年、ほかのAKB48メンバーとともにホラー・ドラマ「セーラーゾンビ」('14)で主演を務めた彼女は、宮藤官九郎脚本の学園ドラマ「ごめんね青春!」('14)に生徒役で単独出演。例の「ウソだろうが!」の調子で、男子生徒たちを罵倒し、黒島結菜や森川葵ら共演した若手女優たちにひけを取らない芝居を見せた。AKB48卒業直後に出演した'15年の舞台「AZUMI 幕末編」ではヒロインを熱演。初舞台にして、初座長。しかも、激しい殺陣もこなしたことで、「女優の川栄はどこか違う」という声が広まった。そして、NHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」('16)の富江やCM「au 三太郎シリーズ」の織姫など、いわゆる"ヒロインの親友キャラ"で、その存在はお茶の間にも浸透していった。

 そんなアクション女優&親友キャラの流れは、スクリーンの中でも踏襲される。桜井画門のコミックを本広克行監督が映画化した『亜人』('17)では、政府機関トップの秘書兼ボディーガードという、一見ミスマッチとも思える役ながら、タイトなスーツに身を包み、抜群の身体能力でハードなアクション・シーンもこなした。

detail_191015_photo02.jpg『亜人』10/19(土)午前6:35他
©2017 映画「亜人」製作委員会 ©桜井画門/講談社

 さらに、月川翔監督が幸田もも子の少女マンガを映画化した『センセイ君主』('18)では、浜辺美波演じるヒロインの良き相談相手といえる親友をコミカルに演じている。

 10月にWOWOWで放送されるこの2作からも、彼女の女優としての才能がうかがえると思うが、その本質は彼女の動物的感性だろう。以前、インタビュー取材をした際、「どの現場でも役を固めず、現場にいる共演者との空気で感じ取ったもので芝居する」と語っていたが、いわゆる瞬発力がある本番に強いタイプなのだろう。ちなみに、たとえ映画やドラマの現場を掛け持ちすることが多くなっても、セリフ覚えはいいとのこと。

detail_191015_photo03.jpg『センセイ君主』10/17(木)午後5:15他
©2018「センセイ君主」製作委員会 ©幸田もも子/集英社

 そんな川栄が満を持して、単独での映画初主演を務めたのが瀬木直貴監督の『恋のしずく』('18)である。日本三大銘醸地のひとつとして知られる広島県東広島市の西条を舞台にした本作で彼女が演じたのは、大学で醸造学を学び、ワイン・ソムリエを目指す"リケジョ"の詩織。単位取得に必要な実習先が自身の苦手な日本酒の酒蔵に決まり、嫌々西条にやってきた詩織と、やる気のない蔵元の息子や厳格な杜氏など、どこか一筋縄ではいかない町の人々との交流が描かれていく。

detail_191015_photo04.jpg『恋のしずく』
©2018 「恋のしずく」製作委員会

 詩織役について「あまりに普通のキャラすぎて、最初はどう演じていいか、よく分からなかった」とも語っていた川栄だが、その"普通さ"はこれまで演じてきた、親しみを感じさせる親友キャラの延長線上にあるともいえ、ゼロの状態から酒造りを学んでいく詩織の姿には、誰もが共感を覚えるはずだ。そんな見知らぬ土地で不安を抱える詩織を優しく見守り、指南する蔵元を演じているのが、今は亡き大杉漣。俳優の先輩後輩としての2人の関係性が、劇中で各々が演じるキャラクターとシンクロしていくのも、深い味わいを醸し出している。

 名曲をモチーフにしたヒューマンドラマ『Watch with Me -卒業写真-』('07)や、大分県宇佐市のご当地映画である『カラアゲ★USA』('14)などを手掛けてきた瀬木監督は、ヒロインの成長と恋、その地方の美しい風景や現状といった両作のテイストを巧く調合しながら、持ち前の丁寧な演出により、女優・川栄李奈の魅力を存分に引き出している。

 今年5月、2018年に出演の舞台「カレフォン」で共演した廣瀬智紀との結婚及び妊娠を発表。その直後に公開されたアニメ映画『きみと、波にのれたら』('19)で、亡き恋人と再会するヒロインを演じた彼女だが、目標とするのは大杉同様、名バイプレイヤーとして知られる光石研というのも、ちょっと興味深いところ。彼女が風俗嬢役を演じたドラマ「下北沢ダイハード」('17)での共演以来、役者としての引き出しの多さだけでなく、人間性にも憧れており、「30歳ぐらいに、自分の代表作といえる作品に出会いたい」とも語っていた。間違いなく彼女にとっての転機作となった『恋のしずく』は、今後その礎となっていく一作といえるだろう。

detail_191015_photo05.jpg『恋のしずく』 ©2018 「恋のしずく」製作委員会

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  • 文=くれい響
    1971年生まれ。TV番組制作、『映画秘宝』編集部を経て、映画評論家に。雑誌、ウェブ、劇場パンフレットなどに映画評やインタビュー記事を寄稿。

[放送情報]

恋のしずく
WOWOWシネマ 10/24(木)よる7:00
WOWOWプライム 11/28(木)午後3:00


亜人
WOWOWシネマ 10/19(土)午前6:35
WOWOWシネマ 10/28(月)午前10:30


センセイ君主
WOWOWシネマ 10/17(木)午後5:15
WOWOWシネマ 11/21(木)午後1:15

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