「君は月夜に光り輝く」1/4(土)よる11:15他
文=前田かおり
北村匠海、22歳。今、層が厚いといわれる20代前半の俳優たちの中でも、勢いあるひとりといってもいいだろう。その憂いを帯びた甘いマスクで魅せる繊細な演技が高く評価されているが、2019年はさらに新たな顔も覗かせた。
集団安楽死を望む子どもたちが心理戦を繰り広げる『十二人の死にたい子どもたち』('19)では、陰を感じさせるキャラクター、ノブオに扮し、視線の動きだけで物語の行方を混乱させていく。TVドラマ「グッドワイフ」('19)では、ちょっと生意気な若手弁護士を好演。アニメーション映画『HELLO WORLD』('19)と、現在公開中の『ぼくらの7日間戦争』('19)では、しっとりとした声質を活かし、キャラクターに命を吹き込んでいる。
彼の俳優としてのキャリアは小学校時代にスカウトされて始まった。2008年、映画デビューを飾った『DIVE!!』で池松壮亮演じる役の幼少期を演じたのを皮切りに、翌年、『重力ピエロ』('09)では岡田将生、『TAJOMARU』('09)では小栗旬、2013年、『陽だまりの彼女』では松本潤など、人気俳優たちの子ども時代を演じ、「あの少年は誰?」と注目された。彼自身が存在感を発揮し出したのは、2011年のTVドラマ「鈴木先生」から。土屋太鳳、松岡茉優といった今をときめく若手俳優たちを多数輩出した同作で、北村は一見、真面目だが、給食をめぐって厄介な事件を起こすなど何かと問題の多い出水正役で印象を残した。
その一方で、2011年からダンスロックバンド「DISH//」で音楽活動をスタート。ボーカルとギターを担当する北村は、2016年の『あやしい彼女』で、見事なギターテクを披露。同時に、白塗りメイクでヘヴィメタルを熱唱しお茶目な面も覗かせた。
そして北村匠海の名を世に知らしめた"キミスイ"こと『君の膵臓をたべたい』('17)。難病に冒されたヒロインのやりたい事に付き合う地味なクラスメートの"僕"を繊細に演じ切った北村。あまり感情を表に出さない"僕"の内に秘めた思いがあふれるシーンは、観客の涙を誘い、第41回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。
同年に公開された『勝手にふるえてろ』('17)では、好青年というイメージをガラリと変え、二面性あるイヤな男でヒロインの乙女心を一瞬にしてぶち壊す残酷な役どころに挑戦。TVドラマ「隣の家族は青く見える」('18)ではゲイの青年に成り切り、ホラー・ミステリーの『スマホを落としただけなのに』('18)ではわずか5秒のカメオ出演で不穏な後味を残したり...。
『春待つ僕ら』('18)では内気なヒロインの不安な思いを"頭ポンポン"で包み込むバスケ男子を演じて、世の女子たちの胸をキュンキュンさせている。
2020年1月4日、WOWOWで初放送される『君は月夜に光り輝く』('19)は、"キミスイ"を手掛けた月川翔監督と再びタッグを組んだ青春映画。北村は余命ゼロのヒロイン・まみず(永野芽郁)のやりたいことを代行する主人公・卓也を演じている。"キミスイ"と同じく、女子に頼まれると断れず、戸惑いながらも、次第に彼女の気持ちに寄り添っていく男子はハマり役だ。そして、"キミスイ"のヒロイン、桜良(浜辺美波)がそうだったように、"キミツキ"のヒロインまみずも、卓也と出会ったことで生命力が与えられ、生き生きとしてくる。
『君は月夜に光り輝く』
©2019「君は月夜に光り輝く」製作委員会
卓也に託された代行体験は絶叫マシンに乗ったり、海に出掛けるなどそれはごく普通の青春の一コマ。入院生活で友達はもちろん恋人も得られないまみずは卓也を通して青春のきらめきを感じ、生きている実感を得ることになる。北村はそんな卓也をナチュラルに演じて、誰にとっても宝物のような青春の日々を体現。本作を決してお涙チョーダイの映画には終わらせていないのだ。
2020年は新年早々、あの大ヒットドラマ「半沢直樹」のスペシャルドラマに出演。映画も『サヨナラまでの30分』('19)に『さくら』('20)、『思い、思われ、ふり、ふられ』('20)など主演作が目白押し。
次世代を担う俳優として今後、どう成長していくのか、ますます楽しみな若手俳優であることは間違いない。
『君は月夜に光り輝く』
©2019「君は月夜に光り輝く」製作委員会
文=前田かおり
映画、海外ドラマ・ライター。「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「SCREEN」ほか情報誌、WEBなどで執筆中。
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