「メアリーの総て」1/8(水)よる6:45他
映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。
今月は、伝記映画・小説が原作の人間ドラマ・アメコミ映画とタイプの異なる3本を紹介します。
文=ミヤザキタケル
ティム・バートン、ギレルモ・デル・トロらに絶大な影響を与えた小説「フランケンシュタイン」の著者メアリー・シェリーの半生を、エル・ファニング主演で映画化。10代にして後世に残る名作を生み出した女性の生き方を通し、夢と向き合うために必要なものを映し出した作品です。
『メアリーの総て』
© Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017
誰もが知る「フランケンシュタイン」。だが、その著者の素顔を知る者はどれくらいいるだろう。僕は本作に出会うまで著者が女性であることすら認識していなかった。今とは異なる時代の英国の文化や価値観。唯一認識できる"フランケンシュタインの怪物"という要素もなかなか顔を出さないため、序盤、物語に没入するための糸口を見出せずにいた。しかし、途中で気付くはず。現代にも通ずる女性蔑視などの問題がつづられていくのも確かだが、真に描かれていたのは、夢との向き合い方であることに。
時代・国・性別・家庭環境のせいか、メアリー(エル・ファニング)には夢をかなえたり現状を打破したりするための手立てが何もない。そんな状況下で救いの手を差し伸べられようものなら、どんな小さな光であっても、すがらずにはいられない。そうして彼女は詩人のパーシー(ダグラス・ブース)と駆け落ちする。しかし、他力本願ではいざという時に何もできない。自ら発した光でない以上、そんな資格も有していない。本来、光を発せられるよう導き後押しするのが親の役目。けれど、生まれたと同時に母を亡くし、父は再婚相手に気を取られてばかり。それ故、メアリーは自ら光を発する術を見出せない。とは言え、自分の人生、誰のせいにもできやしない。与えられなければ、自らつかみ取りにいくしかない。何度も間違え傷ついていく中で、光を発することを迫られるメアリー。それができなければ、他者の光に一生すがって生きていくしかない。頼れる者も、逃げ込む場所も失い、ドン底で彼女が絞り出した光。それこそが小説「フランケンシュタイン」であった。
『メアリーの総て』
© Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017
たとえ他者の光より儚くとも、自ら発した光であれば、心持ち次第でいかようにも輝きは増していく。主導権は自らが握っているのだから。夢をかなえられずもがき続けている者にとって、彼女が抱える葛藤は決して他人事では済ませられない。自ら光を発することの難しさ、誰かに便乗しているうちはどうにもならないことなど、多くの事実をこの作品は突き付けてくれることだろう。
メグ・ウォリッツァーの小説の映画化。本作で第76回ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門主演女優賞に輝いたグレン・クローズと名優ジョナサン・プライスが夫婦役を演じた。現代文学の巨匠として名高い夫のノーベル文学賞受賞を機に揺れ動いていく妻の心模様を通し、決して軽んじてはならない人とのつながりを描き出す。
『天才作家の妻-40年目の真実-』1/26(日)よる9:00他
©META FILM LONDON LIMITED 2017
あらすじや予告編を見れば、ゴーストライター云々や、夫婦の秘密に迫っていく物語の方向性がある程度読み取れる。そして、本作の筋立てはそれ以上でもそれ以下でもない。想像を上回るような意外性や大どんでん返しはない。むしろ、真実が明らかになっていくまでの過程や、夫婦の心の揺らぎにこそ最大の魅力が詰まっている。夫婦として、作家として、根っこの部分で信頼し合ってきた者同士の確かなつながり。それが綻びていく様を、音を立てて壊れる様をあなたは目にする。
『天才作家の妻-40年目の真実-』
©META FILM LONDON LIMITED 2017
一番身近にいる大切な人。相手は無条件に愛情や誠意を注いでくれているわけじゃない。こちら側からも注ぎ込む愛情や誠意があってこそ、対等に互いを思いやっていてこそ、絶対的な味方でいてくれる。わずかでも相手を軽んじたり、その存在を否定したりすれば、言わずもがな関係性は崩れていく。長きにわたり手を抜いてきた夫と、我慢し続けてきた妻。良い時もあれば悪い時もあるのが人生、何が正解で何が不正解だなんて当事者間でしか決められない。ただ、身近な人との関係性を見つめ直すキッカケをこの作品は与えてくれる。
『天才作家の妻-40年目の真実-』
©META FILM LONDON LIMITED 2017
バットマンやスーパーマンと世界観を共有するDCエクステンデッド・ユニバースの第7作。身寄りのない14歳の少年ビリー(アッシャー・エンジェル)が不意に手にした、「シャザム!」と唱えると勇者シャザム(ザッカリー・リーヴァイ)に変身できる力と、周囲の人々と向き合う彼の姿が、正しい心を育むために必要なものを教えてくれる。
『シャザム!』1/25(土)よる8:00 他
© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. SHAZAM! and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.
シャザムの力を使いこなすためには、正しい心が必要だと魔術師(ジャイモン・ハンスウ)は言う。そして、力の後継者として選出されるのはいずれも純粋さを併せ持つであろう子どもたち。ただ、純粋さと正しさは、必ずしも"="で結び付けられるとは限らない。物事の分別がつく前の子どもは皆純粋であるが、純粋であるが故に間違いも犯す。むしろ、純粋であったが故に悪に堕ちたのが本作の敵シヴァナ(マーク・ストロング)。人は間違えて、後悔して、死にもの狂いではい上がって、ようやく大切なことに気が付ける。その繰り返しの果てに心は研ぎ澄まされ、本当の正しさを身に付けていくものではないだろうか。
『シャザム!』
© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. SHAZAM! and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.
幼い頃に母と生き別れ、里親の元を転々としてきたビリー。誰も信じず、拒絶し、はい上がる術もない。そんな彼が正しさを身につけられるはずもない。にもかかわらず後継者に選ばれたのはなぜか。魔術師に残された時間がわずかなこともあるが、一瞬でも他人のために力を振り絞ることができたから。そう、今の自分が全てじゃない。今はダメでも、他者から向けられた思いや願いを糧とすることで、正しさを手にする可能性を人は秘めている。基本的には笑える作品だが、物語の端々で信頼されている者とそうでない者との違いがくっきりと見えてくる。ひとりではどうにもできないことでも、信頼関係があれば乗り越えられることもあるのだと目の当たりにできるはず。
『シャザム!』
© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. SHAZAM! and all related characters and elements are trademarks of and © DC Comics.
それぞれ系統は異なりながらも、どれも胸打つドラマを宿した3作品とともに、新年も素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
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文=ミヤザキ・タケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。
[放送情報]
メアリーの総て
WOWOWシネマ 1/8(水)よる6:45
WOWOWシネマ 2/13(木)午前6:45
天才作家の妻-40年目の真実-
WOWOWシネマ 1/26(日)よる9:00
WOWOWシネマ 2/6(木)午後3:00
シャザム!
WOWOWシネマ 1/25(土)よる8:00
WOWOWプライム 1/26(日)午後1:00
WOWOWプライム 1/27(月)よる7:45
WOWOWシネマ 2/2(日)午前9:45
WOWOWシネマ 2/11(火・祝)午前5:45
WOWOWプライム 2/27(木)午後5:30
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