「第92回アカデミー賞授賞式」2/10(月)午前8:30他
文=前田かおり
今年もいよいよやって来る、世界最高峰の映画の祭典、アカデミー賞授賞式。第92回を迎える今回は例年より約2週間も早い、2月9日(現地時間)に開催される。しかも、今年は何かと話題に事欠かない。Netflix制作の映画が計24部門でノミネートされ、制作会社別ではウォルト・ディズニーの23部門ノミネートを抑えて、最多ノミネートとなった。
作品別では『ジョーカー』が最多11部門にノミネートされている。アメコミ映画として世界3大映画祭の第76回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したのをはじめ、多くの賞レースを制している。アカデミー賞で作品賞を受賞すれば、さらなる快挙となる。『ダークナイト』('08)で同じジョーカー役の故ヒース・レジャーが助演男優賞を受賞しているが、本作ではホアキン・フェニックスがアメコミ映画で初めて主演男優賞にノミネート。今回は一番オスカー像に近く、手にするのも夢ではなさそうだ。
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9部門10ノミネートされているマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』はNetflix映画。もし作品賞を受賞すれば、前回、同社作品の『ROMA/ローマ』('18)が手にすることのできなかった配信系作品での初受賞という栄誉に輝くことになる。
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最も話題を集めているのが、『パラサイト 半地下の家族』だろう。韓国映画として初めての作品賞に監督賞、脚本賞、国際長編映画賞(これまでの外国語映画賞)など6部門にノミネート。これだけでも快挙だが、受賞すればそれこそ初めてだらけの栄誉となる。
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というワケで、初めてずくめの第92回アカデミー賞授賞式開催を前に、アカデミー賞を飾ったあんな初めて、こんな初めてを振り返ってみたい。
●女性監督の初受賞
2009年の第82回、キャスリン・ビグローが『ハート・ロッカー』で女性監督として史上初の受賞。ちなみに、この年のアカデミー賞では元夫のジェームズ・キャメロンの『アバター』と賞レースを争い、同作は作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響編集賞、録音賞の6部門を制した。
女性監督賞のハードルは高く、過去にノミネートされたのは、ビグローを含めて『セブン・ビューティーズ』(第49回)のリナ・ウェルトミューラー、『ピアノ・レッスン』(第66回)のジェーン・カンピオン、『ロスト・イン・トランスレーション』(第76回)のソフィア・コッポラ、『レディ・バード』(第90回)のグレタ・ガーウィグのたった5人。ガーウィグは今回の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』では監督賞でなく、脚色賞でノミネートされている。
●アフリカ系初のアカデミー賞受賞
歴史的には、『風と共に去りぬ』('39)でヴィヴィアン・リー演じる主人公スカーレット・オハラのメイドを演じたハティ・マクダニエルが助演女優賞を受賞したのが、アフリカ系アメリカ人にとって初めてのオスカー像だった。初の主演男優賞は、『野のユリ』('63)のシドニー・ポワチエ。この時、『卒業』('67)で知られる女優アン・バンクロフトがポワチエの頬に軽くキスしたことが保守層の間で物議を醸した。次の主演男優賞受賞は、38年後、『トレーニング デイ』('01)のデンゼル・ワシントンだった。
●アフリカ系女優初の主演女優賞は
『チョコレート』('01)のハル・ベリー。ちなみに、『キャットウーマン』('04)で第25回ゴールデン・ラズベリー賞最低主演女優賞を受賞した彼女は、オスカー像を持って会場に駆け付け、スピーチまでするという太っ腹なところを見せて、女を上げた。
●アフリカ系男優と女優が初めて助演部門でW受賞
第89回に『フェンス』のヴィオラ・デイヴィスと『ムーンライト』のマハーシャラ・アリがそろって受賞したのが初めて。第91回でも『グリーンブック』のマハーシャラ・アリと『ビール・ストリートの恋人たち』のレジーナ・キングがW受賞を果たした。
「第92回アカデミー賞ノミネーション~栄光と歓喜の瞬間~」2/1(土)深夜1:20他
第91回アカデミー賞授賞式より Mike Baker / ©A.M.P.A.S.
●日本人の初受賞
『巨星ジーグフェルド』('36)で美術賞にエディ今津が、日本人初のノミネート。初受賞は『羅生門』('50)の黒澤明監督の名誉賞。俳優の初受賞は『サヨナラ』('57)のナンシー梅木の助演女優賞。そのほか、『乱』('85)でワダ・エミが衣装デザイン賞受賞、1988年『ラストエンペラー』('87)で坂本龍一が作曲賞を受賞。辻一弘(現カズ・ヒロ)が『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』('17)でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞(ちなみに3度目のノミネートで、今回は『スキャンダル』で同賞にノミネートされている)。
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』2/2(日)よる9:00他
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●日本作品の外国語映画賞受賞
第29回に『ビルマの竪琴』('56)が初ノミネートされ、第48回で黒澤明監督の『デルスウザーラ』('75)が受賞する(同作は日ソ合作)。日本の単独製作での初受賞は、『おくりびと』('08)だった。
●日本初の長編アニメーション受賞作
2001年の第74回から新設された部門で、翌第75回にスタジオジブリ作品の『千と千尋の神隠し』が日本初の受賞。第91回に『未来のミライ』('18)がノミネートされるまで、本選までに進んだのはすべてジブリ作品だった。
『未来のミライ』2/1(土)午前5:00他
©2018 スタジオ地図
●動画配信サービス製作の映画が初の作品賞&外国語映画賞Wノミネート
第91回のアルフォンソ・キュアロン監督によるNetflix映画『ROMA/ローマ』。メキシコ代表作として出品され、作品賞、監督賞など同年最多の10部門にノミネート。監督賞、外国語映画賞、撮影賞の3部門を受賞している。
●兄弟でノミネート
リヴァー・フェニックスは『旅立ちの時』('88)で第61回の助演男優賞にノミネート。弟のホアキン・フェニックスは、『グラディエーター』('00)で助演男優賞、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』('05)と『ザ・マスター』('12)で主演男優賞にノミネートされてきたが、いまだ受賞ならず。今年は『ジョーカー』で受賞するか?
●姉妹で主演女優賞を受賞
ちょっと古くなるが、『断崖』('41)で受賞したジョーン・フォンテインと、『遥かなる我が子』('46)、『女相続人』('49)で受賞のオリヴィア・デ・ハヴィランド。
●夫婦で受賞
ローレンス・オリヴィエとヴィヴィアン・リーが夫婦だった時(1940~'60)に、オリヴィエが『ハムレット』('48)で主演男優賞、リーが『欲望という名の電車』('51)で主演女優賞を受賞。ちなみに今回、『マリッジ・ストーリー』を手掛けたノア・バームバックと、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ両監督は私生活のパートナー。監督作品がそろって作品賞にノミネートされている。
●死後受賞したのは
『ネットワーク』('76)で渾身の演技を見せたピーター・フィンチは主演男優賞にノミネートされた直後、急性心不全で死去し、アカデミー賞史上初の演技部門の死後受賞となった。助演男優賞の死後受賞は、『ダークナイト』('08)のヒース・レジャーが初めての例となっている。
さまざまな「アカデミー賞の初めて物語」。果たして今回はどんな初が生まれるだろうか。
「第92回アカデミー賞 直前総予想」2/8(土)よる9:00他
第91回アカデミー賞授賞式より Todd Wawrychuk / ©A.M.P.A.S.
文=前田かおり
映画、海外ドラマ・ライター。「日経エンタテインメント!」「DVD&動画配信でーた」「SCREEN」ほか情報誌、WEBなどで執筆中。また「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」に寄稿。
[放送情報]
第92回アカデミー賞授賞式
WOWOWプライム 2/10(月)午前8:30
WOWOWプライム 2/10(月)よる9:00
WOWOWプライム 2/16(日)よる8:15
WOWOWプライム 3/1(日)よる10:00
WOWOWプライム 3/3(火)よる9:15
第92アカデミー賞ノミネーション徹底紹介
WOWOWプライム 2/1(土)午後4:15
WOWOWプライム 2/2(日)午後2:10
WOWOWプライム 2/4(火)よる9:00
第92回アカデミー賞ノミネーション~栄光と歓喜の瞬間~
WOWOWプライム 1/30(木)よる10:50
WOWOWプライム 1/31(金)よる9:45
WOWOWシネマ 2/7(金)午前9:20
第92回アカデミー賞 直前総予想
WOWOWプライム 2/8(土)よる9:00
WOWOWプライム 2/9(日)午前10:00
WOWOWプライム 2/10(月)午前7:30
未来のミライ
WOWOWシネマ 2/1(土)午前5:00
WOWOWプライム 2/13(木)よる6:00
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
WOWOWシネマ 2/2(日)よる9:00
WOWOWプライム 2/6(木)よる8:50
WOWOWシネマ 2/13(木)午後2:45
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