2020/02/01 up

2月のWOWOW初放送映画 厳選3作品

「グリーンブック」2/8(土)よる8:00他

 映画アドバイザーのミヤザキタケルが、各月の初放送作品の中から見逃してほしくないオススメの3作品をピックアップしてご紹介! これを読めばあなたのWOWOWライフがより一層充実したものになること間違いなし!のはず...。

 今月は、アメリカ・フランス・デンマーク、異なる国で生み出された3本を紹介します。

文=ミヤザキタケル


『グリーンブック』('18)

 第91回アカデミー賞作品賞・助演男優賞・脚本賞受賞作。本作の脚本家であるニック・ヴァレロンガの父親と黒人ピアニストの実話を描いた物語。人種差別の色濃い1960年代の米南部での2カ月に及ぶ演奏ツアーに臨むピアニスト、ドン(マハーシャラ・アリ)と、彼の運転手兼ボディーガードのトニー(ヴィゴ・モーテンセン)の旅路を通し、人に宿りし善意と悪意、他者を理解することの難しさと価値をつづった作品です。

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detail_200201_photo02.jpg『グリーンブック』
© 2019 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 グリーンブックとは、1936~'66年までヴィクター・H・グリーンによって毎年出版されていた、黒人が利用可能な施設を載せた旅行ガイドブックのこと。今を生きる僕たちなら、それがあり得ない代物だと理解できるが、その本がないと安心して各地を回ることのできない時代が確かにあった。映画はあくまでも男たちの関係性や友情が物語の中心であり、エゲツない描写は極力控えられてはいるものの、物語の節々で耐えがたい理不尽さが顔を出す。タイトルに込められた意味を、時代は違えど同じ人間の歴史を描いていることをかみ締めながら本作に向き合って頂きたい。

 他者を理解するということは、相手の良い部分にも悪い部分にも触れるということ。自分を理解してもらうということは、自分の良い部分も悪い部分もさらけ出せるということ。あなたの家族・恋人・友人たちとの関係性に当てはめてみれば分かるはず。長く一緒にいる人は、あなたの両面を知っているし、あなたもまた相手の両面を知っている。そして、悪い部分を凌駕するだけの良い部分を知っているからこそ多くを許せる。育ちも性格も何もかもが真逆のトニーとドンだが、ツアー中に相手の良い部分にも悪い部分にも触れ、互いの強さや弱さを知っていく。その果てに友情だって芽生える。だが、ドンに降りかかる差別というものは、拒絶と暴力の権化であり、相手を理解するつもりなど毛頭ない。悲しいけれど、どれだけ歩み寄ろうと差別の前では相互理解などかなわない。

detail_200201_photo03.jpg『グリーンブック』
© 2019 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 負の感情にとらわれて生きていれば、嫌なことばかり目に付くようになる。他者の気遣いや優しさを無下にしてしまうことも多くなる。でも、世の中そう悪いことばかりじゃない。他者と分かり合うことは難しいけれど、ふとした瞬間にその理から抜け出せる瞬間もある。そんな一瞬を見落とさないため、踏みにじらないため、僕たちは何をしていくべきなのか。男たちの友情と劇中でほのめかされる悲惨な差別の歴史が、そのヒントを示してくれる。


『おかえり、ブルゴーニュへ』('17)

 フランス映画界を代表する名匠セドリック・クラピッシュ監督作。ワイン醸造家だった父が死を目前にしたのを機に10年ぶりの再会を果たした3兄妹の関係性やワイン造りを通し、ブルゴーニュの美しさと人生の醍醐味を感じさせてくれます。

detail_200201_photo04.jpg『おかえり、ブルゴーニュへ』2/9(日)よる11:30他
©2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA

 思い描いた理想のワインを造るためには、収穫時期や天気などありとあらゆる要素が絡んでくる。人生においても望んだ結果を得たいのであれば、それを得るために必要なものが絶対にある。何を望むかにもよるが、自分ひとりでは果たせないことが、何かしらの支えを得なければ成し遂げられないことがたくさんある。その上でひとりで生きていくことを選ぶ人もいるだろう。誰かと支え合いながら生きていくことを選ぶ人もいるだろう。人生に明確な答えがないように、そこに正解・不正解はない。ただ、どちらを選ぶにしろ、その決断に至るまでの過程が必ず存在する。

detail_200201_photo05.jpg『おかえり、ブルゴーニュへ』
©2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA

 父親不在のブドウ収穫や相続問題、個々に抱える事情など、数々の困難に直面する3兄妹。時にぶつかり、時に笑い、時に涙し、親を欠いた新たな家族の関係性を構築していく。ワイン造りと並行して描かれていくのは、他者とのつながり、この先の未来と向き合うための心持ち。ひとりでは乗り越えられない数々の問題を前に、どうしたら力を合わせられるのかを模索する。そういった過程にこそ、今を生きる僕たちの心を突き動かすものが宿っている。

detail_200201_photo06.jpg『おかえり、ブルゴーニュへ』
©2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA


『THE GUILTY/ギルティ』('18)

 電話の声と音だけを頼りに誘拐事件を解決するという設定が話題を呼び、世界中の映画祭で称賛され、ハリウッド・リメイクも決定している、グスタフ・モーラー監督によるデンマーク産サスペンス。事件と対峙する緊急通報指令室のオペレーターのアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)の姿を通し、一歩踏み出すために必要なものを映し出す。

detail_200201_photo07.jpg『THE GUILTY/ギルティ』2/23(日・祝)よる9:00他
©2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

 電話相手の顔も居場所も映されず、指令室にいるアスガーと同僚たちの姿のみで話が展開していくワンシチュエーションもの。89分の上映時間はリアルタイムとして描かれ、観る者はその場に居合わせたような感覚に陥るはず。また、電話から聞こえてくるありとあらゆる"音"が、あなたの脳内にさまざまな映像を浮かび上がらせることだろう。

 誰もが自分の力を過信しがち。アスガーもそう。誘拐事件解決のためオペレーターという枠から徐々にハミ出していく。だが、冷静さを欠いていては、独り善がりでは、状況判断を見誤る。彼が押し通そうとする正義は、独断専行であり、ただのエゴでもある。力を行使できるだけの資格を得た者だけが許されることを、資格を持たない彼がやってしまう。目の前の問題をクリアにしない内は前には進めない。無視して進もうとしても、どこかで必ず壁にブチ当たる。先延ばしにすれば、いつの日か取り返しがつかなくなる。その事実を目の当たりにするのと同時に、彼がいかなる選択をするのか見届けてほしい。尺はたった89分でも、そこには人生が、人と人との関わりが、正義のあり方が、ドン底から踏み出すための手段が描かれている。

detail_200201_photo08.jpg『THE GUILTY/ギルティ』
©2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

 国は違えど、感動する心は万国共通。心を揺さぶる3作品とともに、素敵なWOWOWライフをお過ごしください。

detail_200201_photo09.jpg『THE GUILTY/ギルティ』
©2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

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  • 文=ミヤザキ・タケル
    長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。


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[放送情報]

グリーンブック
WOWOWシネマ 2/8(土)よる8:00
WOWOWプライム 2/10(月)よる6:45
WOWOWシネマ 2/16(日)午前10:00
WOWOWプライム 2/25(火)よる7:45
WOWOWシネマ 3/6(金)よる10:45

おかえり、ブルゴーニュへ
WOWOWシネマ 2/9(日)よる11:30
WOWOWシネマ 2/26(水)深夜1:50

THE GUILTY/ギルティ
WOWOWシネマ 2/23(日・祝)よる9:00
WOWOWシネマ 3/5(木)午後3:05
WOWOWプライム 3/24(火)午後5:30

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